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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
76/148

えらぶのは

 「任せろっ・・・!絶対に、大丈夫だ・・・!」


「はいっ!」


華恵が身を躍らせると同時、伸ばされた光流と楓の手が、しっかりと華恵の両手を掴む。


次の瞬間、華恵の背にも姿を現す紅蓮の翼。


光流達三人は手を繋ぎ、丸い輪の様な状態になると、互いに落下しない様支え合いながら、ゆっくりと中庭に向かって下降していく。


それを見つめ、速度を会わせる様に下降しているのは童女を抱えたコーデリアだ。


既に死亡しており、霊体である彼女は元より浮遊可能であったらしく、翼等なくとも自力でふわふわと中空に浮かんでいる。


そんなコーデリアの様子をちらりと見遣りながら、ふと


(あいつ、もしかして、本当は更衣室から飛び降りる必要なんてなかったんじゃないか?)


と、思う光流。


そう、霊体である彼女ならば、壁や廊下をすり抜ける等逃げ出す手段は幾らでもあった筈だ。


それでも、その手段を使わず、彼女にとってはメリット等全くない、光流達と同じ方法を選んで共に来てくれたのは


「・・・もしかして、僕達を心配して・・・?」


瞬間、光流の頭に直撃する中庭の小石。


「いてっ!!!」


「ふん。口を慎みなさい、人間」


如何やら、コーデリアがわざわざ下にある中庭の石を操って光流の頭にぶつけた様だ。


ただ、こうして石をぶつけてきたりするあたり、もしかすると光流の発言は図星であり、この投石は彼女の照れ隠し(物理)なのかもしれないが。


そんなやり取りをしている内に、いつの間にか地上に到着する光流達。


本来ならば余り必要はないのだが、折角用意したので、光流達は敢えて緩衝材として落としておいた沢山の布地の上に着地する。


「・・・これ、後で弁償とかになるのかなぁ?」


足元の布地達を見つめながら、ふと、楓がそんな事を口にする。


と、


「人、人、人!!!人が飛んできたんだよー!!!」


「な、ちょっ、お前ら・・・如何して・・・いや、何してんの?!」


光流達にはよくよく聞き覚えのある二人分の声が辺りに響き渡った。


「えっ?!嘘?!お兄ちゃん?!」


それは、楓の兄である達郎のものと


「マジかよ・・・春秋・・・」


クラス一の変人、春秋美稲のものであった。


達郎と美稲は、鳩が豆鉄砲・・・いや、最早、豆散弾銃を全身に食らったかの様な驚愕の表情で光流達五人を見つめている。


一方、光流は


(やばいな・・・如何するか・・・。そう言えば・・・廊下では僕達以外誰も居なかったし、誰も来なかったよな。きっと、人払い的な何かがされてたんだろうけど・・・此所にこの二人が居るってことは、その人払い的な力も、範囲が決められてて、此所までは届かなかった、ってことか?・・・或いは・・・あの闇を操ってた奴は更衣室から出られない、とか)


達郎達の姿を見つめながら、黙ってそう思考を巡らせていた。


(偶然、人払いの範囲の外に居たか・・・或いは・・・もしや、僕達と同じ様に、狙われていた・・・?だから、僕達みたいに動けるとか・・・?なら、二人も危険だ・・・。けど、もし、奴が更衣室から出られないのだとしたら、二人だけじゃなく、僕達も今は安全ってことになる・・・。果たして、本当は如何なんだ・・・?危険は去ったのか・・・?)


光流は、そこまで考えてふと気付く。


(いや、そもそも、本来なら今は授業中の筈だろ。何で、こいつらは此所にいるんだよ)


すると、やはり、楓も同じ事を思ったらしく、兄の襟首を引っ付かんで詰め寄っていた。


「ちょっとお兄ちゃん!今授業中でしょ!こんな所で美稲ちゃんと何してるの!!」


そんな楓の剣幕にかなり圧倒されながらも達郎も負けじと言い返す。


「いや、何してるのってお前らの方が何してるの?!何その背中!羽根?!お兄ちゃん、妹が天使だったなんて全然知らなかったんだけど?!」


達郎のその言葉に


「えっ、天使・・・?!やだ、もう、何言ってるのよ!お兄ちゃんったら!」


急に照れ始める楓。


天使という言葉を、まさしく言葉の通りの意味で受け取ったのだろう。


(あくまで、物の例えだろ・・・。さっきは背中に炎の羽根が生えてたしなぁ・・・)


胸中でそんな突っ込みを入れながら、達郎や美稲の様子を暫し観察する光流。


彼らが偶然此所に居たのか、或いは自分達と同じ様に『獲物』として狙われていたのかを、光流は見極めようとしているらしい。


すると・・・光流は、美稲の足元に散乱しているスケッチブックや沢山の色鉛筆に気がついた。


ちなみに、達郎の足元にはスクールバッグが置かれており、そこからは漫画本やらスナック菓子が溢れ出してみる。


そうして、辺りを更によく見回してみると、中庭の隅ーーー校舎の壁際に設置された白塗りのベンチの上には出したままの絵の具のチューブが数本と、食べ掛けのスナック菓子が無数に置かれていた。


間違いない。


(こいつら、此所でサボってたな・・・)


そう確信する光流。


そして、二人に近付くと、美稲の足元に落ちていたスケッチブックを徐に拾い上げた。


「あーっ!見たら駄目なんだよー!まだ完成してないんだからー!」


慌てて光流からスケッチブックを奪い返そうとする美稲。


しかし、圧倒的な身長差にものを言わせ、光流はスケッチブックを上に持ち上げると、ページを開き始める。


(もしかして、上から降りてくる僕達が描かれてる、とか?)


一ページ目、まさに今日描いたのであろう、冬の中庭の風景・・・の中に佇む、人魚。


人魚と言っても、西洋の童話に出てくる様な美しい人形ではなく、日本古来から伝わる顔が女性で顔以外は全て魚というあの人魚だ。


「・・・・・・」 


続いて、二ページ目を捲ってみる光流。


そこに描かれていたのは、冬の花が揺れる中庭の花壇・・・と、その真ん中に誇らしく直立している、顔だけが人間の美少女で、首から下は鳥の謎の生き物。


(何でこいつ、中庭でスケッチしながらUMAを描いてるんだ・・・?)


そんな事を考えつつ、無言でスケッチブックを美稲に返却する光流。


ちなみに、達郎は持ち込んだ漫画本の中にエロ本が混じっており、それが運悪く楓にバレ、お説教の真っ最中だ。


中庭で正座をし説教をされている達郎の姿はシュールそのものである。

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