3話 シャイフールの村
ドラグノフ狙撃銃。この銃はソビエト連邦が開発したセミオートマチックライフルで本来なら装弾数は10発ぐらいだった気がするがおそらく1発しか入ってないんだろう。そもそも10倍で暗視スコープとか自分でも馬鹿なこと書いたと思ったんだがまさかちゃんと装着してくれているとは……異世界だからなのか? まぁ準備してくれたし良しとしよう。そういえばシャツを破った時に魔法陣っぽいのは出てたけど、これが魔力を使うってことなのか? 気力っていうかそんなものがごっそりと削られた気がする。
「ねぇ……それはなに?」
「ああ、これがさっき言ってた内緒にしてほしいスキルだ。まぁ少々変な形の弓矢だと思ってくれて良い」
それにしても本当に1発しか入ってないのか?ちょっと外してみるか。あれ?これが弾倉だよな。これどうやって外すんだ?なんかこうセーフティみたいなのを外すと思ってたんだが違うのか。まあ外せないのは後にしてとりあえず構えてみるか。
「確かこうやって肩に当てて脇を閉めて……これ結構重くないか?腕がプルプルするんだが……」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ……たぶん。それよりもそこにおいてある果物とか少しもらっても良いか?朝から何も食べてなくてさ」
「うん、いいよ……どうせ自分では食べられないし……」
まぁ両手両足を仰向けのまま固定されてるからそうだろうな。むしろ食べ物があるのに食べられないのは一種の拷問じゃないか?俺だったら1日も持たないだろうな。
「んじゃ遠慮なくいただくぜ。食べたくなったら言えよ?ちゃんと食わしてやるからな」
「ありがとう……じゃあそこの赤いやつ取ってくれる?」
シスリアの目線の先にはリンゴのような赤い果実があった。俺はそれを鉈で皮を剥いて綺麗な8等分にして一つをシスリアの口に放り込んだ。
その時俺は不思議に思った。俺は料理が苦手だったはず。リンゴの皮剥きなんて小学校の家庭科の授業以来だろう。その時は何度もやり直して先生のお情けで合格したようなものだった。それなのに今俺は鉈という調理には向いてない物でリンゴの皮を途切れさせることなく剥くことができていた。これもスキルの影響なのだろうか。魔力とやらを消費したような気がしない。もしくは魔力なしで影響が出るスキルなのだろうか。考えても埒があかないな、大人しく鑑定使うか。
(調理スキルを鑑定)
【鑑定結果:【調理】魔力を消費しない一般的な自動スキル。Lv4は料理人見習い卒業レベル】
自動スキル、そんなものがあるのか。現代武器は紙に書く制約があったから自動スキルじゃないな。今俺が持ってる中だと毒耐性ぐらいか。レベルは4だがしっかり機能してくれることを祈るか。
「ありがとう……私最後にこれを食べたかったんだ」
「おいおい、最後とか縁起でもないこと言うなよ。まだ俺が死ぬと決まったわけじゃないんだぞ?」
「でも、神様にどうやって勝つの?」
「そりゃあもちろんこいつの出番さ。ショットガンじゃないのが心苦しいがな」
俺は4キロほどある銃を構えながらそう言った。まぁいきなり見たこともないもの見せられても安心はできないだろうな。シスリアと同じ立場なら俺だって安心なんかできないだろう。
そんなことを考えてた矢先、スコープを覗いた先に小さな動くものが見えた。こんなところに来るのは偽神様の猪だろう。そう考えて俺はシスリアに注意しておく。
「悪いシスリア。どうやらお出ましのようだぜ、ニセモンの神様がよ」
「神様が来たの?……あのね……私は大丈夫だから負けちゃいそうだったら私を置いて逃げてね。頑張って引きつけるから……」
「アホ言え、小さい女の子を置いて逃げるわけねえだろ?それになぁ、一本道のどこに逃げろって言うんだ」
「で、でも」
「いいから黙って見てろ、お前は村まで送り返してやるから」
やべぇ、めっちゃ恥ずかしいいいいい!人生でこんなこと言うの初めてだぞ。日本なら頭の痛い子扱いだぞ。今の言葉は取り消したい。
自分の羞恥心と葛藤している中、小さな動くものの姿がはっきりしてきた。間違いない、あれは猪だ。10倍スコープだからスコープを通して60メートル先に見えるまでは撃てないな。風とかの影響がないにしろ俺にとっては初めての射撃だ。こんなことになるならサバイバルゲームとかに参加しておけばよかったな。そうしたら今よりはマシかもしれなかったな。
