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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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星天大戦③

 自分達が立てた作戦の成功を手を取り合って喜ぶ光流達。


すると、彼らの遥か前方から幼げながらも妙に冷めた声がかけられる。


「はしゃいじゃってるとこ悪いんだけどさぁ、もっと回り見た方が良いんじゃない?おにーさん達」


声の主はーーー蜘蛛丸だ。


彼の言葉に、はっと我に返る光流達。


(そうだったーーー!)


此処は戦場で、今自分達はこの場に集う者達全員の命運を懸けた戦いに挑んでいる最中なのだーーー。


初陣で、自らが仲間達と立案した作戦が見事に成功した事に浮き足立っていた光流は、己が置かれている状況を思い出すのと同時、強い殺気を感じ振り返る。


其処には大きく口を開けた触手が、光流の目の前・・・最早、逃げる事すら出来ない距離まで迫っていた。


(喰われる・・・!!!)


自身が無惨に頭から食い付かれ、咀嚼されていく様を幻視する光流。


だが、次の瞬間


「おやややや~?まだまだ深夜1時だよ~?おやつにまだまだ早いんじゃないかな~?それにそれに、そもそも私のお友達はおやつじゃないんだから!!」


そんな、あっけらかんとした明るい声が辺りに響き渡る。


と、同時に、光流を喰らわんと彼の目前まで迫っていた触手が、まるで何かにその体を拘束されているかの様に、光流の頭に食い付く寸前でピタリと動きを止めたではないか。


(な、何が起きたんだ・・・?それに、今の声は・・・・・・)


触手が動きを止めている隙に、光流は飛んで後ろへ下がると、改めて声がした方を振り返ると、其処には


「正義とお友達の味方!戦うナース、文車妖妃参上~!」


校庭の隅に設置された雲梯の上に立ち、決めポーズらしきポーズを決めている文車妖車がいた。


「・・・馬鹿野郎。ンな小っ恥ずかしい真似してねェでとっとと降りてこい、この阿呆付喪神が」


それを見た雲外鏡の額には若干青筋が浮かんでいる。


しかし、やはり怒られ慣れているのか、文車は雲外鏡の怒声等全く気にしていない様子で、「とぅっ!」という気合いの入った掛け声と共に地面に飛び降りてきた。


(子供向けの番組のヒーローみたいだな)


彼女の、幼稚とも言える掛け声やポーズに、光流は少しだけそんな事を考える。


すると、そんな光流の目の前で、手に持っていた開かれたままの本のページを捲り始める文車。


瞬間、まるで止まっていた時間が今動き出したかの様に、先程光流を喰らう寸前で動きを止めていた触手が、いきなり地面に倒れ込んだ。


しかも


「っ?!」


地面に倒れ込んだ触手の体をよく見てみるとーーーその大きな体が、鋭利な刃物で切り裂かれたかの様にバラバラになっているではないか。


あの一瞬の内に、一体何がーーー?


余りに突然の事に驚き、思わずその場で固まる光流。


けれど、触手は容赦なくそんな光流を狙い、一斉にに鎌首をもたげ、彼に襲い掛かる。


だが


「『知識フールズ・ノウレッジより強し』」


そう、文車がよく通る声でそう言い放つと同時、彼女の持っていた本のページから、無数の文字がまるで鎖の様に連なって溢れ出し、触手の群れを拘束する。


(あの時、僕を助けてくれたのは、彼女のこの技だったんだな・・・。しかし、さっきの『戦うナース』っていうのは、ジョークかと思ったんだが・・・まさか、本当だったとは)


身動き一つ出来ない程キツく、雁字搦めに拘束された触手達を見上げながら、初めて目にした文車の妖術の、その精度と練度の高さに舌を巻く光流。


と、そんな光流の耳に、不意に文車の声が聞こえてきた。


「はいはいは~い。皆、大人しくしてて良い子良い子!でもね~?皆はたぁ~っくさん人間を傷付けたでしょ~?だから、ブッブー!ペナルティで~す!」


口許に、両手の指で×を作りながら、まさに文字通り歌う様に触手達に語りかける文車。


(おいおい、敵の目の前だぞ?本を手放して大丈夫なのか?)


