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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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夢幻と桜の都・朧⑩

 「そうですね・・・自分で名乗るのもおこがましいですが、確かに、私が滝夜叉ーーーいえ、遥か昔に人間で在る事を捨て、妖術で自ら妖怪となった者、です」


誰にともなく、そう呟く様に口にした葉麗の表情は彼女の椅子と化した光流からは窺い知ることは出来ない。


けれど、彼女のその声は、まるで凪の海の様な・・・静かで、それでいて何処か悟りきった様な声音をしていた。


(結城・・・・・・)


自らを『人間で在る事を捨てた』と称した葉麗が、自身をそう標榜出来る様になるまで、どの様な事があったのか。


決して、平坦で、幸せな出来事の連続等ではなかったことは想像に難くない。


しかし、まさか日本の歴史上の人物に生きて出逢える等全く思ってもみなかった(まぁ、誰もそんな事予想すら出来ないだろうが)華恵は、葉麗のそんな些細な変化等気付きもしない様で、興奮に頬を紅潮させたまま、葉麗の手をぎゅっと握るとぶんぶんと激しく上下にふるう。


「まさか本物のプリンセスタキヤシャとお会い出来るなんて!fantastic!感激です!」


そんな華恵を見ながら、光流は


(感激って・・・如何考えても相手は妖怪だろうに。そんなに嬉しいもんか?)


等と少し冷めた事を考えていたが、華恵は本当に葉麗ーーーもとい、滝夜叉姫に逢えたのが嬉しい様で、まさに興奮冷めやらぬといった様子のまま、矢継ぎ早に質問を繰り出していく。


「プリンセスタキヤシャ!古い文献に、貴女はヨージュツのプロと書いてありました!良かったら、是非見せて下さい!ジャパニーズオンミョーヨージュツ!」


華恵のそんな発言に、光流は(おーい、なんか色々混ざってるぞ)と思うも、突っ込むのは心の中だけにし、華恵や楓と共に静かに葉麗の返答を待った。


光流も、興味があるのだ。


タネや仕掛けのあるマジックとは違う、本物の妖術や陰陽術に。


すると、そんな場の空気を察したのか声に僅かに苦笑を滲ませつつ、葉麗が一同に語りかける。


「確かに、私は古の文献では怨念を積もりに積もらせ、丑の刻参りの呪詛神から力を授かった・・・所謂、妖術全てのエキスパートの様に書かれていますし、実際、呪詛神からは様々な妖術や陰陽術を教わりました」


そう話しつつ、葉麗は光流から降りると、先程まで文車が使っていたのであろう、出しっぱなしになっている裁縫道具に近付くと、針山から針を一本抜き取った。


葉麗は一体何をするつもりなのか。


一同が固唾を呑んで見守る中、次に葉麗が手にしたのは


「あーっ!!あれ、華恵ちゃんのタロットカード!!」


そうーーー大音量で楓が叫ぶ通り、葉麗が取り出したのは、紛れもなく今朝日之枝に没収された筈の華恵の『戦国姫将和風タロット』のカードであった。


一体いつのまに、日之枝から葉麗の手に渡っていたのか。


光流達がそう首を捻る間にも、葉麗は妖術の準備をしつつ話を続けていく。


「でも・・・知ってます?私ってば、一度、『お父様のいない世界なんて壊れちゃえ!お父様の恨みは私が晴らしてやるー!』って日本を転覆させようとしたんですよ」


光流が本日聞いた物騒な発言の中でも、割りとトップ3に入る勢いのかなり物騒な発言をさらりと言ってのける葉麗。


対して光流は、その爆弾発言とも呼べる彼女の台詞に思わず目が飛び出しそうになる。


「日本を転覆ぅぅぅ?!」


「あ、でも失敗しちゃったんですよ。私、昔からツメが甘くて。残念残念。お父様を討ち取った奴等の寝首位は掻いてやりたかったんですけどね。で、その首を、こう、ハワイのレイの様に一本の紐で繋げて、お父様のお墓に飾ろうかと」


やはり恐ろしい事をしれっという葉麗。


光流はエリマキトカゲの如く、未だ首の回りに障子を装着したまま


「嫌だそんな血生臭いレイ!!そんなのレイじゃない!レイには『絆』や『繋がり』とかハートフルな意味があるんだぞ!」


と、つい叫ぶも、葉麗な気に留めた素振り等一切なく、針を部屋の隅にあった行灯の火で熱しながら、平然と


「首から滴る生暖かい血液が服を濡らして体を温めるからハートフル?」


そう言ってのけた。


(とんだサイコパス!!!)


