プロローグ
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「申し訳ございませんでしたっっ!!」集団の先頭、シンプルながらもそこはかとなく偉そうな格好をした男が開口一番怒鳴ったのがこのセリフである。「いや、あの…何についての謝罪なんですかね…?そもそもここどこ。アンタらだれ?」
状況は一応把握している。俺は死んだ。それも考え得る限り最低最悪の死に方だ。それは覚えてる。けどな、「これは一体全体どういうことだぁ⁈」「申し訳ございません。それについてはこのボンクラに代わってこの私が」そう言いつつリーダーと思しき男の後ろにいた美女が進み出てきた。ボンクラて。
「まず、ここは所謂死者の世界です。それについては把握してらっしゃるご様子ですので省略しますね。私たちは此処で世界間のバランスを制御したり、死んで行き場のなくなった魂を他の世界に振り分けています。まあ要するに、私たちはあなた方の指す『神』そのもの、と言える存在です」はあ、さいですか。
「思ったほど驚かないのですね…で、この状況ですが…先程魂の振り分けを行っていると言いましたが、その際に魂の汚染度を測定しています」「あー、前世で良いこといっぱいしたら来世が良い人生になる的な?でもそれがどうかしたか?」
「実は…この馬鹿がある魂を世界に送り込む際、汚染度が高くないのに誤って汚染度が高い場合の対応をしてしまったのです」「………は?」どういうことだ?
「魂の汚染度が高い場合、それを取り除く為には魂を洗浄しなくてはいけませんが…その場合、その魂が持っている『運命力』と言うべきもの…言うなれば魂の持つ『人生を廻すためのエネルギー』も一緒に洗い流されてしまうのです」「オイちょっと待て、さっき言ったある魂ってまさか…」
「……ええ。貴方のものです」「なっ…!」言葉が出ない。「気づいた時にはもう手遅れ…私たちには黙って見ている他無かった」なんだそれ。それでは、自分の人生の意味は何だったのか。「…俺は、」「ええ、私たちが殺したようなものです。故に此処であなたを待っていた。貴方に謝罪と、その償いをするために」
償い…?馬鹿を言うな。そんなことされたところで今更何になる。「…もう遅ェよ。言うに事欠いて償いだと…笑わせんな!お前らのせいで一体どんな目に遭わされたと思ってる!俺だけじゃねェ、俺の周りの人間も、家族も、みんな不幸になっちまった!それを…今更謝罪だとか言ったってもうどうにもなんねェんだよ‼」
「…済まない」さっきから土下座を続けていた神が押し殺したように台詞を絞り出した。
「…謝って済むなら警察は要らねぇんだよ」「分かっている。こんなことをした所で貴方の失われた時間は還ってこない。でも、それでも私は此処で貴方に謝らなくてはならない。貴方に対して、責任を取るために」
「ハッ…責任だと…」「ええ…何度も言いますが、あなたの肉体はすでに滅びています」さっきの女神が台詞を引き継いで俺に話しかけてくる。「ですがここは魂を新しい場所へ送り出す場所。新しい肉体に魂を入れなおせばまた貴方の世界へ戻る事ができます…記憶を引き換えにですが」
…だが、そんなことをした所で、「ああそうさ、お前さんの失ったモノは還ってこない。でもだからこそ、お前さんは未来を見なきゃならん。それとも過去に囚われて、生きることも棄てるのか?そんなこと、お前さんが失ったモノが望んじゃあいないだろう」誰だろうか、若い声の何者かが背後で俺に語りかけてきた。
振り返ってもそこにあるのは底無しの『白』である。「過去に生きるのはお前さんの勝手だ。だが絶望を飲み下して前を向けるのが人の強さだとオレは思うぜ」いつの間に背後に回ったのか、さっきの声が俺に語りかけてきた。「人の強さ…」「ああそうだ」声は俺の耳元で囁くように声を掛ける。
「フム…まだ迷っているな。ならオレがお前さんにもう一つの選択肢を与えてやろう…どうだ?お前さん、別の世界に行ってみる気はないか?」…どういうことだ?説明しろ。
「いやなに、お前さん、自分の記憶に未練があるようだったんでな。別の世界で体を新しく用意して、その中に魂だけのお前さんを収めれば、記憶はそのままで別の世界に行けるって寸法だ。まさに今流行りの『異世界転生』って奴だな!」
カラカラと、笑いながらも声は演説を続ける。「別に悪い話じゃなかろう…慰謝料代わりに体の方はゴリゴリに強化しとくし、削れちまった魂も当然元に戻しておく。その上で別の世界に行くんだ、きっとスゲー刺激的な人生になるぜぇ!」
…分かった。だが少し、少しだけでいい。俺に時間をくれ。
「了解。だがあまりダラダラするなよ?」
体感でどの位経っただろうか。ほんの数分?それとも数日?時間の感覚が無いから分からなくなる。でも、今の魂だけの俺でも、もうそろそろ決めなきゃいけないことだけは理解できた。
「どうよ?決心はついたか?」「…ああ」
俺は…「異世界に行く」
あの世界で「俺」は生まれ育った。そこには家族との思い出や友達との記憶が残っているだろう。もしかしたら、何かの拍子で前世の記憶を思い出すかもしれない。あの女神もそう言っていた。その可能性は正直…俺にとって魅力的だった。だが…それ以上に、あの世界が憎い。俺たちを殺した、あの世界が憎らしくて仕方がない。…だから、例え全ての記憶を失っても、あの世界で生きるのだけは御免被る。なら他の世界で、もう失われた記憶を胸に生きる方が何億倍もマシだ。
「そうかい…分かった。体の方はとっくに準備万端だ。あとは…飛び込むだけだぜ」その言葉と共に『白』の一角が門のように開かれる。その先は光に満ちていた。
「…」ふと、後ろにいる神々に視線をやる。旅立つ前にどうしても言わなければ、言っておかなければならないことがある。
「俺はアンタたちを一生許さない」どんなに言い繕っても、彼らのせいで俺が死に、俺の周りの人たちの人生が滅茶苦茶になってしまったのは変えられない事実だ。だからこそ、俺はこの場で言っておく必要があった。「だから、あんた達も一生…神様に寿命とかあるのか知らんけど、とにかく忘れないでくれ。『自分たちは取り返しのつかないことをしてしまった』と」もう二度と、俺のような奴を出さないためにも。
吐き捨てるように言いたいことを言った俺はそのまま光に飛び込…「分かった」…まずに彼らに向かって少し振り返る。
「だから、君もどうか、その先で幸せに生きてくれ。例えどんなことがあったとしても、道を見失わず…君の思うままに生きてくれ。それが…彼らにとって何よりの弔いになる」そうリーダー格の神が言い終えた後、彼は改めて深々と頭を下げた。他の連中もそれに続く。
それをほんの一瞬視界に捉えてから、俺は今度こそ、光の洪水の中に飛び込んだ。
「行ったか」「ええ…」彼がいなくなった『白』の世界。再び人がいなくなったそこで、神々は話を続ける。「なにが『行ったか』だ。元はと言えばお前のせいであいつは要らん苦労をすることになったんだぞ?」どこからともなく現れた声の主は、この世の物とは思えないおぞましい姿をしていた。
「まあ乗せたオレも同罪だがな…いずれにせよ、これであれに対するカウンターが揃ったな。…さて、呼び寄せられし者たちよ。一体お前たちの内の誰が、彼の者を打倒するのかね?」