光流は一瞬そう心配するも、彼女の周囲で誰も触れてすらいないのに、沢山の本がひとりでにふわふわと浮かび始めたのに気付き、己の心配が杞憂であったことを知る。


「ではでは、張り切っていきましょ~!『盲目デッドリー・死刑執行人デッドリー・デス』」


宙に浮かぶ無数の本に囲まれて、文車がそう告げた、次の瞬間ーーー音もなく、まるで最初からそうであったかの様に、触手達の体が細切れになる。


そうして、そのまま地面に崩れ落ちると、灰の様な細かな粒子となり、やがて跡形もなく消え去っていく。


恐らく、触手達を切り裂いたのはあの文字の鎖だろう。


触手を拘束していたあの文字の鎖が、その身を刃へと変え、触手達を切り裂いたのだ。


「ふぅ、一件落着だね~!」


額の汗を拭う真似をしながら、溌剌と光流にそう告げる文車。


彼女のその明るさに何処か安心感を覚えつつ、光流も「ああ、そうだな」と返す。


文車は、そんな光流にふわりと柔らかく微笑みかけるが、直ぐに仲間達の方を振り返ると「んじゃ、いよいよダンジョン探索に行きますか~?」と、声をかける。


彼女のその言葉に、ふと光流が辺りを見回してみるとーーー成る程、日之枝や天海ら仲間達の尽力で、校庭に蔓延っていた触手達はその殆どが姿を消していた。


今校庭にいるのは、光流達以外では、触手達に襲われ未だ意識の戻らない生徒達だけである。


そんな、意識の混濁している生徒達を、校舎からは比較的離れた校庭の隅にある芝生まで運ぶと、其処に寝かせる光流達。


日之枝や天海は、そんな生徒達にこれ以上被害が及んだりしない様、妖術で護りを施していく。


そして、校庭に居た全ての生徒達の避難と守護が済むと、光流達は改めて漆黒の闇に包まれた校舎に向き直る。


「大分、時間がかかったが・・・これなら、皆も安全だろう。・・・さて、と」


校舎は全てが漆黒の闇に覆われ、何処が昇降口かすら分からない状態だ。


しかし、それでも、『昇降口であった場所』に向け、光流達は歩き出す。


例え、目の前に広がっているのがどんなに絶望的な状況であろうと、彼らは決してその歩みを止めることはない。


何故ならば、其処は彼らにとって、とても大切なーーー沢山の思い出の詰まった場所なのだ。


だからこそ、そんな大切な場所を悪神から取り戻す為、果敢に校舎に向かっていく光流達。


そうして、光流達はやっと校舎まで辿り着く・・・が、やはり、昇降口は漆黒の闇に隠されて全く見えない。


と、言うか、綿菓子の様に大きく肥大化した闇が校舎を覆い隠し、今や校舎そのものが一つの黒いドームの様になってしまっているのだ。


その状況に


「いっそ、何処でもいいから風穴をぶち開けっか?」


雲外鏡がなんとも恐ろしい事を口にする。


「止めて下さい。教室だったら如何するのですか。中にいる生徒達が大怪我をするかもしれないでしょう」


すかさずそれに反論する天海。


天海の言葉に、雲外鏡は至極残念そうな表情かおを浮かべると、小さく舌打ちをする。


如何やら、先程の発言は本気だったらしい。


(・・・おいおい、マジかよ)


もし、このまま良い侵入経路と、侵入方法が見つからなければ、本当に雲外鏡が校舎の壁をぶち壊しかねない。


そもそも、まさか此処まで闇が濃くなっているなんて、光流達にとっても予想外だ。


彼らが校舎から離脱した時は、確かにまたはっきりと校舎の姿が見えていたのだから。


だからこそ


(・・・・・・如何するかな)


光流は頭を抱えてしまった。

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