天魔高校編① 2
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弥善は久しぶりに制服に着替える。もちろんだが、その時は夜宵は廊下にいる。まぁ扉はぶっ壊れているが。
全然着ていない為か、汚れも着崩れも起きていない。
「弥善……」
「っるせぇ。別に今日だけだかんな。今日だけ学校に行ってやるんだよ……」
そう、別に今日だけだ。今日だけ学校に行くだけだ。明日からはまた部屋でゴロゴロの日々だ。
(俺の人生そんなもんでいいんだよ……)
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弥善と夜宵は2人で横に並んで学校への道を歩いていた。
実は2人が通う高校は地元の高校であり、徒歩で行ける距離だ。夜宵はいつもなら自転車で通学しているのだが、弥善のために徒歩で登校してくれている。
無言の沈黙。
ただひたすら聞こえるのは、車が通る雑音。街の人々が楽しそうに話す世間話。動物・鳥の鳴き声。
だが、夜宵は沈黙の時間に耐えれなかった。
「今日はね、10月にある修学旅行の班決めがあるんだ」
「……」
天魔高校は高校2年生の10月に修学旅行がある。修学旅行先はアメリカ。10月とはいえ、9月に決め始めていては遅い。夏休みに入る前には決めておきたいものだ。
「その……よかったらでいいんだけど……」
「ん?」
「……一緒の班になろ……?」
なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁ!っと叫びたくなるような萌えを感じた弥善。
照れ臭い。
弥善はあえて返事をせず、黙っていた。
そこからは学校に着くまで無言だった。
だが学校に着く前。弥善は何かの違和感を感じた。
誰かに見られているような感覚。
弥善は立ち止まり、周りを見渡す。
「弥善?どうしたの?」
だがこちらをジーッと見つめている人物はいない。いや、それどころか、こんな大通りにもかかわらずあまり人が通っていない。
なんなんだろうか、この違和感は。
「……いや、なんでもない」
再び歩き出した弥善と夜宵。
だが、その違和感、視線は消えることはなかった。
〈イマミラレテイタ……キヅカレテイタ……ナゼダ……ニンゲンニハワカラナイハズナノニ……〉
〈まぁそういうな。彼は陽来弥善だ。マスターが言っていただろう?彼には十分に注意しろ、って?〉
〈イッテタ。マスタータシカニイッテタ〉
〈だろう?多分、また気付かれるだろう。彼は何か特別な匂いがするからねぇ〉
〈デモカナラズ……カナラズコロス。ヒライヤヨイ……コロス〉
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ついに、ついに来てしまった。
弥善はついに天魔高校の校門前まで来ていた。あと1歩で天魔高校の敷地内だ。
まだ時間は早く、門を通る生徒はチラホラで、あまり多くはない。まぁだからこそ来たのだが。
弥善はいわゆる不登校。そりゃ突然急に学校に行くのは怖い。それはもちろんだ。教室に入った途端囁かれる「え、あいつ来たの?」「えーあいつ誰」。
だがこんなところでウジウジしていても仕方が無い。
弥善は1歩前へ踏み出した。
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教室に入ると、中には誰もまだ来ていなかった。つまりは、弥善と夜宵だけである。
弥善の席は廊下側の1番右端。夜宵はその左隣。
この席順は適当であり、誕生日だとかあいうえお順だとかは一切関係ない。コンピューターのランダム割り振りである。
「また隣だね」
「チッ……」
「チッて何よ!チッて!」
実は弥善と夜宵は別に今回だけ席が隣なわけではない。中学校もそうだったし、小学校もそうだった。つまりはもううんざりしている、というわけだ。
「弥善……」
「なんだよ」
「私ほんとはーー」
「ーーおはようう!」
夜宵が最後まで喋り終わる前に、夜宵の言葉はある人物によって遮られた。勢いよく黒板側の教室の扉が開き、1人の人物が元気な挨拶とともに入ってきた。
眼鏡を掛けていて、頭はツンツンヘアー。黒髪の黒い目、一般的な日本人だ。だが、顎には絆創膏が貼ってある。何か怪我をしたのだろうか。
「さぁとても素晴らしい朝を迎えた私だが!今日はどんなハプニングが起こるのかな!楽しみだな!フハハハハハハハーー」
その男は、笑っている途中、弥善と夜宵の2人と目が合う。
ようやく2人がいることに気付いたそうだ。
【…………】
全員黙り込む。お互いを見つめたまま黙り込む。ようは固まる。
まぁこうなるだろう。何故なら、
「……お前……そんなキャラだったか……?」
「……私、今までずっといて、そんな姿見たことない……」
「……」
そう、この男は元々大人しめで、賢そうな男であった。こんな厨二臭い奴ではなかったはずだ。なんだ、この半月余りでこんなに人って変わるものなのか。
男の名前は山倶利海翔。弥善と夜宵とは小さい頃からの幼なじみだ。そして同じクラス。そして席は弥善の前の席。弥善と海翔は何かの運命なのかもしれない。それがなんなのかわからないが。
【…………】
「この世の終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いします!
ではでは!