「ね、ねぇ……」
「なんだ?言いたいことがあるなら手短に頼む」
「ううん!なんでもない!」
「そうか、ならいい。そうだ、言い忘れるところだった。俺は合図したら耳塞いとけよ」
「??? どうやって?」
「耳栓でもありゃあいいんだが……おっそうだ、お前の顔を果実で覆っちまえば良いじゃねか。何もないよりマシだろう。よし、そうしよう」
「えぇ?!」
「我慢しろ、耳潰れても知らねえぞ?」
「わかった。お願い」
おそらくただでさえ音が反響する洞窟、そこに狙撃銃の銃声がしたらたまったもんじゃないからな。消音器も付ければよかったか。使う魔力が一定なら今度からはフル装備にしよう。
俺がシスリアの顔に果物を積もうとしてあーだこーだ言っている間に奴がこちらに歩みを進めてきたらしい。スコープで覗くとこちらに向かってノッシノッシ歩いてきている。おそらく殺せるのだろう思うがいくら銃とは言えど銃弾は1発のみ。外せば死が待っている。
あと少し、あと少しでおそらく射程範囲に入るはずだ。もう少し……今っ!
「シスリア!!」
「う、うん!」
――ドバァァァァァアアアアアン!!
「痛っっっっっってぇえええええええ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!痛ってぇ!
なんなんだ今の痛み!?肩が折れるかと思ったぞ!?
くそっ、狙撃銃の反動ってこんなにでかいのか?それとも俺の体が貧弱すぎるだけなのか?
いや、そんなことよりも奴だ。あのクソデカい猪野郎が死んだのかどうかだ。
ジンジンと痛む俺の右腕はしばらく使えないだろう。だから左腕で銃のスコープを覗き見る。奴が生きていたらなここで終わり、死んだのなら俺はまだ生きていける。結果はどうだ……?
結局、大きな黒い猪の姿は見当たらなかった。そう死体すら見当たらなかったのだ。もしかして音に驚いて逃げたのだろうか。いや、それはないなと思い直す。そもそも狙撃銃が発射する銃弾の速度は殆どが音速を超える。つまり、少なくとも銃弾が当たってから音が聞こえるはず。ということは奴は死んだ可能性が高い。なら今だけは喜んでも良いのかもしれない。そう思った。
「あの……大丈夫?すごく叫んでたよ?」
「すまん、もうちょっと大きい声で話してくれ」
「大丈夫!?」
「ああ、すまん。右腕が持っていかれたがたぶん大丈夫だ」
シスリアの声が右からしか聞こえない。これはたぶん左耳が逝ったな。まあ仕方ないか、ただでさえ声が響く洞窟で銃発射だもんな。そりゃあ耳も逝っちゃうだろうよ。鼓膜が破れてないことを祈るだけだな。
「ねぇ……今のは?」
「ああ、これが俺が言った黙っててほしいスキルさ。ちゃんと黙っててくれよ?こちとらこいつが生命線なんだからよ」
「うん、わかってる。それで神様はどうなっちゃったの?」
「さぁな。俺がやったあと姿が消えた。たぶん死んだんだろうよ」
「そう……なの……」
シスリアは少し悲しげな表情を浮かべていた。それがどういう意味だったのかは俺には分からなかった。
「オッホン。じゃあ次はお前をどうにかしないと……と言いたいところだが少し疲れた。今日はここで寝るから何かあったら大声で起こしてくれ。たぶん起きるから。それじゃ」
流石に色々ありすぎた。吸血鬼の少女に猪狩り、思った以上の負傷。どれもが俺を睡魔との戦いに敗北を突きつけるには十分すぎる要素だった。俺は目を瞑り夢の世界へと旅立った。
――――――――――★★★―――――――――――
「……ぇ、ねぇ!起きてってば!」
「ん……はっ!な、なんだ?!何かあったのか!?」
「ふぅ……よかった!全然起きないんだもん……」
どうやら俺はだいぶ寝ていたらしい。とは言っても洞窟に中では正確な時間なんてわからないし仕方ないな。
「ん、そりゃ悪い。なにぶんこっちに来て早々あれだったからなぁ」
「こっちに来て……?」
「いや、こっちの話。で、今日?うーんまあ今日でいいや。今日はお前を村に届けるって話だったな。んじゃまずは手足の鎖を切っちまうか」
そういって俺は鉈で鎖を切ろうとした。だが一向に切れる気配がない。やっぱり俺のステータスじゃ無理なのか?いや、待てよ。俺のステータスじゃ無理だがこの子のステータスならいけるんじゃねえか?
