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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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星天大戦

 「おー・・・綺麗だな」


無数の星がちかちかと競う様に輝く満点の星空を見上げ、そう呟く光流。


時刻は深夜ーーー午前一時。


何時もならば、光流はベッドに入り、微睡みながら漫画や雑誌を読んだり、友達とチャットをしている時間だ。


しかし、今、光流は暖かな部屋のベッドの中ではなく、通い慣れた学舎まなびやの前に立っている。


深夜だというのに晴れ渡った空は雲一つなく、空一面で煌めく星々が、こんな地上からでもよく見えた。


天体が好きな者にとってはまさに天文観測日和とも言えるであろう、美しい夜。


そんな美しい夜に、光流達の目の前に広がっているのはーーー漆黒の闇に覆われた、暗闇の世界。


夜の闇より深い暗黒色に彩られたその場所は、夜空の闇をもその身に纏い、まるで最初から其処には闇以外が無かったかの様な、そんな異様な雰囲気を醸し出していた。


「本当に何も見えないね。まるで、学園が校舎ごとこの世界から切り離されちゃったみたい」


光流の隣で、目の前の漆黒を見つめながらそう呟くのは楓だ。


彼女が言う通り、光流達の目の前のーーー本来学園があったその空間は、今は濃い闇に覆われ、学園やクラスメイト達が如何なっているのか、校庭で倒れていた者達は無事なのか、それらを窺い知ることは一切出来そうにない。


それに、何より


「これでは、どんな罠があっても分かりそうにないですね。敵も闇に乗じて待ち伏せしているかもしれません。用心していきましょう」


光流達と並び立つ天海が一同にそう呼び掛ける通りーーー光流達の目の前に広がるのは、まさに『一寸先は闇』を体現したかの様な空間だ。


外から見ただけでは、校舎の何処に何があって、どんな存在が待ち受けているのかを判別するのは困難と言えよう。


「しかし、まさかここまで闇が広がっていたとは・・・。これでは、先に潜行している夜叉丸達と合流するには些か骨がおれそうですね」


携帯電話を片手に、未だ繋がらない中の仲間達の端末へと発信しながら呟く葉麗。


「彼ら程の手練れならば、そうそう簡単に討ち取られること等無いでしょうが・・・ただ、彼らの体力にも限界がありますからね・・・。彼らが力尽きてしまう前に、如何にか合流しましょう」


状況的には、やはりというか・・・かなり悪いらしく、深刻な表情で一同を振り返るやそう告げる葉麗に対し、光流達も表情をより一層引き締め、しっかりと頷いた。


すると、光流達の後ろに居た雲外鏡が、この緊迫した状況には余りに似つかわしくない大きく、愉快そうな声を出す。


「よォし、そうと決まりゃぁ早速中に入って鬼退治といこうじゃねェか」


そうして、彼が着流しの懐から取り出したのはーーー鈍い銀色に光る、一丁の拳銃だった。


雲外鏡は、慣れた手付きで弾を装填すると、先の見えない暗闇に向かって拳銃を構える。


同時に


「コーデリア!」


「ええ」


光流も左腕に焔を宿し、その先端を鎖鎌の様に変化させると、目の前の純黒の空間に向かって構えた。


そんな二人を見遣りつつ、葉麗は楓達に視線を巡らせると、よく通る声で一同に問い掛ける。


「それでは皆さん、準備は宜しいですか?」


「あァ」


「勿論!」


「うんっ!」


返って来るのはどれも、威勢の良い返事ばかり。


彼らのその返事に葉麗も大きく頷く。


と、同時、戦いに不馴れな光流達を、死角からの攻撃から護る為、日之枝と天海が左右の端に展開する。


布陣、得物、時、場所・・・そしてなかま


さぁ、全ての準備が整った。


とある理由から、未だ美稲と達郎、それに華恵と文車の姿が見えないが、あの四人ならば問題ない、きっと直ぐにやって来るだろう。


それよりも、潜行した仲間達が心配だ。


そう判断した光流達は、四人を待たずしての突入を決意する。


『その時』が刻一刻と近付くにつれ、高まる緊張感に表情を固くする光流達。


葉麗はそんな彼らをぐるりと見回すと


「それでは皆さん、行きましょうか・・・いざ、地獄の一丁目へ!!」


と、言い放った。


瞬間、ほぼ同じタイミングで放たれる弾丸と焔。


それらが正門の周囲を覆う闇にぶつかると同時、ぱりんっという、まるで硝子の板が割れたかの様な高い音が周囲に響き渡り、正門を覆っていた闇の一部・・・丁度、左右に開かれた門の真ん中辺りの闇が消え去った。


「今ので結界の一部が消えたんでありんす」


目を丸くする光流達に、そう説明をしながら煙管の火皿から立ち上る煙に上からふーっと息を吹き掛ける日之枝。


すると、見る間に煙は大きなオレンジ色をした炎の龍となり、闇が消えている部分から校庭へと身を踊らせていく。


眩しい光を放つ炎の龍が進入したことで、龍の周辺は昼間の様に明るくなり、誰が倒れているか等の視認が可能となった。


この、絶好の機会を逃す手はない。


「皆、行くぞっ・・・!!」


「てめェら、ついて来な!!」


そう叫びながら、日之枝の炎の龍が切り開いた道を猛然と突き進む光流と雲外鏡。


楓や葉麗達もその後に続く。


ーーーこうして、夜の世界の片隅で、学園と其処に居る沢山の人々の命運を巡り、悪神と人間との戦いの火蓋が切って落とされた。


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