表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小さな紅色の灯

作者: 七里 良昭

前回、陸軍ネタで書いたので、

今回は海軍ネタで書いてみました。



 レーダー照射も止めた完全な電波封鎖なうえ、灯火管制下での夜間航行。

 風は強く、波も荒い。

 夜空は曇り、星一つ見えない。


 艦長が休んでいる間、艦長から権限が一時委譲された当直士官の責任は重い。


 斜め前方、波間の間に、微かに見える小さな紅色の灯。

 斜め後方、波間の間に、微かに見える小さな緑色の灯。


 艦隊陣形を乱さないように、自艦と前方艦艇(紅色の灯)と後方艦艇(緑色の灯)の距離、自艦の速度に注意を払い続ける。


 航行の目印は紅色の灯。

 ただ、それだけを参考に、西側盟主たる同盟国の空母を中心とした艦隊陣形を崩さないように航行を続ける。


 現代戦では、艦隊行動といっても、艦船の間隔は広い。

 ここからでは前後に1隻ずつしか視認(小さな灯火のみ)できないが、もし宇宙空間から眺めれば、空母を中心に十数隻の水上艦艇が陣形をとって行動する、空母戦闘群の姿を捉えることができよう。


 机上で軍事を語る馬鹿どもは、赤外線探照灯を使えば、舷灯すらも一切使わず、完全な消灯下での艦隊行動も可能とか抜かすが、それは洋上の恐ろしさを知らない連中の妄言だ。


 さらに言えば、最近の哨戒機には、潜水艦探知のための赤外線カメラを標準で備えている。

 赤外線探照灯なんてものを使ったら、舷灯よりも艦を目立たせることになってしまう。


 ここまで徹底した電波封鎖と灯火管制での航行を行っているのは、敵である東側陣営も洋上監視のための衛星を打ち上げているからである。


 三基の衛星が一組となって、艦船からの電波を傍受し、各衛星の電波到着時刻差をつかって、艦船の位置を特定してしまう。


 艦隊の位置を特定されてしまえば、艦隊全体が危険に晒されてしまう。特に、敵の爆撃機は核弾頭を搭載する長射程の対艦巡航ミサイルを有している。


 艦隊は姿を現しているだけで、大きなプレゼンスを発揮するが、時折、敵の監視の目を外す行動をとることも重要なことである。


 東西冷戦がはじまってから早40年。


 世界各地で小規模な代理戦争は頻発しているが、戦略核の均衡により、東西両陣営が激突する全面戦争だけは幸運なことに起きてはいない。


 第三次世界大戦が始まれば、世界中の主要都市は、東西いずれかからの戦略核攻撃により、焼き払われることは確実視されている、異常な緊張感に包まれた世界。


 もし大戦が勃発すれば、地上戦は互いに核弾頭搭載の短距離弾道ミサイル、FAから投下される核爆弾など、戦術核のオンパレードだろう。まぁ、東側は西側とは比較にならないほどの地上戦力を有し、機甲戦力は西側の3倍に達している。機甲部隊はABC兵器への抗堪性が高い。西側は戦術核を多用しても守勢に立たされることになるのは間違いない。


 長年、西側が圧倒的に優勢だった海軍力についても、東側各国が海軍力を増強したことにより、シップデイ値だけなら東側に追い抜かれている始末だ。


 アカ共は呼吸するようにウソをつく。


 10年ほど前の東西緊張緩和という空気に騙され、東側と歩調を合わせたつもりで西側各国が国防努力を怠り続けたツケでもあった。


 近年、西側の盟主では、新しい大統領が誕生し、大幅な軍拡へと舵をきったが、東西ミリタリーバランスが改善するまでの間に、東側が先制攻撃してこないことを祈るばかりだ。


 他愛もないことを考えながら、斜め前方艦艇の紅色の灯を眺めていると、突然、灯が消え、すぐに緑色の灯が目に入る。


 裸眼ではなく、双眼鏡を使って、念のため、再度確認する。

 

 緑色の灯。


 つまり、前方の艦艇は・・・。


 全身から汗が噴き出す。


 「艦長操艦!」(艦長から付与された艦長権限が必要な特殊操艦実施の宣言)

 「機関後退、一杯!」(衝突防止のための緊急減速措置として、スクリューの逆回転)

 「取り舵、一杯」(高速航行中ではないので、30度の取り舵)

 

 復唱を聞きながら、斜め前方の緑色の灯と、斜め後方の緑色の灯に注意を払い続ける。

 

 180度回頭で、すぐに叫ぶ。

 「舵戻せ、機関後退停止、機関前進、一杯」(スクリューの逆回転による急減速停止。元の速度に急ぎ戻すための全速を指示)


 後方の艦艇から見えていた緑色の灯が見えなくなり、紅色の灯が見えるようになる。

 つまり、後方の艦艇も、こちらの180度回頭に気が付き、すぐに180度回頭したことがわかる。


 

 自艦からみて後方の位置になった緑色の灯が急接近することなく、衝突の心配がないことを確認してから、元の速度に戻す。


 まさか、事前の打ち合わせもなく、完全な電波封鎖なうえ、灯火管制下での夜間航行中に、空母戦闘群全艦一斉の180度回頭を行うとはと呆れながらも、前方の紅色の灯、後方の緑色の灯、いずれも自艦と一定の距離を保っていることを確認して、ようやくため息をついた。



机上で軍事を語る馬鹿の筆者です。


この作品は、遥彼方さまの「紅の秋」企画参加作品となります。小説初心者が、無謀にも企画参加です。


最初は「紅の秋」ということで、

美しい紅葉景色のなか、戦車の砲身を念入りに偽装する話でも書こうかとも思いましたが、

前回、ゴブリンと戦車の話を書いていたので、取りやめました。


紅ということで、真っ赤な共産趣味ネタでもと思いましたが、

台風直撃の影響か、

気が付いたら、暗闇に浮かぶ小さな紅色の灯なんてネタで書いていました。


どこにも需要のなさそうな地味な話で、ホントすいません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 企画から参りました! 東西冷戦時代の話ですか。 私はそちらには詳しくはないのですが興味はあるもので楽しんで読めました。 後半の緊張の高まりも知っていると飛び上がるほど面白いんだろうなと思い…
[良い点] この度は企画参加ありがとうございます! 静かだけどとても緊迫感のある作品だな、と思いました。 すごくお詳しいんですね。 艦隊が夜の海を進む様子がとてもリアルに浮かびました。 面白いです。…
[一言] 今これを書いてるミリオタには需要ありですけどもw 知らない世界をのぞいたようで、面白かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