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プロローグ

 鎧を着た騎士っぽい人達、ゆったりしたローブを着た人達、高そうな装飾と刺繍のある服を着た少年。

 皆が私を見ている。異世界召喚というやつですよ。わかりますとも。

 ここは慌てず、相手側が話し始めるのを待つべき、と心得ている。

 だって危険人物と判断されたら、騎士っぽい人に剣でグサッとやられるもの。というか騎士なんだろうな。

 イケメンが多い。TVの液晶画面、こっちと向こうみたいな。麗しさの見えない壁があるよ。

 いつまでも見てたら失礼だから、部屋の様子でも観察しよう。

 ひろーい広い部屋だ。たぶん召喚の間。炎が浮いてる。それが照明なのか、他に電球とかロウソクは無い。魔法かな。魔法だといいな。私も使ってみたい。


「いっ……いったぁい」


 考え事して余所見してたら、額に何かが当たった。足元を見ると、石の付いたネックレスが落ちている。

 豪華衣装少年が、不機嫌そうに言ってきた。


「余所見とは、不敬が過ぎるぞ。女」

「す、すみません」


 反射的に謝ってしまった。

 ネックレスを拾って返そうと差し出したら、手でしっしっと拒否された。悲しい。


「フェルウォークの母親の品など要らん。女、貴様にやろう」

「はぁ……。ありがとうございます」


 偉そうに言われても、ちっとも嬉しくないけどね。

 騎士の一人が、少年に話しかけた。


「殿下。あのネックレスは、フェルウォーク様が大切になさっている品。借りている物を、無断で贈与なさってなりません」

「あの男が何かを、大切に扱った試しがあったか? いつも薄暗い図書館に居て、王宮の穀潰しが」


 少年に言っても無駄だと感じたのか、騎士さんが私を見た。私は無言で頷いて答えた。

 大丈夫。なんとかウォーク様に、ネックレス返せばいいのね。名前半分しか覚えてないけど。

 少年が、ぐちぐちと愚痴を始めた。


「初代国王の母が持っていた宝杖。その杖に付いていた石を、砕いて造られたネックレス。眉つばだろう。本物ならば、見目麗しく才能溢れる淑女を、召喚できたろうに」


 私を頭のてっぺんから、つま先まで見て、少年は溜息を盛大に吐いた。


「こんな年増の女など、いらん。地下牢に捨てろ」

「ち、地下牢!? 嫌だよ。牢屋なんて!!」


 これにはさすがに、どうなのよと。勝手に呼んどいて、いらないから捨てるって。人は物じゃないからね。

 私が大きな声で反論したからか、少年に近い位置に居る騎士2人が剣を抜いた。

 思わず、息をのんだ。

 グサッとは直ぐにやられない距離があるから、大丈夫だと思うけど。

 あ、でも。前に動画で見た、日本刀の達人は、ひゅっスパッと的を斬ってた。あれはすごく速かった。

 騎士の人達もあれくらい速かったら、私避けれない。

 終わってしまうのか、私の人生。

 20年とほんの数年。自分では、年増だと思って無かったけど。10代くらいの少年には、十分おばさんだったのか。せつない。

 せめて一度でいいから、恋人を作ってみたかった。

 朝起きて、おはようって言うんだ。お昼ごはんは、彼にお弁当を作って渡す。味付けは何が好きかな、とか悩んでみたい。寒い夜は、湯たんぽみたいって、ぎゅっと抱きしめるんだ。


「ふっははは。声も出ないか、女」


 ちょっと少年、だまってて。

 今から空想彼氏と、手を繋ぎながらデートするんだから。

 あれ? 今、私の隣りにいるのは、空想彼氏ではなく、騎士達だ。そして疑いの余地も無いけど、私今、連行されてるぅ!!