「なあシスリアさんや。自分で鎖を引きちぎれねえか?」
「やろうとしたけど出来なかったよ?」
うーむ。あのステータスでもダメなのか。何か魔法がかかってんのかな、例えば魔法鍵みたいな。だとするとどうすることも出来ないんだが……いや、魔法か。そうだよ、この世界には魔法があるじゃないか!物理法則を無視する魔法が!俺の持ってる魔法でどうにかならねえかな?取り敢えず鑑定してみよう。
【鑑定結果:【空間魔法Lv4】Lv4で出来ることは以下の通り。《倉庫》《不可視の立方体》】
おお?二つも使えるのか。流石にLv4じゃテレポートとかはダメか。だが倉庫か。鎖だけしまえないかなぁ。どれだけ入るかわからないけど取り敢えず周りの果物を出し入れしてみるか。
「《倉庫》」
適当に半信半疑でリンゴっぽいやつを持つと手のひらから消えた!まさにイリュージョンってやつだな。だがどうやって取り出すんだろ。取り敢えずさっき消えたリンゴっぽいのを頭に中でイメージすると右手の上に出現した。収納したものはイメージするだけで取り出せることが判明した。イメージだけで取り出せるということはおそらく倉庫という詠唱も要らないんだろうな。
「何?今の?」
「ん?ああもしかして珍しいのかコレ。んじゃこれも黙っててくれ」
「う、うん」
「んじゃまぁ、君の解放と行こうかねー」
鎖に触れ《倉庫》と念じ、シスリアの手足を縛っている鎖を仕舞った。レベルは4だけど収納出来る量に限りがないことを望むのは高望みかな。
「あ、ありがとう!」
「気にするな、それじゃ早速君を村に配達するかな。あっ、でも外寒いんだよなぁ……ま、いっか。ほれ、これ着とけ。外は寒いからな、何もないよりはマシだろ」
「でも、そっちが……」
「いいっていいって」
しぶしぶといった表情で俺の上着を着たシスリア。なんかこう男の服を着た女の子ってかっこいいよな。ボーイッシュな感じがいいぞ。
「これからどうするの?」
「まずは洞窟の外に出るから松明を持っていく。食料は一応果物があるが数日と持たないだろうな。昨日ぶっ殺した猪があれば拾っていこう。んで村に着いたら解体してもらおう。一応聞いておくがここから村までの道のり知ってるよな?」
「うん、知ってるよ!」
「じゃあ出発するか!」
こうして俺たちは松明を持って洞窟の外に向かった。
祭壇からしばらく歩いてきたが昨日殺った猪の死体はまだ見つからない。松明のおかげで暗い中を進まなくて済んでいるが地面をよくみると危ない箇所がいくつもあった。よく昨日は何もなくあそこまで行けたなと自分を褒めてやりたいところだ。昨日の蝙蝠っぽい鳴き声の主も見つかった。グレーバットと言うらしい。危険度は高くなさそうだが、昨日のあれは心臓に悪かった。
さらに出口に向けて歩いているとなにかの血溜まりが見つかった。ゾンビゲームでもここまでの描写はしないぞってレベルでグロかった。流石にシスリアには見せられないな。
「シスリアに残念なお知らせだ。どうやらあの猪は木っ端微塵になったらしい。死体は無いしそこらじゅうが血塗れだ。目瞑って歩けよ」
シスリアは俺の言った通り目を瞑って歩いた。もちろん俺が手を引いてだ。だが目は誤魔化せても匂いと音は無理だった。歩くたびに血の匂いがして血溜まりの上を歩く音が聞こえてくる。流血表現のあるゲームをしているからと言ってもこれはキツイ。吐き気がする。けど普段見慣れないシスリアにとっては俺以上の苦痛だろう。こればっかりはどうしようもない。
「何もないって言ってるけどコアもないの?」
「コア?なんじゃそれ」
「コア知らないの?魔獣の中にあるやつでギルドに持っていくとお金になるの」
ふーん、コアってのがあるのか。もしかすると落ちてるかもしれんな。血溜まりを鑑定すればわかるかな?
