プロローグ
『むかしむかし。東の果てのこの国で、悪い魔女は勇者によって退治されました。めでたしめでたし』
どこにでもある退屈で平凡な、僕の故郷の寝物語。
「めでたしめでたし」という魔法の言葉で終わる物語は、けして遠い世界の出来事ではなかった。
〇 〇 〇
雲のような、雪のような。常套の言葉でも例えられないような純然たる白。それほどの無垢を感じる髪をたなびかせ、血で濡れた身体を庇いながら、その女性は僕の手を引いていた。
彼女は自身を「魔女」と名乗った。
「名前はないんだよ。呼ぶ人も、ここにはいないからね」
淡々と述べるその顔に、表情は写っていなかった。
彼女にとってはそれが当たり前のようで、僕には酷くそれが、悲しいことのように思えて仕方なかった。
「君は?」
魔女がどうでもいいかのように問う。挨拶でもなく、ただの反射に近い言葉は、会話というには機械的で、まるで独り言のような呟きに近いものだった。
「僕も」
彼女と同じように、つまらなそうに僕は答えた。魔女は頷くと、そのまま僕の手を引いて、雪の原をかき分けながら、僕を家へと連れ帰った。
これは、僕の物語だ。
後に"厄災"の魔女と呼ばれた彼女と、名無しの僕の物語。
僕はこの物語を、『めでたしめでたし』と締めくくることができるのだろうか――――。