 ただ黙って目の前の、鉄柵が降りるのを見ていた。

 石レンガって、こんなに冷えるんだ。半地下で、背の届かない高い位置に、格子の付いた窓がある。

 あの時剣を抜いた騎士2人も居るから、従うしかない。でもここに居たら、ネックレス返せない。

 そう思って、柵の間からネックレスを、差し出したら断られた。少年に話しかけた騎士さんだ。


「そのネックレスがあれば、牢から出れる可能性はあります。フェルウォーク様の、お心次第ではありますが……」

「サイダス」


 他の騎士が、話しを中断してきた。

 騎士さんの名前は、サイダスさんね。うん。覚えやすい名前だ。

 何とかウォーク様は、フェルウォーク様。きちんと覚えておかないと、牢から出れなかったら困る。

 騎士達は行っちゃった。

 独りで牢に居るのはキツイ。寂しいし、せつない。異世界って、わくわくして楽しい所だと思っていた。

 暗くなってきたから、寝よう。

 遠くから、私を呼ぶ声が聞こえる。


「……おい。まさか、凍死したか? 起きろ、異界の客人」


 うう、まだ寝ていたいのに。

 誰よ、朝早くから起こすのは。


「あと10分……」


 2度寝したい。


「寝るな! ネックレスを寄こせ」

「ネックレス……ネックレスは、フェルウォーク、さまに……返す、から」

「俺がフェルウォークだ」

「ほぇ?」


 目を開けたら、柵の向こうに男の人がいた。無精髭が生えている。髪はボサボサで、梳かしていないのかも。Yシャツは皺だらけだ。

 寝冷えて強張った体を、よいしょと起こして正座する。


「はじめまして。アカネです」


 無言で手を出された。その手にネックレスを返す。

 無造作にポケットに入れてる所を見ると、ネックレスが大事なのかそうで無いのか分からない。


「このネックレスは、帰還には向いていない。石の力は強いが、父が無理に捻じ曲げた所為でな。異界から呼ぶには、いいのだが……」

「うーん。寝起きに、難しいこと言われても、困る」


 そこでタイミングよく、私のお腹が鳴った。音量ボタンがあったら、最大値になっていたに違いない。盛大に鳴ってる。


「自己主張が激しいな……」


 呆れた目で見ないで欲しい。


「サイダス、牢の鍵を開けてやれ。ミト、客人の世話を任せた」


 ここではじめてフェルウォーク様の後ろに、人が居たことに気付く。

 サイダスさんの斜め後ろ辺りに、女性がいる。紺色の服に白いエプロン、侍女さんだ。私が着ても、あんな風に可愛くなれるのだろうか。なれないんだろうなぁ。

 王城の長い廊下を歩く。目的地は、お客さん用の部屋へ。

 朝焼けだ。王城の壁があって、その向こうに街並みが見える。

 デカイ鳥に乗った人が、城の庭に降り立った。手紙らしき物を、使用人さんに渡している。郵便屋なのかな。その近くでは、変わった鹿が歩いている。

 なんというか、異世界に来たんだ、っていう実感が湧いてきた。


「? 何を身構えている? 置いて行くぞ、客人」


 カメラで写真を取るポーズをしていたら、注意されてしまった。


「綺麗な景色だったから、写真で撮れたらいいのになって。きっと明日には、忘れちゃいます」

「朝焼けなど、毎日見れるだろう」

「この一瞬は、今日だけのものですよ。庭に誰が居たとか、誰とこの景色を見たとか、後で思いだせるように記録しておきたい。まぁ、カメラ持ってないので、撮れませんけど」


 フェルウォーク様の目が見開かれた。ぼそっと、独り言みたい。


「……驚いたな。父と同じような事を言うとは。それは、外の世界の感性なのか……?」


 何やら眉間に皺を作って、考え込んでしまった。

 そんなに難しい事を、言ったつもりは無いんだけど。


「客人、頼みたい事がある。古文書の解読を、手伝ってもらいたい」

「私、頭良くないです!」

「そっちの世界の言葉で、書かれた本を訳すだけだ。理由があって俺の手元に居れば、あの馬鹿の手も届かん」

「あの馬鹿……ああ、殿―」


 盛大な咳払いが聞こえた。振り向くと、サイダスさんだった。

 フェルウォーク様が、面白そうに笑っている。


「優秀な兄の血を受け継いでいるとは、とてもじゃないが思えないな。あれでは、俺と駄目さ加減で競える」

「フェルウォーク様、御自身を卑下なさってはいけません」

「説教をはじめるつもりか? サイダス、やめてくれ。ほら。客人の腹の虫も、鳴いている」

「鳴って無いよ!」





 お客さん用の部屋に到着しました。

 フェルウォーク様とサイダスさんとは、途中で別れた。

 すごく豪華だ。部屋が、寝室とリビングで別れている。トイレとお風呂も、付いている。高級ホテルかな?

 ゆっくりと部屋の中を眺める。眺めながら、私は着替えをしている。もちろん、お風呂はいただいた。

 間違った。着替えさせて、もらっているんだ。


「アカネ様、きつくありませんか?」

「大丈夫です。あ、駄目だ。この後、ごはん食べたらヤバイ。ミトさん、私に様付けはいらないですよ」

「フェルウォーク様が、客人と呼ばれた方です。敬称を略すなど、畏れ多くできません」

「そうですか……」


 髪もメイクも、してもらっちゃった。誰かの結婚式とかじゃないのに、こんなに綺麗に仕上げてもらっていいのかな。

 これがここの普段着なら、皆おしゃれさんだ。

 リビングで私は、優雅に朝食を食べている。どれくらい優雅かと言うと、途中でやってきたサイダスさんに気付かなかったくらい。


「アカネ様、こちらの食事は口に合いましたか?」

「ふぁい! ごっくん。すっごく、美味しいです! 何皿でも、いけますよ!」

「そうですか。それはようございました」


 サイダスさんが苦笑しているような気配を感じたけど、気の所為だよね。私は料理を見ているから、顔を見れてないけど。


「ミト、フェルウォーク様は図書館に戻られた。夕食はいつもの時間に、との仰せだ」

「わかりました。サイダス様は、朝食を召しあがりましたか?」

「もちろん食べた」


 むむ。この香りはっ!

 私の好きな匂いだ!


「手軽で簡単なもの、ですか?」

「ミト、心配しないでくれ。あれは、忙しい日が続いただけなんだ」


 からあげキタッー!!

 異世界で、からあげが出てくるとは! 最高かっ! 隣りの皿に乗ってるソースと絡めると、一段と美味しさが増す。


「栄養が偏りますよ」

「そんなに言うのなら、栄養が偏らない料理を食べてみたいものだ。君の、手料理を」

「ふふっ。張りきって、作らせて頂きます」


 スープも野菜が花の形だったり、目で愉しむ料理というやつか。

 くぅー、食べた。お腹いっぱい。幸せ。

 振り向くと、2人が黙ってこちらを見ていた。なんだか、サイダスさんとミトさんが、話し合っていたような。気の所為かな。ごはんに夢中だったから、分かんない。

 改まった様子でサイダスさんが、話しを切りだした。


「アカネ様、古文書の解読の件ですが……」

「やります! やらせて下さいっ!」


 デザートがワゴンで運ばれてくるのを見ながら、私は承諾した。

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