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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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閼伽(あか)の焔と焔劫の剣⑪

 コーデリアの、その全く思ってもみなかった台詞に虚を衝かれ、思わず黙り込む光流。


だが、迫り来る漆黒の闇は、待ってくれる訳がなく、まるで五人を急き立てる様に、直ぐ其処まで迫ってきている。


(今は、考え事なんてしてる場合じゃないよな・・・)


光流はそう思い直すと、自ら先頭を買って出た。


この学園の構造ならば、コーデリアより自分の方が詳しいし、役に立てるだろうと踏んだからだ。


そうして、光流を先頭に全速力で走る五人が飛び込んだのは


「更衣室・・・?」


そう、女子更衣室だった。


「・・・光流くん?」


女子四人の光流を見る目が冷たい気がするのは、決して気のせいではないだろう。


だが、そんな絶対零度の眼差しに負けることなく光流は叫ぶ。


「皆!此処から中庭に脱出するんだ!!」


光流のその言葉に、やはり、光流と動揺学園の構造を理解している楓は「成る程」と小さく言葉を漏らした。


隣に立つ華恵も、己の掌を拳でぽんっと叩いている。


恐らく、二人とも光流が何をしようとしているのか理解したのだろう。


互いに顔を見合わせ、強く頷き合う光流と楓と華恵。


三人とも、これからとるべき手段は理解した。


ならば、今は先ず、その手段を実現させる為の準備をしなくてはならない。


華恵がコーデリアと童女に脱出方法について説明している間、楓と光流はありったけの洋服やカーテン等の緩衝材になりそうな物をかき集めた。


そして、光達は窓を勢いよく開け放つと、かき集めた物を抱え、その真下の花壇に向けて一気に投げ落とす。


弾力も無さそうな上、かなりお粗末な見た目だが、それでも直に地面に飛び降りるよりは何百倍もマシだろう。


と、ばちんっ!という大きな音と共に、更衣室の入り口にあった蛍光灯が破裂し、その一帯を深い闇が包み込む。


「くそっ、もう追い付いて来たのかっ?!」


闇が光流達に辿り着くまで、蛍光灯の数で数えるならばあと四個分。


五人にはもう迷っている時間はない。


「・・・よし、行くぞっ!!」


光流は意を決して窓の縁に足をかけると、勢いよく蹴りあげ、宙に向かってその身を躍らせた。


瞬間、光流の背に出現する、紅蓮の炎で出来た一対の真っ赤な翼。


「ぅわっ?!」


赤い両翼の突然の出現に盛大にバランスを崩し、頭から落下しそうになる光流。


「光流くんっ?!」


思わず窓から身を乗り出し、光流に向かって手を伸ばす楓。


しかし


「あ、あっぶなかった~!」


紅蓮の翼をばっさばっさと羽ばたかせながら、光流が浮上してくるではないか。


翼のコントロールに全力で集中している為か、大きく羽ばたく翼に反して、両手両足をだらりと下げた状態の光流の体。


その様子はまるで、翼が本体で、光流の体はおまけの様な、やや間の抜けた様で、コーデリアと楓は不謹慎にも吹き出しそうになる。


すると、そんな様子を知ってか知らずか、相も変わらずばっさばっさと派手な音で翼をはためかせながら上昇してきた光流が、窓枠から身を乗り出す楓達に向け、手を差し出し、言った。


「僕が、皆を下まで運ぶ!行こう!」


光流のその言葉に、先程まで身を乗り出していた楓は強く頷くと、光流が差し伸べている手を掴み、窓枠を強く蹴り上げる。


瞬間、ぽぉんと宙に投げ出される楓の体。


しかし、光流と繋いだ手が、まるで導火線の様な役割を果たし、楓の身にも炎を伝え、その背に光流の背にあるものと同じ真紅の翼を生じさせる。


赤い翼を揺らしながら、光流とは繋いでいない方の手を、まだ校舎の中に居る華恵に向かって伸ばす楓。


「華恵ちゃんっ!!」


その時、華恵やコーデリア達の背後でぱぁんっ!という殊更大きな音を立て、彼女達の直ぐ後ろにあった、最後の一つの蛍光灯が破裂する。


同時に、華恵達に向け、その魔手を伸ばしてくる深い闇。


「・・・っ?!楓ちゃん!光流くん!」


華恵は意を決すると、窓枠に足をかけ、中空へと飛び出した。


童女を横抱きに抱えたコーデリアもその後に続く。

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