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Re:Desireres_Response to Desire_  作者: 立花六花
一章 欲望への返答(ディザイアレス)
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1.5章 ある日の二人

 煙草の吸い殻や空き缶など、道端に堕ちているゴミは決して少なくない。特に多くの人で賑わう場所は。


 そんなゴミを無償で拾い集め、街の清潔さを保つ事に貢献している、謂わばボランティア集団が、二番街には存在している。


 その日も天鈴商店街を中心に、団員が全員が一丸となって掃除を行っていた。


「よくもまあ、ポイ捨てなんてするよね。ゴミはゴミ箱に……って、子供の頃に教わらなかったのかな?」


 アーケードの隅。長身の好青年クァールは、トングで落ちていた炭酸飲料の空き缶を拾うと、緑色の袋の中へと放り込んだ。


「仕方ねーだろ、人間は一人一人違うんだ……。理解出来てない馬鹿が十人くらい居ても、全然不思議じゃねー……」


 すぐ横に佇む少女ズィールも、トングを片手に、落ちているゴミを拾い集めていた。いつも大事そうに抱えてるシロクマのぬいぐるみは家に置いてきたので、今は持っていない。


「人類が皆優しくなれば、争いなんて起こらないのにね」


「それが出来たら苦労しねーよ。……そろそろ次の場所に移動するか? この辺はもう大分片付いてきたし……」


「そうだね。えっと確か次は──」


 商店街のマップを開き、次に自分達が向かう場所を探し始める。


「お疲れ様です、二人とも」


 そこで一人の少女が、二人に声をかけた。


 長く伸びた黒い髪。背は低く童顔。膝まであるサイズの大きい赤いジャージを着ていて、頭部から猫の耳。臀部から猫の黒い尻尾を生やしていた。


 黒羽(くろばね)音弧(ねこ)。主に三番街で活動する『何でも屋』であり、絶対に敵に回してはいけない『危険区域(ボーダーアウト)』の一人だ。


 彼女もクァール達と同じくこのボランティア団体に所属し、こうしてゴミを拾いを行なっている。


「ああ、黒羽さん。そっちもお疲れ様」


「この一帯は、もう終わりそうですね」


「今から次のエリアの移動するつもりだよ。……そっちは?」


「こっちも次のエリアに向かっているところです。途中まで一緒に行きませんか?」


「いいですよ」


 二つ返事で了承するクァール。それが不満だったのか、ズィールは彼の頬をトングで掴み、引っ張った。


「い、いふぁいいふぁい‼︎ らりするのは、すぃーう‼︎」


「別に……」


 不機嫌そうな顔で、トングを離す。クァールの頬が赤くなっていた。今は能力を発動していないので彼は物理的ダメージを受けるし、それに『共有』される事も無い。


「……?」


 何が何だかわからなかった音弧は、不思議そうに首を傾げていた。



**



 アーケード内を歩く三人。今日は平日なので、客の数はそこまで多くはない。


「もう少しでクリスマス、ですね」


 音弧が呟く。商店街は既にクリスマスの装飾がされていた。


 まだ十一月なので、少し早い気もするが。


「クリスマスは、何か予定とかあるの?」


「ッ……‼︎」

「あ痛っ」


 ズィールが、クァールの腰に肘鉄を食らわせる。彼の今の言葉は、ナンパしている様に思えたからだ。勿論本人に自覚は無い。


「ご主人様と一緒に、ホールサイズのケーキを食べます。もう予約は澄ませてあります!」


 両手でガッツポーズをとり、目を爛々と輝かせる音弧。


「お二人も、何か予定はあるんです?」


「僕達もあるよ。ズィールが前から行きたがってた遊園地に一緒に行くんだ」


「うん……。楽しみ……」


 ズィールが微笑を浮かべる。いつもは抱きかかえているシロクマで口元を隠すのだが、今は無いのでしっかりと見えた。


「クリスマスに二人で遊園地……まるでデート、ですね」


「まるでじゃなくて、デートだよ」


 からかう様な口調で音弧が言うと、クァールは平然と。恥ずかしがる事も無く返した。隣のズィールの顔が赤に染め上がる。


 その様子を見ていた音弧は、朗らかな表情を見せた。


 十字路で立ち止まり、音弧は右に顔を向けた。対して二人は、左を向く。


「……それじゃあ私はこっちなんで。また公園で」


「ああ、また後で」


 互いに手を振り合ってから、背中を向けて歩き始める。


「クァール、抱っこしろ……」


 まだ顔が赤いままのズィールが言う。


「かしこまりました、『お姫様』」


 するとクァールはズィールの羽の様に軽い小さな体を持ち上げ、お姫様抱っこをした。


「な、何するんだ……‼︎」


 これだと周囲の視線が集まってしまう。恥ずかしくて堪らない。


「何って、抱っこだろ? して欲しいって言ったのは君じゃないか」


「……‼︎」


 クァールの頬を一発殴る。威力は弱かったのでダメージは無い。


「な、なんで殴るんだよ」


「うるさい! この馬鹿……‼︎」


 ズィールはそれから、罵倒しながら何度も何度もポコポコと殴り続けた。



**



 その日の夜。梅木沙知は、音を立てない様にゆっくりと襖を開けた。


 その奥にある広大な和室には、彼女の愛する子供達が、横並びで眠っていた。


 桃花とエナは漫画喫茶で寝泊りしているし、クーは行方不明。加えてスパイだった不隠とアルベードも居ない為、少しだけ隙間が出来ていて、寂しかった。


「……クァール……好き……」


 ズィールが、隣に眠るクァールを抱き締めながら、本音であろう寝言を零した。


 それを聞いた沙知は、声を押さえて微笑む。


「お休みなさい、子供達」


 そして、ゆっくりと襖を閉じた。

次回は明日の午前十時に投稿します。タイトルは「大食い大会と家族の絆」です。

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