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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
79/148

えらぶのは④

 「は?ジュテキトーソー?」


一体こいつは何を言ってるんだ、そんな表情かおで目を丸くし、華恵を見る光流。


すると、華恵はそのたおやかな美貌に、僅かばかりの苦笑を浮かべると、光流の手を引いたまま


「後で、必ず説明してあげますから」


と、だけ告げた。


「・・・分かった」


華恵のその言葉に、あの闇を退けた『ジュテキトーソー』とやらが何なのか、確かに気にはなるが、残念ながら今は話している余裕等一切ない光流は渋々ながらも頷いてみせる。


そんな光流の様子に、華恵もまた、強く、しかし何処か愛らしい仕草で頷き返すと、光流と美稲の手を握ったまま、再度走り始めた。


一方、背後では闇がまたも力を取り戻し、その『根の国』へと続いているのではないかとすら思わせる様な、暗いーーー夜の闇よりも尚暗いその腕を、光流達に向かって再び伸ばし始める。


「くそっ・・・何なんだ、ありゃぁ!キリがねぇぞ・・・!」


走りながらも、そう毒づく達郎。


「人の頭みたいにさぁ、鉄パイプでパッカーンと出来ないかなぁ?!」


その妹は妹で、兄と並走しながら何気に恐ろしい台詞をさらりと言ってのける。


((人の頭みたいにパッカーンって・・・まさか、こいつ・・・?))


まるで、一回本当に人の頭を鉄パイプでかち割ったかの様な楓の物言いに、思わず一瞬だけ楓に疑惑の目を向ける光流と達郎。


すると、そんな二人の間をすり抜け、目にも止まらぬ速さで黒い闇が伸びていく。


闇の辿り着く先はーーーなんと、光流達が目指していた、中庭からの唯一の出口、その場所だ。


「はぇ?!あそこを覆われちゃったら出られないんだよ?!」


泣きそうな声をあげる美稲。


しかし、闇に覆われているのは出口の三分の一程、まだ脱出出来る可能性は残されている。


未だ闇に覆われていない、出口のその隙間を目指して一気に駆け込む七人。


だが、闇も負けじと恐ろしい程の速さで出口を目指し、その魔手を伸ばす。


光流達が中庭から脱け出すのが早いか、それとも、闇が光流達を捕らえるのが早いかーーー。


先頭を走る達郎の右足が、開け放たれた出口の扉の敷居を踏む。


と、同時に出口だけではなく達郎の足すら搦め捕らんと伸ばされる無数の闇色の触手。


「ーーーっ?!」


達郎だけではなく、其処に居た誰もが闇に呑み込まれる達郎を幻視した。


その時、急に、達郎や出口に向かってその触手を伸ばしていた闇が悶え、苦しみ始める。


「な、何が起こったんだ・・・?」


思わず呆然とする達郎。


「お兄ちゃん!何ぼんやりしてんの!行くよ!」


だが、楓が兄の腕を力強く掴むと、半ば引っ張る様にして出口へと突き進む。


まるで、運動会のリレーでアンカーがゴールテープをきる様に、軽やかに、しかし素早く出口を走り抜ける楓と達郎。


光流達も二人の後に続く。


と、出口を通り抜ける瞬間、光流はある事に気が付いた。


出口に未だ執念深く絡み付く闇に、何かが突き刺さっているのだ。


「何だ・・・?」


出口を通り抜けて直ぐ、光流は振り返ると、目を凝らしてそれを見つめてみる。


すると、それはーーー


「櫛・・・?」


そう・・・古来より日本人女性が髪を梳く時や、時には髪飾りとしても愛用される、木製の櫛であった。


一応言っておくが、洋風の持ち手がついたタイプの櫛ではなく、純和風とでも言うのだろうか、持ち手が櫛の上部についた、半円形のタイプのものだ。


(何で、こんな物が・・・?)


光流がそう考えた矢先


「そう、櫛ですよ。それが貴方達を救ったんです」


童女以外の六人には非常に聞き覚えのある声が辺りに響き渡った。


その声に、櫛から視線を上げ、声のした方を振り返る光流。


其処には


「お前っ・・・!」


「結城さんっ!!」


口許に、薄く愉快そうな笑みを湛えた結城葉麗が立っていた。


「貴方達・・・いえ、貴方という人は、本当に、人外の存在に好かれる様ですね」


風に揺れる長い髪を指に絡ませ、弄びながら、光流に向かってそう告げる葉麗。


「・・・誰も好きで巻き込まれてる訳じゃない」


出来るなら僕だって平穏に暮らしたいんだ、そう、憮然とした表情で葉麗に言い返す光流。


と、そんな二人の間に、これもまたかなり聞き覚えのある別の声が割って入った。


「主。遊んでいる時間はありんせん」


昔の廓詞くるわことばとでも言うのだろうか。


光流達には非常に耳慣れない、そんな不思議な響きを伴った言葉で話すその人物は


「ひ、ヒノエンマ?!」


驚きに目を剥いた楓が、彼女ーーー光流達の担任である日之枝絵麻を指差しながら、ずざざざっと後ずさる。


無理もない。


今の日之枝は、普段のびしっとしたスーツスタイルとはかけ離れた・・・そう、まるで花魁の様に艶やかな掻取かいどりをその身に纏い、片手には瀟洒な細工が施された銀色の長煙管を持った、さながら遊廓の太夫の様な姿だったのだ。


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