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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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夢幻と桜の都・朧⑧

 そう言い放った葉麗の迫力と語気の強さに気圧されつつも、なんとか「聞く!聞きたいです!聞かせて下さい!」と答える光流。


そんな光流に対し、葉麗は短く「宜しい」と告げると話の続きを語り始めた。


天照てんしょう様とツッキー・・・じゃなく、月季也つきや様は、この朧に住まう全ての妖怪を管理・統括している方です。ちなみに、お二人はご姉弟きょうだいなんですよ」


そこまで語り終えると、葉麗は雲外鏡の診療所の窓を開け、そこから見える大きな城を指差しながら


「ほら、見えるでしょう?あの城。お二人共、普段はあの白鶴はくつる城から使者を通して、私達・・・朧妖怪警邏隊おぼろようかいけいらたい逢魔宵おうまがよい』に偵察や討伐等の指示を出しているのです」


と、説明をする。


すると、光流は不思議そうに首を捻りながら「朧妖怪警邏隊?」と口にした。


彼の言葉に葉麗は「はい」と大きく頷くと、今度は朧妖怪警邏隊『逢魔宵』について話し始める。


「朧妖怪警邏隊『逢魔宵』とは、主に、朧から人間界に渡ったり、移住をした後に悪さをする妖怪達を取り締まる、人間の世界でいうところの『警察』の様な組織です」


「警察・・・?」


「はい。私達妖怪にも、この日の本の・・・法治された社会で生きている以上、護るべき社会規範というものは存在します。例えば、我々の種族が『妖怪』である以上、この朧にも人間を驚かす事が生業の者が必ず一定数存在します」


葉麗はそう語りながら、診療所の書棚に在った『画図百鬼夜行がずひゃっきやこう』というかなり古い書物を取り出すと、光流に手渡しながら話を続けた。


「ですが、彼らは人間を驚かせる事等についての許可を天照様から頂いている為、かなり過度で悪質な手段ではない限り、捕縛をされることはありません」


「へぇ・・・そうなのか」


(妖怪の世界っていうのも、なんだか現実世界みたいなもんなんだなぁ)


ふとそんな考えが光流の頭の片隅を過る。


と、まるで光流の考えを見透かしたかの様に、目を細めながら、葉麗が「現実世界の日本みたいでしょう?」と告げた。


彼女の言葉に、思わず


(まさか、考えが読まれたのか・・・?と言うかこいつ、さっき、私達妖怪って言ってたよな・・・。ってことは、やっぱりこいつも妖怪で・・・もしや、考えが読める妖怪とかなのか?)


と身を固くする光流。


二人の間に漂う一種の緊迫した空気。


しかし


「でもでもねーっ!!その法律もぉ、本当は妖怪を護る為に作られたんだよっ!!」


そのシリアスな空気を粉砕するかの様に飛び込んできた文車の明るく溌剌とした声。


驚いた光流が彼女の方を振り向くと、それを話の続きを促しているのとでも勘違いをしたのか、まさに立て板に水といった調子で文車は話の先を続け始める。


「妖怪の中にはね、先祖代々人間を脅かす事をお仕事にしてる人や、そもそも人間を脅かす為だけに存在してる人も沢山いるの!でもね?今、そんな人達が全員失業しちゃうかもしれない・・・ううん、人間を脅かしたり、人間と触れ合ったりする事自体が一切出来なくなっちゃうかもしれない、大・大・だーいピンチなんだよっ!」


顔をずいっと迫らせ、必死に訴えかける文車に、葉麗とはまた違った意味の気迫の様なものを感じ、「お、おう」とだけ返すと、なんとか距離をとろうと後ろ手に後ずさりをする光流。


(顔・・・顔が近いって・・・)


そう、今はこんな有り得ない状況下に放り込まれてはいるが、光流とて本来は健全な高校生男子だ。


愛らしい女性に余りに迫って来られては嬉しい半面困惑もしてしまう。


特に、こんな、いつ友人や家族に目撃されてしまうか知れない場所では。


しかし、文車は後ずさる光流に対し


「すーっごく大事なことなんだよ!ねぇ、聞いてるの?!人間を驚かせられなくなったら力の源がなくなって消えちゃう妖怪だっているんだよ!」


と余計に迫って来るではないか。


「聞いてる聞いてる聞いてます!だからあんま寄って来んなって!!」


必死に手を伸ばし、何とか迫る彼女との距離をとろうとする光流。


だが


むにっ、とーーー伸ばした手に伝わる柔らかい感覚。


なんとなく感じる嫌な予感に、光流がそっと己の手の触れている先を見てみると


胸、だった。


文車の柔らかそう(いや実際柔らかい様だが)で、大きめな胸に光流の片手が突っ込んでいる。


瞬間、動いたのは葉麗だった。


「はい、公然猥褻罪、及び、婦女暴行容疑で逮捕」


ガチャン、と光流の手首にかけられる本物の手錠。


「おいぃぃぃ!いやちょっと待て!!!これは誤解だって!!!」


葉麗に手錠をかけられ、暴れる光流。


そこに


「ひぃぃぃぃかぁぁぁぁるぅぅぅぅくぅぅ~・・・ん???」


数時間前の童女より強い殺気を漂わせ、降臨なさる楓様。


嗚呼、彼女は一体何時から其処に居て、何処から見ていたのだろうか・・・。


自称花の女子高生だというのに、両手を組み、指をボキボキいわせるその姿は完全に喧嘩慣れした、プロの『ヤ』から始まる職業の方だ。


「待て待て待て待て待て!!!楓!!誤解だ!!これには深い訳がーーー」


「せからしかぁっ!!!」


ばきっという大きな大きな音が響き、まるで格闘ゲームで負けたキャラの様に綺麗な弧を描いて吹っ飛ぶ光流の体。


「せからしかってお前何県民だーーー!!!」


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