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帰しませんと言われました

  

 

「通行を許可しないとは、どういうことですか?」


 さて、女児国を抜けようとしたそのとき、三蔵たちは引っ立てられ、女王の居る宮殿へと連れて行かれた。


 女児国から出るには、許可証が居るらしいのだが。


 ひょいひょいと国境に居る門番が簡単に出してくれる程度のものだと聞いていた。


 ところが、三蔵一行には許可証は出せぬと門番に言われ、宮殿まで連れて来られたのだ。


 何故、通してくれないのかと問うた三蔵には直接答えずに、王座に座る女児国の女王は羽根で作られた美しい扇で隠した口許を側にひざまずいている女官に向けた。


 女官は頷き、

「お前たちのことを審議してから、許可証に判を押すと申しておられます」

と女王の言葉を伝える。


 審議って何をさ~、と三蔵は女王、とはいっても、十歳以下にしか見えない幼い少女だが―― を睨んだ。


 女王は赤と金の大人びた衣をまとい、赤い紅を塗っているが、そのせいで、余計に幼さが際立って見える。


「お師匠様、お師匠様」

と小声で沙悟浄が言ってきた。


「さっき、女官たちが教えてくれたんですが。

 女児国には入るのは簡単ですが、出るのは大変なんだそうです。


 ……男だと」


「なんだ、その性質たちの悪いアリジゴクか、蜘蛛の巣みたいなの」


 だが、たぶん、その情報には誤りがある、と三蔵は思っていた。


 商人らしい年配のおじさんたちは国境を軽く通過していったからだ。


 おそらく、この国を簡単に抜けられないのは、『男』ではない。


 なにやら厭な予感が……と思ったとき、先程の、女王と直接口をきくことを許されているらしい女官が、自分たち一団を見ながら、女王に耳打ちしていた。


 女王が自分でしゃべらないのは、彼女が高貴な存在だからではなく、まだ子どもで、ちゃんとした判断ができないからではないかと思っていた。


 いちいち、ああ言いますよ、こう言いますよ、と女官が告げてから、こちらにそれを女王の意見として、あの女官が伝えているのだろう。


 幼い女王がその威厳を損なうようなおかしなことを言い出さないように。


 だが、そのとき、女王と話していた女官が急に声を荒げた。


「あれでいいではないですか!

 高僧だし、見た目もいいし!」


「いやったらいやっ!」


 少女らしい甲高い声が白いふわふわの扇の向こうから聞こえてくる。


 漏れてますよ、声……。


 どうやら乳母的存在らしい女官は彼女に対して強い存在らしく、女王の発言を押さえ込むように声高に言うのが聞こえてきた。


「私はこういう方が好みです!」


 三蔵の扮装をしたままの悟空を指差し、女官は言い切る。


「姫様は私の言うとおりにしていれば間違いはないのです!」


 どっかの強引な母親みたいなセリフだなあ、と思いながら、一行は、内輪揉めの様子を眺めていた。


 女王の足許にひざまずいていたその女官は立ち上がり、こちらを向いた。


「三蔵様」


 様はついているが、高圧的な呼びかけだった。


 思わず、返事しそうになったが、今、三蔵なのは自分ではなかった。


 悟空が、なんだ? というように目だけで見る。


「貴方の通行許可証は出しません。

 その代わり、弟子の方がたのは即刻手配致します」


「どういうことだ?」


「この女児国では長く、子母河の水を飲み、子を孕んできました。


 でも、それでは女しか産まれません。


 次第に男は居なくなり、居た男たちも、此処での立場が弱いので、みな、出て行ってしまいました。


 しかし、この国が発展するには、今のままでは駄目なのです。


 まずは、女王様に普通に結婚していただき、子母河の力を借りずに子を産んでいただきたいのです」


「それが俺となんの関係がある」


「……この国の王になっていただけませんか?」


「断る。

 第一、私が此処に留まれば、経典はどうなる。


 太宗皇帝も民たちも、みな私が天竺から経典を持ち帰るのを心待ちにしているというのに」


 どうしよう、私より、こいつの方が立派だ……と三蔵は宮殿内に響く声で、朗々と語り出す悟空の姿に打ちひしがれる。


 まあ、悟空もちゃんと修行した僧には違いないのだが。


 なんか、立場ないな~と思っている側で、本物の三蔵を放ったまま、悟空と女官は睨み合う。


「……八戒で手を打たないか?」


 悟空は勝手に女好きの八戒を差し出そうとした。


 名指しされた八戒は複雑そうな顔をしている。


 嬉しいような困ったような。


 幾ら可愛らしい姫君とは言え、相手が子どもだからだろう。


「姫様は面食いです」


 女官は一蹴するが、先程のやりとりから察するに、面食いで悟空が好みなのは、どうやら、この女官のようだった。


 そう。

 この女児国を抜けられないのは、『男』でない。


 この女官が好みそうな『美男』だけなのだ。




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