【鑑定結果:グレートブラックボアの血。使用用途なし。:グレートブラックボアのコア。】
おお、あったあった。これがコアか。形は球体だが、色が黒色で松明の光を反射してるな。ぱっと見は黒色の宝石か何かだな。お金になるなら拾っておこう。
結局、あの血溜まり以降は何もなく、普通に洞窟の外に出た。思った通り外は中以上に寒く、上を脱いだ俺にとっては結構辛い。
「やっぱりコレ返そうか?」
「いや、心配すんな。それよりも村に案内してくれ」
「うん!こっちだよ!こっち!」
俺はシスリアに手を引かれるまま村へと連れていかれた。
――――――――――★★★―――――――――――
シスリアの生まれた場所、シャイフールの村は外から門を通して見た限りだと思ってた以上に小さい村だった。日本の限界集落ぐらいの大きさだろうか。周りは丸太で囲み魔物対策、門には犬耳がついた門番二人が木の棒の先端に鉄の鏃をつけた槍を持っていて見張りのための櫓まである。そんなシャイフールの村にお邪魔しようとしたところ――
「おい貴様!何者だ!この村に何しに来た!」
「この子を配達しに来たんだが?」
「配達?うちの村にそんな奴は居ない!帰れ!」
とういうことで門前払い受けました。ううっ泣きたい。シスリアに聞いてもこの村だと言うしあの村の門番は居ないと言うし、どうなってんだこの村は?こういう時はお偉いさんに聞いてみるか。
「お前じゃ話が通じないな、村長呼んでこい。多分デカイ猪ぶっ殺したって言えばわかるんじゃないか?」
「デカイ猪ってまさか!?おい!村長を呼んで来てくれ!今すぐだ!」
「は、はい!」
デカイ猪って言った瞬間顔色が変わったな。そんなに重大なことなのか?倒してコアが出るってことは魔獣確定なのにな。
約10分後犬耳がついた貫禄のあるお爺さんが出て来た。おそらく村長だろう。
「村長さんでいいんだな?まぁ俺の名前リョウ。何しに来たかと言えば――」
「愚か者!」
「今なんつった?俺の耳を信じるなら今俺のことを愚か者って言ったか?」
「ああそうじゃ愚か者め!貴様はなんということをしてくれたんじゃ!神聖な儀式を取り壊し、神を殺しておいて、あまつさえ災いを呼び寄せる忌み子を連れて帰って来たじゃと!」
「あれが神聖な儀式だと?人一人生贄にする儀式のどこが神聖だ!それにな、そいつは忌み子じゃねえ。普通の女の子だろうが!」
「其奴が普通の女の子じゃと?フン、笑わせてくれる。其奴の両親は猫人族と犬人族、そこから生まれておいてそのどちらでもないのが忌み子の証じゃろうが!」
「先祖返りとか色々あるかもしれないだろ!そんなくだらねえ理由でこの子を生贄になんぞ捧げて言い訳ねえだろ!!それにな、さっきも言ったがその神とやらは俺がぶっ殺したんだぞ?じゃあ生贄にする必要がどこにあるってんだよ!」
「お二人ともおやめください!」
俺の目の前に割って入って来たのは茶髪の猫人族の女だった。なんか雰囲気がシスリアに似てるな。
「誰?あんた?」
「すいません。私はミレーネ、一応その子の母親です」
なるほど、なんかシスリアに似てるなと思ったら母親か。そりゃ面影も出てくるわな。
「で?何の用だ。俺は今このジジイと話すのに忙しい」
「わかってます。ですが、その子はもうこの村の子ではないんです」
「はぁ?どういうことだ?」
「はい、では説明します。この子は――」
ミレーネさんの話はこうだ。まず今から200年前に人間と獣人が大きな戦争をしたらしい。戦争をするまではお互いに仲が良かったらしいが、獣人の一部が獣人至高主義だったらしく仲間を集って王国に宣戦布告、互いに大きな損害を出してしまった。一応は王国側の勝利となり、獣人側は撤退した。そこまでは良かったのだが、問題はここからだ。獣人は王国に攻撃を仕掛けたという理由で人間から嫌われ、奴隷にされることがよくあるそうだ。