無表情ではあるが自分達の危機に駆け付けてくれたし、実は良い奴なのでは、と思っていた転校生兼バイト仲間が遥か昔に国家転覆を企てた妖術使いの元テロリストと知り、ちょっとこれから如何したら良いか分からなくなる光流。


「いや全然ハートフルじゃねぇよ・・・そんな方向のハートフル、お父さん逆に草葉の影で泣くから。号泣するから」


脱力しつつそう突っ込むも


「え。でも、一人目の首を獲った時は、お父様は私の夢枕に立って、こう、親指を立ててぐっじょぶ!って」


「親子揃ってサイコパス!!ってか獲ったんかい!!もう首獲ってたんかい!!」


「はい。三人目までは順調だったんですよねー・・・」


「三っ?!結構獲ったなぁおい!?今の時代なら間違いなく連続殺人でムショ行きだぞ!」


「ですよねー。全く、不便な世の中になったものです」


そう言って、針を熱しつつ、拗ねた様にぷぅっと頬を膨らませる葉麗。


表情は可愛らしいことこの上ないが、言っている内容は血塗れ逆ハートフルだ。


「不便じゃないから。平和的になっただけだから」


余りの葉麗との会話の通じなさに、最早披露困憊し、精根尽き果てた様子でがっくりとしながらもご丁寧に突っ込みを入れる光流。


すると、葉麗は、そんな光流を横目で見ながら、小さく「もう良いでしょう」と呟くと針を炙るのを止め、その針を逆手に持ち変えた。


そうして、針を自分の左手の人差し指に向かって構えながら語りかける。


「平和、ですか・・・。家族や、仲間がいて恵まれてる人にとっては、確かに今のこの日本はとても豊かで平和な素晴らしい国なのでしょうね。ですが、残念ながら・・・お父様が居なければ、どんなに国が豊かであろうと、恵まれた環境に身を置いていようと、私には一切関係がないんです・・・」


そう言い切り、己の指に針を突き刺す葉麗。


「っ?!」


止める間すらなかった一瞬の出来事に、光流は驚いて目を見張り、楓や華恵達は見ていられないのか両手で目を覆い隠す。


だが、当の葉麗はけろっとした様子で、光流達に向かって話を続けながらも、針を刺した指を華恵のタロットカードに押し付け、血で何かを描き始めた。


「だから、私は、天照様達と契約して、逢魔宵に入隊したんです。そうーーーお父様を蘇らせる為に」


葉麗の口から飛び出した余りにも突飛な発言に光流は一瞬言葉を失う。


(蘇らせる?平将門を?)


かつては怨霊と恐れられ、今なお、この文明が発達した現代社会に於いても畏怖と畏敬の念を以て崇められるーーー最早、神とすら呼べるその存在を。


彼女ーーー結城葉麗は蘇らせると言ったのだ。


この、現代の日本に。


葉麗のその発言に、大いなる困惑と驚きを以て、彼女のその黄金に輝く瞳を見つめ返す光流。


しかし、彼女の表情は真剣そのもので。


タロットカードに己の血液で何かを描きつつ、尚も葉麗は言葉を紡いでいく。


「先程、文車妖妃から聞いたでしょう?人は死ぬと魂が壊れてしまう、と。私のお父様は、この国全てを変える為、国家に挑み、敗北し、命を喪いました。謂わば、国家反乱を企てた大罪人という訳です」


そこまで語ると、葉麗は不意に血で何かを描いていた手を止め、悲しげに視線を落とす。


こころなしか、その瞳に涙が溜まっている様に見えるのは気の所為だろうか。


葉麗は、今度は溢れそうな雫を堪える様に上を向くと、先程より更に感情を抑えた様な声で言葉を続けた。


「故に・・・冥府の閻魔王の手によって、二度と反乱を企てぬ様、砕けていたお父様の魂は、更に幾百、幾千の細かい欠片に砕かれてしまいました」


葉麗がそう言い終わると同時、彼女が血で何かを描いているタロットカードが淡く光を放ち始める。


「だからこそ、私は天照様と契約したのです。逢魔宵として、人間界と朧を守護をし、偽神や悪神等人に仇為す存在を狩る代わりに、悪神から刈り取った核を天照様達が刻をかけて浄化し、それをお父様の欠けた魂の代わりにしてくださると。そうして、その核が千集まった時、再びお父様はこの世に生を得るのです・・・・・・!」


恍惚とした表情でそう言うと、葉麗はその手の中で先程より更に強く光を放ち始めたタロットカードを高く放り投げた。


同時に、今度は何処か自慢気な表情を浮かべ、光流達に向け、高らかに告げる。


「さぁ・・・これが、妖術の殆どを封印されし滝夜叉姫に残された唯一の術にして最大の奥義『現還うつつがえりの術』ですよ・・・!!!」

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