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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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閼伽(あか)の焔と焔劫の剣⑤

 (あれは・・・確か、フェニックスが出てきて・・・。そうだ・・・フェニックスが、炎に飛び込んで死ぬんだ。けど、また炎の中から雛になって生まれ変わるって内容だった)


己の手に宿る炎を見ながら、映画で見たフェニックスの滅びと再生のシーンを思い出す光流。


そして、彼が次にその頭に思い浮かべたのは、前に両親と正月に行った初詣のある一場面であった。


(何て言うんだっけな・・・。確か、木に願いや名前を書いたやつをお坊さんに焼いて貰うと、名前を書いたやつの煩悩とかが浄化されて、願いが叶うってやつ・・・ごま、ごま・・・そうだ、護摩焚きだ!)


光流は、その時ーーー護摩焚きが終わるまでの間、両親と本堂で座していた時に住職から聞いた話を思い出す。


あの時、お寺の住職は、護摩焚きは初めてだと言って興味深そうに護摩壇を見つめていた光流に、護摩焚きについて色々話して聞かせてくれたのだ。


その内容は、『護摩焚きにも実は種類があり、護摩壇に火を点け、火中に名前を書いた木ーーー所謂、護摩木を投じて祈願する外護摩と呼ばれるものと、自分自身を護摩壇にみたて、仏様の智慧の火で自分の心の中にある煩悩や業に火をつけ焼き払い浄化する内護摩がある』というもので。


フェニックスの炎と護摩焚きの炎。


その二つについて思い出した光流は、赤々とした炎を宿す自身の左手に視線を落としたまま、更に思案を巡らせた。


(再生の炎と、浄化の炎・・・。そうだ・・・きっと、炎には、浄化する力と再生する力があるんだ・・・)


其処まで考えると、光流は思考を止め、先程凪ぎ払った童女を見遣る。


童女は、その身体に大きく火傷を負ってはいるが、未だその瞳には強い殺意と憎悪を滲ませており、その眼差しは彼女に退却する意志が全く無いことを窺わせた。


童女に撤退する意志が微塵も無い以上、本来ならば、光流としては、数時間前に見た玲の様に彼女を倒す他はない。


しかしーーー今、光流の内には『倒す』以外の別の考えが生まれていた。


その方法は、余りにも不確かで、絶対に成功するとも限らない賭けの様な方法に近い。


だが、それでも光流はその方法を試してみたいと思っていたし、出来るのは炎を使う自分だけであるとも感じていた。


(ただ倒すばかりじゃなく、炎を操る自分にしか出来ないことをーーー)


そう思い、握った左手の拳にぎゅっと力を入れる光流。


光流は、倒すべき対象であるあの童女に同情と同時に深い憐れみを感じてしまった。


本来ならば、倒すべき相手にそういう感情を抱くというのは余り好ましくないことだろう。


しかし、『誰かに理不尽に人生を奪われた』ーーーその一点が、如何しても光流の琴線に触れてしまったのだ。


光流は、自分の人生が奪われた訳ではない。


だが、光流は、大切な人達がある日突然その人生を奪われ、目の前から居なくなってしまう・・・その辛さを知っている。


恐らくは、この童女の家族も、突然彼女の存在が、人生が、他者によって理不尽に奪い去られた悲しみにさぞ嘆いたことだろう。


しかも、(発見されていたらの話ではあるが)あの童女の姿を見るに、恐らく・・・家族の元に返された遺体も、酷い様相を呈していた筈だ。


そんな童女の姿を見た家族の嘆きはどれ程深いものであったか・・・想像に難くはない。


それにーーー光流には、理解わかるのだ。


理不尽に自分の人生を奪われた苦しみが。


確かに、先程も言った様に、光流は直接自分の人生を奪われた訳ではない。


だが、光流は両親によって護られ、その両親が光流の代わりに命を、人生を、奪われてしまった。


自分の所為で、大切な人達が死んでしまったーーーその一生消えない事実は、光流の心に深い傷を残すと同時、彼の心を強い罪悪感で縛り付けたのだ。


そして、続けざまに彼は両親と暮らした家も、遺されていた思い出の詰まった家財道具も、何もかもを取り上げられ、失った。


確かに、事故の生存者である光流は、両親に救われ、命を護られ、二人の命を与えられた、と言えるだろう。


しかし、反面、あの日、光流は全てを喪ってしまった、とも言えるのだ。

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