人間に嫌われながらも生きていく中、この村に突如として神が現れた。それがあの猪だ。力が強く、言語を理解している猪はこの村に生贄を捧げることでこの村を守るという神託を下したそうだ。神託と言ってもジェスチャーだったらしいが。だが実際は、猪が安定した食料を確保する為だろう。最初は疑いの方が強かったこの村だが、あの猪が村に現れて以来魔獣による被害が増え、獣人から獣人でない者が生まれるようになった。仕方なく生贄として忌み子を差し出したところそれまで続いていた魔獣による被害はピタッと止まったそうだ。それ以降、この村では数年に一度あの祭壇に神への献上として食料と災いもたらす忌み子として生まれた子を生贄として捧げているらしい。だがその忌み子も選定が曖昧で生贄を捧げる年に忌み子がいない場合は村長が選定しているらしい。
説明を聞くと信じられないものだった。まずシスリアは忌み子として扱われ、この村の方針としてあの猪に生贄として捧げることによりこの村から災いをもたらす忌み子が消えしかも神の使いに生贄を捧げることにより村の安泰が約束され一石二鳥の計画だったらしい。しかもあの猪を本気で神の使いと考え生贄に選ばれた子はそれはもう大層羨ましがられるらしい、神と同化したとして。
つまり普通に村から災いをもたらす忌み子を消すために有効利用していたらしい。シスリアには神と同化されることの素晴らしさを説き、シスリアが自ら生贄になるように教育して、だ。
俺の中で何かが切れる音がした。
「おいテメェら、巫山戯んなよ?何が神の使いだ。あいつはただの魔獣でただ忌み子を村から消したかっただけだろうが!!テメェらの逃げ道に勝手に小さい子を巻き込んでんじゃねぇ!!それにあんたもだ!ミレーネ!あんたこの子の母親だろ?!たとえ忌み子であっても自分の子だろ!なんとかしたいって思わなかったのか!!村がどうだろうと自分の子は守るぐらいの気概を見せろよ!!こいつはな、自分の口ではっきり言ったぞ? 生きたい!ってな!」
「……」
「なぁ、いい加減はっきりしろよミレーネ。お前は自分の子とこの村とどっちが大事なんだ?村の意思とか村長がどうとか関係ねぇ!お前はどうなんだよ!お前はどっちなんだよ!?」
「その子は私の子ではありません」
「おい、今なんつった。お前今、なんつった!!」
だがその時、ミレーネの後ろから5歳ぐらいの猫耳で茶髪の女の子がミレーネのそばまで歩いて来た。そして俺たちを指差してこう言った。
「ねえお母さん。この人達だーれ?」
「あらサーシャ、出てきちゃダメって言ったじゃない」
「ごめんなさーい。それでこの人達だーれ?」
「んーこの人達はねぇ神様の使いを殺した悪い人よー」
「神さまのお使いさん、死んじゃったの?」
「そうよーこの人たちは悪い人たちなのよーだからねぇ、一緒にこの村から追い出しましょうね」
「うん、わかった!悪い人出ていけ!この村に来ないで!」
そういうことか、ミレーネはシスリアじゃなくこの忌み子じゃない普通の子を自分の子として扱うつもりか。こうも簡単に自分の子を捨てれるものなのか。これだから狂信者は嫌いだ。
そんな中、シスリアが前に出て口を開いた。
「……お母さんはお母さんじゃなくなるの?」
「私はあなたを自分の子供と思ってないわ。この呪われた子め」
「……っ!!」
「お前!!子供になんてこと言いやがる!あんたが産んだ子だろうが!それ以上言ってみろ、もしこれ以上変なこと言うようだったら俺がお前を――」
「もうやめて!!」
「シスリア……?」
「もう、いいの。私がいけなかったんだよ。忌み子だから……仕方ないんだよ。私はこの村にはいられない、そういうことでしょ?」
「そうじゃ、わかったらさっさと出ていけ。二度と近寄るでない」
「いこう、お兄さん。」
「お、おい。まだ話が終わって……っ!!」
シスリアの目には涙が浮かんでいた。目を赤くして今にも声を上げて泣き出しそうな顔だった。
「ごめんなさいお母さん。私みたいな子が生まれて。迷惑だったよね、怖かったよね。ごめんなさい……ごめんなさい……」
「おい!待てよ!シスリア!!」
シスリアは村とは逆の方向へ走って行ってしまった。あんなことを言われては仕方ないだろう。俺は急いで追いかけた。村人達の畏怖と拒絶のこもった視線を背負いながら。
読んでくださってありがとうございます。