表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:Desireres_Response to Desire_  作者: 立花六花
一章 欲望への返答(ディザイアレス)
23/26

一章──???

 天鈴商店街の外れにひっそりと構えるバー、『ヴァナディース』。そこに訪れる客は変わり者ばかりで、店を経営している田無フレイヤが裏社会の人間と多く関わりを持っているという事もあり、一般客が立ち寄る事は殆ど無い。


「加奈子さぁぁぁん‼︎」


 深夜二時を回った頃。アルベードは店に入ってきてすぐ、カウンター席に座る白衣を纏った女性に抱き着こうとした。


 女性──菅原加奈子は視線をカウンターの方に向けたまま、裏拳でアルベードの整った顔を殴る。埃一つ無い綺麗な床の上に倒れた。


「もう少し声量を落とせないのか、アルベード」


 アルベードを一瞥してから、グラスに入っているカクテルを一口飲んだ。


「あら。抱き着かれるのは別に嫌じゃないのね」


「こいつの事は別に嫌いじゃ無いからな。……それに、これ程までにストレートに愛情表現をしてくる馬鹿が、私は結構好きなんだよ」


 カウンターに佇む女性──田無フレイヤの言葉に、加奈子は笑って返す。


 フレイヤは長い金色の髪を螺旋状に巻いた、所謂ツインドリルヘア。やや幼さを残した顔立ちをしていて、グラマラスな体型をしている。身に纏うのは真っ赤なドレスだ。


「良かったわねアル君。相思相愛みたいよ」


「ほ、本当ですか⁉︎」


「『好きラブ』じゃなくて『好きライク』だから違うぞ」


「そ、そんな……‼︎ じ、じゃあ! どうしたら俺の事をラブの方の好きになってくれますか⁉︎」


 隣の席に座り、息が顔にかかる距離まで顔を近付ける。


「それはわからないな。愛というのは、自分でもわからない内に芽生えるものだからな」


「ライティアの言う通りね。アル君のその質問は、愛を理解出来てない証拠よ?」


「むぐ……ごめんなさい」


 何も言い返さずに、アルベードは顔を俯かせる。


「それで、これからはどうするつもりなのよ? リーダー」


 フレイヤが尋ねると、加奈子は残っているカクテルを呷ってから、答えた。


「どうするって、抗うんだよ。アイツの仕掛けた『運命』に、な」


「……そうね、それしか無いわね」


 軽く微笑んでから、フレイヤは自分用にカクテルを作り、グラスへと注ぎ込んだ。


 金色に輝いたそれをじっくりと眺めてから、口に含む。


「おい、飲んで大丈夫なのか? 酒弱いのに」


「今日はちょっと、飲みたい気分だったのよ」


「……そうか」


 それから数分後。フレイヤは吐き気を覚えて、手洗い場へ駆け込んでいった。



**



 地下鉄や転雨鉄道など、市内にある全ての電車が通っている大きな駅──『緋雨(ひあめ)駅』。そこを中心として栄えているのが、四番街だ。天鈴商店街のある二番街のすぐ隣にある。


 四番街は主に飲食店が充実していて、飲み会を開く場所として人気が高い。だからなのか、街中を歩く人は半分がサラリーマンだ。


「…………難しいな」


 十九時。駅から歩いて数分の場所にあるゲームセンターにて。幼い容姿をした女神ノルンは、人気音ゲームの筐体の前で眉を顰めていた。


 肩口で切り揃えた白色の髪。軍帽を被り、下がスカートになっている軍服を身に付けている。側から見れば彼女は、何かのアニメのコスチュームをしたコスプレイヤーだ。


 顔立ちと声が中性的で、胸元の膨らみも無いので、性別が少しわかりにくい。

 彼女は今日配信された新曲の最高難度をフルコンボでクリアする為に、多くの金を注ぎ込んでいた。もう少しで三千を超える。


 そして迎えた三十回目。あと少しでフルコンというところで、普段は絶対にしない凡ミスをしてしまった。悔しさのあまりに叫びそうになるが、押し殺す。


「このノルン様に出来ない事など無い……必ず、必ず今日中にクリアしてやる‼︎」


 マジックテープの財布から、百円玉を取り出す。そして投入──しようとした所で、後ろから声を掛けられた。この店の店員だ。


「ねぇ君、まだ小学生だよね?」


「っ‼︎」


 そう、今は十九時。肉体年齢がまだ十二歳の彼女は、入場制限に引っかかる。


 勿論その事は知っていた。しかしゲームに夢中になるあまりに、時間の事をすっかり忘れていたのだ。


「ご、ごめんなさい……」


 結局ノルンは、その日のフルコンを断念し、店を出る事になった。


「──まったく。このノルン様が人間如きに頭を下げる事になるとは……」


 多くの人で賑わう道を歩きながら、独り言を呟く。


 すれ違う人は彼女の服装に驚くが、すぐに関心を無くす。神の血を流す存在は、ただの人間の記憶に残り難いのだ。ゲームセンターでしばらく声を掛けられなかったのも、これのお陰と言える。


 歩いていく内に、人気の無い道に出た。周囲に明かりは無い。


 不意に立ち止まる。そして振り返った。


「このノルン様を尾行するなんて、一億万年早いぞ? ヴァルハラの下っ端さんや」


 ノルンの後ろを足音一つ立てずに付いてきていたゴーグルを被った二人組の男女が、たじろぐ。


「わ、我らが母を裏切った反逆者め‼︎」


 男が叫び、サイレンサーの付いた銃を構えた。銃そのものは至って普通のものだが、銃弾は『神格』を持つ存在にもダメージを与える事の出来る、特殊なものとなっている。ヴァルハラに所属し、尚且つ信頼されている者にすら持つ事を許されないが。


 控えめな銃声と共に、鉛玉が放たれる。ノルンはそれを、一切避けようとしなかった。


 その時銃弾が百八十度曲がり、男に返ってきた。物理的に有り得ない出来事に驚くあまり、男はそれをかわす事が出来なかった。装着して居たゴーグルに直撃し、頭を貫通する。


「お兄ちゃん‼︎」


 女の方が悲鳴を上げる。


「まさかその程度で、この偉大なるノルン様を殺せるとでも思っていたのか?」


「くっ、よくも……‼︎」


 引き金を三度引く。発射された銃弾は全てノルンから逸れ、ブーメランの様に自分に戻ってきた。女はそれを紙一重でかわそうとするが、何故か身体が言う事を聞かずに、そのまま脳天を貫かれてしまった。


「このノルン様が定めた『運命』からは、何人たりとも逃れられないんだよ。例え神であっても。例え母上であっても……‼︎」


 ただの肉塊へと変わり果てた女の頭を、躊躇う事無く踏み潰した。返り血が、ノルンを避ける様に飛び散る。


「それにしても、これでもう四番街には居られないな。ここはゲーセンもあるし美味しい料理もあるから気に入ってたんだが……仕方ない」





「全ては、『あの方』の為だ」


 ノルンは踵を返し、夜の闇へとその姿を消した。

次回は明日の10時に更新です。

次回は1.5章『矢弾桃花は猫か兎か』になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