涙と力の関係性⑧
「そ、んな・・・・・・」
楓と華恵が確実に殺される。
また、自分の大切な人達が居なくなってしまうーーー手の届かない処へ逝ってしまう。
まるで、遅効性の毒の様にじわりじわりと胸の奥深くから心を蝕んでいく耐え難い絶望感に、光流は思わずその場でがくりと膝をついた。
(・・・また、助けられないのか、僕は・・・)
いっそ、胸を掻き毟り、二人の代わりにこの場でこの役立たずの命を・・・心臓を取り出して叩き潰してしまいたい。
或いは、この命を捧げて二人が助かるというのならば、こんなちっぽけな己の命等、喜んで差し出すというのに。
なのに、何故・・・。
何故、自分ではなくあの二人なのか。
(もう、誰かに置いて逝かれるのは沢山だ・・・)
そんな、何も出来ない己への強い失望が、絶望感と共に津波の様な激しいうねりとなり、光流の思考を、その心を、苦しみと悲しみで埋め尽くされた心の底の、更に底へと浚っていく。
後悔、苦悩、悲哀、それらの全てに心と思考の全てを支配され、膝をついたまま暫し茫然としている光流。
そんな光流を見下ろし、少女は冷静にーーーしかし、何処か優しく、彼に問い掛けた。
「貴方は、このままで良いの?」
また、何も出来ないまま、みすみす目前で大切な者達の命が奪い去られるのを、ただ手をこまねいて見ているだけで良いのか。
少女は、暗に光流にそう尋ねて来る。
その言葉に、光流は弾かれる様に顔を上げると、きっと少女を睨み付け、半ば慟哭に近い近い様子で、噛み付く様に彼女の質問に答えた。
「このままで良いのってなぁ・・・良い訳ないだろ!!だからっ!二人を助ける為にっ、あんたに力を借りようと思ったのに!!そんな、遅かれ早かれ殺されるなんて・・・あんまりじゃないか!如何にか・・・何かないのかよ!良い方法は!!」
いつの間にか、すがる様に少女の手を引っ張る様な形で強く掴み、絶望に押し潰されそうな如何にもならない苦しみを吐露していた光流。
少女は、そんな光流を静かに見つめ、掴まれていない方の手を優しく光流の震える手の上に重ねると、まるで母親が幼子に言い聞かせるかの如く穏やかに、しかし、言葉を選びながら、光流に語りかける。
「先程も言いましたけれど。先ずは、落ち着きなさい、近藤光流。わたくしは、貴方に助力をしないとも言っていないし、ましてや・・・彼女達を助ける方法がないとは言ってはいなくてよ?」
少女のその言葉に、光流ははっと大きく瞳を見開いた。
そうだーーー。
確かに、彼女の言う通りじゃないか。
彼女は、未だ『助けない』とも言っていなければ『二人が助かる方法が一切ない』とも言っていないのだ。