ヒトの子を拾う
その年の冬は酷く寒く、一月を見ていた薪束は、半分も過ごさずぬうちにその姿を消していた。
不老不死である身であるが、凍りつくのは辛い。
春になるまで動きもできず、寒さと痺れと痛みと空腹に苛まれて半殺しになるのは、さすがに貴重ではあるがしたくはない経験だ。
仕方なしと朝から重い腰を上げ、森に入ってせっせと焚き木拾いに精を出していた。その日はさらに奥へ奥へと足を進めていた――――、単純作業をするとよくわからない興の乗り方になる。その日は、特にそうだった。途中で「エクスカリバー」と名付けた枝っきれのせいだ。別に小屋の周辺で要は事足りたはずなのに、冒険気分も相まって、気づけばいつも来ないような、普段の私の縄張りのギリギリまで足を踏み入れてしまっていた。
ピリピリと肌で感じる獣チックな殺気と視線。遠い場所で見られているか、威嚇でもされているのか。食物連鎖的にはこの森で天辺たる私にケンカを売るのは如何なものかと思うが、しかし、縄張りにズカズカと足を踏み入れている以上、仕方ないことだ。
涼しい顔で受け流す。今、私の興味は、そんな些末なことに向いていない。遠出してみた甲斐があった。これは珍しい。ヒトの子が一人、雪に埋もれて倒れていた。
「おーい。生きてるか―」
たまらず、枝っきれでつついてみる。反応はない。死んでいるのか、虫の息か。後者なら持ち帰るが、前者ならそのまま放っておくしかない。森のルールだ。生きているのなら殺すなり食うなり自由だけど、死体は森の養分だ。私が手を出せば、森のやつらに怒られてしまう。
返事を期待して、さらにその体をつついてみる。ピクリとも反応がない。
「ダメ、か」
残念ながら、ご臨終のようだ。本物のヒトを見るのは初めてだったから、色々期待したんだけど。
「じゃあな、少年。安らかな死後を願ってる」
私とは縁がなかったということで。巡り巡って生まれ変わるなら、是非温かいモフモフになるといい。この森の冬は寒いから、次こそは凍死なんて辛い死に方をしないように。
踵を帰す。十分に薪は集まった。せっかくよく働いた今日の夕食は何にしようか、なんて。すっかり数秒前までのことも忘れて、空腹を思い出す。森に、大きなお腹の音が響いた。
おや、とお腹を押さえる。もう一つ、また音が鳴る。私ではなかった。
振り返る。
音の主は、雪に埋もれた少年のようだった。
「ああ。なるほど。お腹もすいて動く元気すらなかったか」
ひょい、とその体をつまみ上げる。雪を払ってみると、寒さと冷たさで真っ赤になったリンゴのような小さなヒトの顔だった。抱きしめてみると、ほんのり温かい。弱ってはいるが、息はある。凍死の心配も特にないようだ。
「ちゃんと返事しようぜ少年。見殺しにしてしまうとこだったよ」
小さな体を肩に担ぎあげる。想像したより、その体はずっと軽かった。ああ、これはいい拾いものだ。しばらく、退屈しのぎになってくれるといいのだけど。ちょうど、本ばかりでは退屈していたところだ。
森の中からぐるぐると、背後から獣の唸る音が聞こえた。それを無視して、足取り軽く、私は小屋へと帰路に就いた。