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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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夢幻と桜の都・朧⑥

 光流が診療所の入り口でぼんやりそんな事を考えながら突っ立っていると


「あ、また会ったね!ほーら!入って入って!遠慮しないで!」


部屋の奥から、明るいピンク色の髪をした女性が現れ、玄関でたったままであった光流の手を引き、中へと促していく。


未だ朧気ではあるが、少しずつこの診療所内での記憶を取り戻していた光流は、彼女の姿を認めるや、やや口許を綻ばせながら、頭を下げた。


「・・・その節はどうも、文車ふぐるまさん」


すると、そんな光流の言葉を受けて、文車と呼ばれた女性は照れた様に手をひらひらさせながら



「やーだぁ。私は当然のことをしたまでだよっ!」


と告げる。


心なしか、頬もうっすら赤く染まっている様だ。


「でもさ?ヒカルン、あの時はパパリンやママリンの所に逝きたい!って毎日泣いてばっかりだったけど・・・やっぱり、逝かないで良かったみたいだねっ?」


「ああ。お陰様で、新しい家族や、面白おかしい友人達にも出会えたからな」


「そっか!うん、良かったね!!」


そう言って弾ける様な満面の笑みを浮かべる文車。


雲外鏡が常にニヒルな笑みを浮かべ、その表情だけでは一切彼の心の内を読むことが出来ない様な人物であるのに対し、彼女ーーー文車は、思ったことが直ぐ顔に出る、非常に分かりやすい人物であるらしい。


と、診療所の奥から、現在華恵を診察中である雲外鏡の声が飛んでくる。


「おい、文車妖妃ふぐるまようき。何油を売ってやがる。とっとと霊障用の消毒薬と包帯を持ってこい」


(・・・うわ、少しは物の言い方ってもんがあるだろ。まさに、パワハラ上司って感じだな)


雲外鏡のキツめの物言いに、ちらりとそんな事を考える光流。


しかし、言われた当の本人である文車は、もう既に慣れっこなのか、大して気にした様な素振りも見せず、寧ろ逆に元気よく


「はーいっ!」


と答えると、壁際にある薬箪笥をごそごそ漁り始めた。


文車妖妃が消毒薬を探して頭を動かす度、彼女の頭にちょこんと乗ったかなり大きめのナースキャップがゆらゆら揺れる。


(百均によくある、太陽光で揺れるソーラースイングみたいだ・・・)


文車の、絶妙な具合で揺れるナースキャップを見ながら、花が首の様に前後に揺れるタイプのソーラースイングを想像する光流。


だが、光流は直ぐに思考を現実に引き戻すと、彼女を手伝い消毒薬を探しながら、今日の有り得ない『非日常的な』経験を通して生じた様々な疑問を彼女にぶつけてみる事にした。


ちなみに、光流が彼女を選んだのにもちゃんと理由わけがある。


それは、彼女の正体にあった。


『文車妖妃』ーーーそれは、古に使用されていた、本を運搬する為の車が長い年月を経て付喪神に転じた妖怪だ。


そうして、様々な書をその身に乗せていた際、沢山の知識を吸収した為、巷の妖怪図鑑等では妖怪の世界で一番知識がある者とも記されている。


文車自身の朗らかな人柄も相俟って、妖怪界一物知りな彼女ならば光流の疑問に答えてくれるのではないか。


そう期待を込めて、光流は彼女を選んだのだ。


光流は文車の隣で、目線はあくまで薬箪笥に向けたまま、彼女に声をかけてみる。


「あ。あのさ?文車さん。無理にじゃないし、分かればで良いんだけど、実は聞きたい事があるんだ」


「ん~??何かご質問かなっ??良いよ!私に分かることならなぁーんでも聞いてっ!!」


光流の言葉に間髪入れず、そう答える文車。


やはり、彼女を選んだ光流の目に狂いはなかった様だ。


光流は彼女に「ありがとう」と礼を返すと、直ぐに一つ目の質問を口にする。


「じゃぁ・・・先ず、悪神についてなんだけど。悪神ってなんなんだ?」


「ん、悪神だねっ!君、偽神は知ってる?」


「ああ」


「じゃ、話は簡単!悪神は、偽神や、偽神になりうる魂の集合体なんだよ!」


「魂の集合体・・・?」


「うん!たぁーっくさんの偽神や、死んだら偽神になりそうな・・・どろどろした欲望で魂が満たされた生者の魂が無数に融合して混ざり合った存在、それが悪神なんだっ」


「・・・そうなのか。じゃぁさ?偽神の、もう一度生き直す、みたいな目的って、悪神にはあるのかな?」


「そりゃぁ勿論あるよぉ!悪神には、実は、核になってる一番怨念の強い魂があってね?融合した偽神や魂達は、その核の『目的』を満たす為に行動してるんだよ!」


「核の、目的・・・」


「うん。だから、お姫様・・・じゃなくて、葉麗ちゃんに聞いたんだけど、今君達の学校を襲ってる悪神も、きっと何か理由や目的があって、その場所を選んだんだと思うんだよねぇ」


「成る程・・・そうだったのか。あ、あのさ?じゃぁ、次に『忌屍使者デッドストーカー』について聞かせてくれないか?」


「ん、良いよ!忌屍使者の、何が聞きたいのかなっ?」


「何が、って言うか・・・全部、かな。全て、知りたいんだ。忌屍使者とは、一体何なのか・・・」


「そっか。うん、分かったよ!全部教えてあげるねっ!」


「ああ、ありがとう。文車さん」


「いーえー!だって、知識は皆で平等に分け合わないとねっ!」


そう言って、ぱちりと片目を閉じ、光流に向かってブイサインをしてみせる文車。


文車が少しでも動く度、彼女のくるくると縦にカールのかかったピンク色のツインテールがふわりと揺れる。


また、彼女が着ているナース服もスカートが柔らかな曲線を描いたバルーンタイプになっており、文車の可愛らしさを上げるのに一役買っていた。

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