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片恋


ーーあなた、アルブレヒト殿下に恋をしてるのよ。


姉たちが言った言葉が脳裏に反響する。

恋ーー恋ーーこれが、恋だという。

恋は、こんなに幸せなものなのだろうか。気持ちが良くて、浸っているだけで心地いい。

アルブレヒトに、恋をしているのか、シャルロットは。


「恋……、これが……?」


なら……ならば、王妃の苦しみはなんなのだろう。

王妃は恋をしている。

それが苦しいと、悲しいと、王妃はドレスで表している。

アインヴォルフ王国の聖獣を、今もけして部屋に飾らぬ王妃は、今でもきっと、苦しんでもがいているのだ。


シャルロットは、シャルロットの居室の窓の外から見える、遠く王妃の部屋に視線を向ける。王城の中央にある、王妃の部屋。その向こう、ベルクフリートの頂上がわずかにのぞいている。

王が王妃を顧みなかったから、王妃はあんな顔をするのだろうか。


「シャルロット?」

「どこが痛いの?」


姉たちがシャルロットの頰にそれぞれ触れる。

温かくて、それがアルブレヒトの手の温度と違うことに気づいて、シャルロットの目から一筋の涙がこぼれた。


「あれ、わたし、どうしたのかしら」


不思議に思って涙を拭う。

そうして、その冷たさに、ああそっかとシャルロットは納得した。

すとんと、腹のなかに重りが落ちるような感覚。背筋がしゃんと真っ直ぐになって、代わりに、恋というものの奥深さにくっと歯を噛んだ。


「ああ、わたし、アルブレヒトさまのこと……」


シャルロットは、アルブレヒトに恋をしていた。

シャルロットは、ひどく納得してしまった。


「痛いの?シャルロット」

「悲しいの?シャルロット」


泣かないで、とは言わない姉たちの優しさがじんわり染みる。

シャルロットはアルブレヒトのものだ。

それが最上の幸福だと思っていればよかった。

知りたくはなかった、けれど、知っていなくてはいけなかった。


アルブレヒトは、シャルロットの所有を口にした。けれど、その実、アルブレヒトのことは、シャルロットにくれはしなかった。


アルブレヒトにとって、シャルロットは犬だ。愛犬だ。

シャルロットはアルブレヒトの犬にはなれても、恋人にはきっとなれない。

家族だけれど、恋心はもらえない。

王妃の気持ちが、とてもよくわかった。


恋は幸せで、恋は残酷で、同時に恋は、長い長い忍耐の、はじまりなのだ。


片恋のなんと切ないことか。

シャルロットは、どうしようもなかった。

氷の王太子。この名前は、春に生まれたシャルロットにとって、ひどい皮肉だ。

氷は春には溶けてしまう。春は氷といられない。


ぎゅっと胸元で握った手は、シャルロットがもつ権利を、けして離すまいと握りしめているのに違いなかった。



ヴィルヘルム「これが両思いじゃなければ世の恋愛小説は須らく破滅へのプレリュードだよ」

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