涙と力の関係性⑭
そう、口にする少女の眼差しは何処と無く、寂しげにーーー悲しげに、まるでうつろう水面の様に頼りなく揺れており、
「っ・・・・・・」
その瞳を真正面から見つめた光流は、彼女の揺らぐ瞳の奥底に尽きることのない深い悲しみを見た気がして、はっと息を呑む。
少女は、そんな光流の様子に気付いたのか・・・或いは気付いていないのか、ただ淡い微笑みを浮かべると、光流の頬に手を添えたまま、誰にともなく呟いた。
「わたくしは、此処で全てを喪った・・・此処は、わたくしの終わりで始まりの場所」
光流は、そんな少女を暫くじっと見つめると、やがて己の頬に触れている少女の手に己の手を重ね、瞳を閉じ、やはり同じ様に小さなーーーしかし、彼女にははっきりと聞こえる声で、口にした。
「僕も、此処で何もかもを喪った。この命以外の全てを。その時、初めて知ったんだ。生きていても、大切な人達がいなけりゃ何の意味もない。虚しいだけだって。」
光流のその言葉に応える様に、少女も口を開く。
「そうですわね。全く以て、その通りですわ。大切な者達のいない生のなんて空虚で虚ろなことか。亡くしてから分かる?死んだ者達の分まで強く生きる?そんな言葉、強者の幻想ですわ」
「ああ、そうだな。本当に、君の言う通りだよ。身を挺して護られた者の胸に一番深く残るのは、未来への希望なんかじゃない。・・・一生消えない悲しみとこの身を縛る罪悪感、それにーーー何であの時助けられなかったのか、無力な自分への解けない呪いだけだ」
激しい憤りと後悔の念と共に吐き出された光流の苦しい心の内に、少女は同意を示す様に二、三度頷くと、ふと、悲しげながら・・・何処と無く愛おしそうな微笑みを浮かべ、小さく、口にした。
「・・・そう。だからこそ、わたくしは貴方を選んだの。わたくしと、よく似た貴方を。わたくし達は、本当にそっくりね」
少女が告げた思ってもよらぬ言葉に光流は、閉じていた瞳を見開くと、数度瞬きをする。
けれど、彼は直ぐに表情を和らげると「そうかもな」と呟いた。
そして、血反吐を吐く様な後悔と無念の日々の中で、やっと見付け出した自分なりの遺された意味を・・・その答えを、光流は口にする。
「だからこそ、もう、何も、誰も亡くさない。僕は大切な者達を護る為なら、誰よりも強欲に、貪欲になってやる」
光流がそう口にした瞬間、少女の手と重ねた掌から真っ赤な焔が立ち上った。
「っ・・・?!」
光流は一瞬驚きに目を見張る。
(手が、燃えてる・・・?!)
だが、次の瞬間、彼のその驚きは、また別の驚きによって塗り替えられることになった。
「嘘だろ・・・?燃えてるのに、熱くない・・・」
そんな光流の百面相を面白そうに見つめながら、少女が口を開く。
「当然ですわ。それは、貴方の心の火ですもの」
「心の火、だって・・・?」
少女の言葉に、光流は改めて、燃え盛る己の左手を見つめてみる。
まるでこの世にある全てを焼き付くさんとばかりに燃え盛る、自らの手に宿った紅蓮の焔。
「これが、僕の心の焔・・・・・・」
赤々と揺らめく焔のその奥に、光流は、自らの無力さを悔やみ、憤りーーー無様に生き残ってしまった己を呪いながら生きてきた、もう一人の自分の姿を見た様な気がした。