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気がついたら、三蔵法師になっていました  作者: 菱沼あゆ


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9/12

悟空の秘密



「ともかく、此処から先へは通しません。この者たちを城から出さないように」


 女官は控えていた女兵士たちを向いて言う。


 この国を抜けるのに通行許可証がいるというのは、姫の婿に良さそうな男を見つけては此処に引き込むための口実だったようだ、と思っている間に、兵士たちに取り囲まれた。


 悟空たちは迷っているようだった。


 振り払えないことはないが、相手が女の集団だからだ。


「待ってください」

と三蔵は小さく手を上げる。


「その者は三蔵ではありません」


 女王の目がこちらを向いた。


「わたしが本物の三蔵です。

 この者は天界で弼馬温ひっぱおんをしていた妖怪。


 わたしの命で変装しているだけなのです。


 今――


 私は命を狙われているので」


 そう言うと、弼馬温と言うなと悟空が睨む。

 弼馬温とは馬の世話役のことで、地位が低いので、悟空としては触れて欲しくない経歴らしい。


 それをわかっていて、今、言ったのは、女王の婿として、相応しくないことをアピールしようとしたためだ。


「私が三蔵です。

 ですから――」


 すると、女王はこちらを見たまま、玉座から駆け下りてくる。


 珍しいものでも見たかのように、大きな瞳を見開き、やってきた彼女は、三蔵の両手をつかむと、感激したように言った。


「まあ! こんな殿方もいらっしゃるのですねっ!」


「は?」


「まるで、麗しいお姉さまのような!」


 彼女は女官を振り返り、

「私、この方となら、結婚してもいいですっ」

 などと言い出した。


 女官は、えっ? この女装癖のある坊主と? という顔をしたが、彼女は手を離さない。


「三蔵様、今日は私と一緒にお食事してくださいませんか?」

 笑顔で言う彼女に、ああ、と思った。


 まだまだ子どもな上に、まともに男を見たこともない彼女に、結婚なんて言っても、ピンと来ていないのだ。


 悟空のような如何いかにも男っぽい男より、こういう嘘臭い男の方が落ち着くのだろう。


 女王は、悟空より玉龍の方が好みだったかな、と思いながら、

「……いいですよ」

と三蔵は笑顔で答える。


 このまま立ち去るのは無理そうだ。


 女官ももう強くは押してきそうにない。


 女王は淋しいのかもしれないから、『お姉さま』的に付き合ってやるか、と思った。


 女王は新しい遊び相手を見つけた子どものように浮かれ、部屋の用意をさせると言って、他の女官たちと出て行った。


 兵たちが距離を空け、例の高官らしい女官がやってくる。


 こちらを値踏みするように見たあと、小声で言った。


「貴方が三蔵様ですか。

 私の目には男には見えないのですが。


 まあ―― 女の匂いもしませんが」


 微妙に傷つくな。


 女ばかりの世界しか知らない女王とは違う女官の目はやはり誤魔化せないようだった。


 まあ、女にも見えないそうだが……。


「見た目男に見えずとも、貴方が女王と結婚し、跡継ぎを作ってくださるのなら。

 ぜひ、此処に残っていただきたいのですが」


 胡散臭げに見ながらも、女官は、そんなことを言い出す。


「いえ、残るつもりはありません。

 それに、私は勝手に結婚するわけにはいかないのです。


 私は、太宗皇帝と義兄弟の契りを交わしてますし」


 ま、ほんとは結婚してるんだけど。


「そうですか。

 皇帝陛下とつながりが出来るのなら、こちらとしては、かえって嬉しいところなのですが」


 こちらの言葉に、急に女官はそんなことを言い出す。


「いえ、私は命を狙われていますし。

 早く此処を出たほうが貴女がたにも迷惑がかからなくていいと思います。


 今夜は女王様に付き合いますが、明日には出立させてください」


 一応、こちらの要求を伝えたが、どうなることか。


 まあ、いざとなったら逃げ出すか。


 この悟空は、筋斗雲きんとうんに乗れない困った奴だから、多少厄介かもしないが、と三蔵は思っていた。



 



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