天魔高校編① 1
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2017年。
至って普通の世界。
争いが少なく、核兵器も使われていない時代。
飛行機が空を飛び交い、車や電車が地上を走り回る。また、人々が歩き回る。
そんな何の変哲もないこの世界。そう、何の変哲もないのだ。
何も面白いことがない。
何も楽しいことがない。
2017年。
引き篭もりが大増量した世界。
家の外に広がる世界は何の変哲もない。
家の外に広がる世界はつまらない。
異世界に召喚される。
いきなり特殊な能力を持つ。
未確認生物が攻め込んでくる。
地球が消滅する。
そんなことは一切起こらない。
ただ面白いことがある。
弱いものは強いものに従うしかない。
弱いものは強いものには敵わない。
この世界は残酷であり何の変哲もない。
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2017年4月25日。
入学式や始業式が終わり、そろそろグループに分かれてくるこの時期。4月ももう終わりに近づいていた。
桜ももう散る頃である。
1人の青年は家の中、自分の部屋の中のベッドの上でゴロゴロしていた。
今日は平日だ。青年は学校をサボっていた。そう、いわゆる不登校・引き篭もりである。
別に彼が特別な訳ではない。隣の家の先輩も不登校だし、向かいの父親も引き篭もりだ。
部屋の中は真っ暗。光を受け付けていない。
青年はベッドの上で携帯を弄りながら、ただひたすら今日1日が過ぎるのを待っていた。
ネットの世界に頼るしかないのだ。
青年はネットのアカウントのツイートにこう呟く。
『今日も世界は何も変わりません』
呟いて数秒でイイね!が十数個来る。青年はどうやらネットの中では友達が多いようだ。
青年は溜息をつきながら携帯をスリープ状態にしてベッドの上で大の字になる。そして、
「ああああああああああああああ」
と小さく叫ぶ。
のと同時に、廊下の階段から慌ただしい足音が聞こえてきた。
青年が驚いたのも束の間、部屋の扉が勢いよく壊された。
「弥善いいいいい!今日こそは家から出るわよ!」
扉を壊した犯人は女だった。
壊された扉から光が青年の部屋に差し込んでくる。
「うわぁぁぁぁ!光だぁぁぁ!マカンコウサッポウだぁぁぁ!ピッコ●が攻めてくるううううう!」
青年は光から身を守るように布団に包まる。
女は溜息をつくしかなかった。
「おい母さん!なんでこんな破壊神を家に入れたんだよおおおおお!」
青年は1階にいる母親に聞こえるように大声で叫ぶ。
「玄関まで壊して入ってきたんだから仕方が無いでしょ〜」
(なんだとおおおおおおおおおお!?)
1階から聞こえてくる微かな母親の声。
つまり、この女は青年の家の扉を2個壊したということになる。
「……弥善。もういい加減学校に行かないと。先生も怒るよ?」
「怒るって言ったって、どうせ口頭だろ……。今どき暴力なんてしたら警察沙汰だからな」
「むぅ……屁理屈が多いなぁ」
「はぁ!?これのどこが屁理屈なんだよ!なぁ!?夜宵!?」
至って普通の会話(?)。
こんな日常はもうつまらない。もっと楽しいこと……ないかなぁ……。
青年の名前は弥善。そして、女の名前は夜宵。漢字は違うが、読み方は一緒だ。
未だに弥善は布団から出ようとしない。布団の隙間から顔を出しているだけだ。これはもう本格的な引き篭もりである。
「……じゃあいつになったら学校に行くの?弥善のお母さん心配してるよ?」
「……知るか……」
「すごい心配してたよ?それと、すごい自分を責めてた。私が力不足なばかりにあの子をこんなふうにしてしまった、って」
「知らねぇって言ってんだろ!」
弥善は思わず強く当たって叫んでしまった。
そんなの知っている。母親が自分を責めていることも、母親が弥善のことを心配していることも。でもしょうがないのだ。この世界は残酷で、つまらない世界なのだから。
「……ごめん」
「いいや、俺も強く当たってしまった……」
でも、いつかは外には出ないといけない。
正直弥善としてはあまり母親には迷惑かけたくないのだ。
弥善は母親に感謝している。だからこそ、迷惑かけたくないし、心配もかけたくない。
安心させたい。
母親を安心させて、笑ってもらえるようにしたい。
今がその時なのかもしれない。
弥善のいつもとは違う日常が始まる。
読んでくださりありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願いします!
ではでは。




