涙と力の関係性⑫
「宿命・・・?訳、わかんねぇ・・・。宿命って何なんだよ・・・!」
己の条件を絶対的な様子で背負わせて来ようとする少女に対し、光流も強い口調で反論する。
しかし、少女は怯むどころか、一切その厳格で高圧的に感じられる態度や表情を崩すことはなく、逆に
「今はまだ、貴方はそれを知る時ではありません。」
と、膠も無く言い切った。
少女のそんな様子に、流石に光流も
「そんなの納得出来ないね。僕だって、何も一方的に力を借りようって訳じゃないんだ。せめて、ちゃんと理由を聞かせてくれないか?」
そう、先程よりやや語気を強めた調子で詰め寄る。
けれども少女は、やはり、全くその表情を動かすことはなく、却って先刻よりも幾分冷静さを取り戻した様な様子で光流に問い掛けた。
「良いのですか?近藤光流。こんな所で不毛な言い争いをしていて。今の貴方は一分一秒を争うのでは?」
少女のその言葉にはっとし、ばつが悪そうに瞳を伏せる光流。
少女はそんな光流を一瞥すると、更に彼に決断を迫る様畳み掛ける。
「二人を、助けたいのでしょう?・・・力が、欲しいのでしょう?ならば、迷っている暇等なくってよ」
(・・・そうだ。確かに、その通りだ。)
柔らかく、しかし、その反面真綿で首を絞めて来る様な・・・じわじわと自身を追い込んでくる彼女の言葉に、我知らず煽られ、光流は焦燥を募らせていく。
(・・・現実では、楓と徳永が僕の助けを待ってる。僕が助けなきゃ、二人は殺されてしまうんだーーー!)
極度の緊張と激しい焦燥感からか、小刻みに震え始めた己の手を、叱咤するかの様にぎゅっと握り締める光流。
そんな光流の様子を暫く少女は見つめていたが、不意に動き出すとーーー彼の耳元に、その愛くるしい真紅の唇を寄せ、囁いた。
「貴方は、また、見殺しにするの・・・?」
瞬間、光流の肩がびくりと大きく跳ね上がる。
「ふふ・・・」
少女は、光流のその反応に薄く微笑むと、再度、彼の耳元に唇を寄せ、呪縛の様な言葉を紡ぐ。
「ねぇ、貴方はまた、一人だけ生き残るの・・・?今度は、お友達を、犠牲にするの・・・?」
少女はそこで一旦言葉を区切り、光流の反応を確かめた。
彼の、拳を握った手は未だ小刻みに震え、額からは冷や汗であろうか、汗が大量に吹き出している。
特に、彼の手の震えは、先程より酷くなっている様だ。
少女は、薄く・・・何処と無く酷薄な様子を湛えた笑みをその美しい顔に張り付けたまま、光流を縛り付ける為の最後の一言を口にする。
「・・・近藤光流・・・貴方は、己の身に降りかかる永遠の苦難と家族や友達の命、どちらを選ぶのかしら・・・?」