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姉たちの襲来


アルブレヒトは、この頃夜にシャルロットの元へ訪うだけでなく、昼間も暇を見つけてはシャルロットに会いに来るようになった。

シャルロットは幼い子供ではない。もう不安になって震える日もすっかりなくなって、抱きしめられなくても寝られるようになった。

それをアルブレヒトに言うと、アルブレヒトはいつだって、暗い色をした目を異様なほどに輝かせて、こう返すのだ。


「シャロがかわいくてたまらないから……抱きしめさせてほしい」


と。シャルロットはその顔をされると本当にダメになってしまって、ただもうはいと言うしかできなくなるのだった。

それを諌めるのは毎回シャルロットに浸水する侍女たちで、口を揃えて甘やかしてはなりません!と叱った。


「いくら王妃殿下がお許しになっても、このアンナはアルブレヒト様の暴挙を許しませんよ!そりゃあ、おひいさまがアルブレヒトにご寵愛されているというのは周知の事実ですが!せめて結婚式をあげてからになさってください!」


それでも離れようとしないアルブレヒトは、ムッとした様子で、手は出していない、それに仕事は終わらせてきたからと言って、本当に終わらせた仕事をつらつらと述べていく。


なんだかそれが子供っぽくて、シャルロットはいつもアルブレヒトの頭を撫でたい気持ちを抑えるのが大変なくらいだった。

でも、手を出すとはどういうことだろう。今度アガーテとクロエに聞いてみようか。

そう思ったのが、昨日のこと。





「シャルロットに会いたくて来ちゃったわ」

「権力ってこう使うのよね」


髪を左右非対称に結い上げた双子の姉が、同じエメラルドグリーンのドレスを身にまとい、シャルロットの住まいへやって来たのが、今日のことだ。

見た目がそっくりの姉は、声もそっくりで、少しだけ落ち着いた声色は、それでも前回会った時と変わりなく、シャルロットを安心させた。


「お姉さまたち、ようこそいらっしゃいました」

「まあ!シャルロットがお辞儀してくれたわクリスティーネ!なんて良い子なのかしら!」

「なんてかわいいの!ね、アレクシア!さすが私たちの世界で一番可愛いシャルロットね!」

「ありがとうございます、お姉さま。でも、わたしだってもう16になりますもの。きちんとお勉強もしているんですよ」


手と手を取り合ってはしゃぐ姉たちはシャルロットを元気にしてくれる。

シャルロットも嬉しくなって、姉たちの勧めるままにお土産のお菓子を口にした。


「このドラジェ、大好きでした。久しぶりに食べても美味しいままです」

「本当?料理長も喜ぶわ」

「シャルロット様のために命をかけて作るって言っていたものね。私達もご相伴に預かれて本当に幸運」


かりりと砂糖を噛むと、中からアーモンドが出てきて香ばしく舌を楽しませる。

そう、アーモンドが。

反射的に、アルブレヒトにキスをされた時のことを思い出して頬が熱くなる。

それに気付かない姉たちではない。


「あら?どうしたの、かわいいシャルロット」

「ほっぺたが真っ赤よ、かわいいシャルロット」


姉たちが声を揃えて言う。シャルロットはどうにも恥ずかしくって、口をもごもごさせてあーとかうーとか声にするのが精一杯だ。


「もしかして、恋かしら、シャルロット」

「初恋ね!シャルロット。お相手はだあれ?」

「そんなの決まってるじゃない、クリスティーネ」

「まあ、それはそうよね、アレクシア。あいつ以外いないわね……」


目配せし合う姉たちは、じっとシャルロットを見つめていた。どうやら言うまで解放してくれる気はなさそうで、シャルロットはますます顔を赤くしながら、林檎みたいな頰を押さえて先日のことを口にした。


「アルブレヒトさま、に、キスをされて」

「まあ、手が早……えふん、続けて?」

「わたしが、アルブレヒトさまのものだって」

「まあ、あのやろ……えへん、それで?」

「お姉さまたち、風邪をひいたの?」

「いいえ、なんでもないのよシャルロット」

「そうよシャルロット、けして私たちからかわいいシャルロットを奪ったあんちくしょうをどうにかしてやりたいなんて、ちびっとも思っていませんからね」


姉たちが食い気味に断言したので、シャルロットはそうなのね、と納得した。

純粋培養どころか不純物の一切入らぬよう育てられているシャルロットを見て、逆に姉たちは少し心配になった。


さておき、けれど、それで少しだけ落ち着いたシャルロットは、やはり熱い頰を両手で押さえ、震えるような歓喜を思い出しながら口を開いた。


「離れちゃだめって、言われたの……!」


きゃあ、と恥ずかしくてかぶりを振ったシャルロットを、姉たちは少しどころではなく心配に思った。

かわいいかわいい妹は、憎いあんちくしょうーー王太子アルブレヒトに毒されているような気がする。


「そ、それであなたはどう思ったのシャルロット」

「クリスティーネお姉さま」

「そう、それが一番大事よシャルロット」

「アレクシアお姉さま」


シャルロットは少し考えて、


「とっても嬉しかったわ……」


と答えた。ーーが、その答えは姉たちの度肝を抜いたらしかった。


「待ってちょうだいかわいいシャルロット、それだけなの?」

「ええ、ええ、今のは聞き捨てならないわ。流石にあんちくしょうがかわいそうになってきたわ」


当然立ち上がったクリスティーネとアレクシアが、狼狽えたように口にする言葉に、シャルロットはこてんと首を傾げた。

そうして、次の瞬間ーーシャルロットは、人が膝から崩れ落ちるのを、初めて見ることとなった。


「いいこと?シャルロット、よく聞いてね」


クリスティーネが言い聞かせるように、シャルロットの肩にそっと手をやる。


「シャルロット、これはとても大事なことよ」


アレクシアが、前のめりになってシャルロットの手を取った。


そうして、息ぴったりに、同時に、同じ音量で叫ぶ。


「あなた、アルブレヒト殿下に恋をしてるのよ!」


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