第2章プロローグ 恋とはどんなものかしら
恋、こい、初恋。
甘いものだという。苦いものだという。
王妃が語って聞かせてくれたことには、初恋はけして楽しいばかりのものではないのだと。
今も、愛犬の思い出と共に自室へ閉じこもった王を思っているのだろうか。
遠くに見える、城の端。王はこの間、住む場所をベルクフリートへと移した。
王妃の窓から眺めることのできる塔ーー戦争中にしか使用しない、忘れ去られて久しい建物に、わざわざ移動したのは、臣下たちの声がうるさかったからかもしれない、とアルブレヒトは苦笑した。
そんなアルブレヒトは、王の承認のいる書類でも、もう自分で処理するようになっていた。
王妃は恋をしていたのかもしれない。
遠くの国から、政略結婚で嫁いできた王妃ーー、シャルロットは、王の顔を見たことがないけれど、アルブレヒトに似ているというなら、きっとそれは美しいひとだったのだろう。
だから、シャルロットは恋がますますわからなくなった。
シャルロットは、アルブレヒトがこの世界で一番好きだ。アルブレヒトのためなら何度だって心臓が刃に貫かれてもいいとすら思える。
シャルロットは、アルブレヒトの愛犬だった。
「お義母さま、わたし、アルブレヒトさまが大好きよ」
「そう、ありがとう、シャルロット」
王妃がシャルロットの頬を撫でて、笑う。
「わたくしは、ずっと片想いをしているから、あなたたちが羨ましい……」
意図せず出た言葉だったのだろう。王妃は、自分が口にした言葉に気づいていないようだった。
王妃は、王がベルクフリートに行ってから、前よりずっと落ち着いた色を着るようになった。
もしかしたら、そういうものが、片想いの色なのかしらとシャルロットは思った。
深い青、濃い緑、灰色に、焦げ茶。
そういうものが片想いなら、それを内包する恋というのは、シャルロットが知らぬような、重苦しいものなのかもしれない。
窓の外に視線を向ける。ベルクフリートは、王妃を拒絶してでもいるかのように、その全てを閉ざして、堅牢に佇んでいた。




