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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
52/148

涙と力の関係性②

「おい、楓っ・・・!聞こえるか?!聞こえるなら返事しろっ・・・!」


辛うじて動かせる目だけを必死に動かしながら、喉の奥底から声を振り絞る光流。


すると、床に倒れ伏した光流の右斜め後方から


「・・・ひか、る・・・く、ん・・・」


まるで今にも消え入りそうな、弱々しい楓の声が聞こえて来るではないか。


「楓っ・・・!」


その声に、万力で押さえ付けられたかの様に床に着いたままの頭を、声がした方に向けて必死で動かそうとする光流。


「ってぇ・・・」


強い力で固定されたかの様な頭を無理に動かした為か、光流の頬は床との摩擦で擦りむけ、薄く血が滲み始める。


その痛みに、一瞬小さく顔を歪める光流。


しかし、彼は直ぐに元の強く・・・しかし、激しい焦りを滲ませた顔に戻ると、摩擦で更に頬の傷が酷くなるのも気にせず、頭を動かし始める。


恐らく、光流からすれば、上方の華恵の様子を確認出来ない分、せめて楓の安否だけでもその目で確かめようということなのだろう。


頬を、まるで趣味の悪い道化の化粧メイクの様に赤く染め、ようやく楓の姿をその視界に収める光流。


「楓っ・・・!」


「光流、くん・・・」


果たして楓は、無事であった。


ただ、床に叩き付けられた時に体ー或いは、内臓の何処かを負傷したのか、先程噛んだのとは反対側の口許から少なくない量の血を流している。


また、顔色も先刻よりかなり悪くなっており、瞳も焦点が定まっていない様だ。


(・・・これは、マズイ)


光流の額から大量の冷や汗がどっと噴き出してくる。


華恵は中空で首を締められ、楓は内臓をやられて死にかけている。


どちらも予断を許さない状況だ。


だが、助けたくとも当の光流は頭を動かすのがやっとで、甲羅に籠った亀の様に手も出なければ足も出せない状態である。


(我ながら、自分の使えなさ加減に嫌気が差すな・・・)


内心、こんなにも近くに居るのに指をくわえて見ていることしか出来ない自分に酷く焦れながら、それでも、楓が意識を失ったりしない様絶えず声をかけ続ける光流。


「楓!しっかりしろ!目を閉じたら駄目だ!」


そんな光流の声に、楓は何かを答えようと小さく口を動かすが


「こふっ・・・!?」


その、己の血に濡れて赤く染まった唇から溢れたのは言葉等ではなく


「楓っ?!」


大量の血液であった。


激しく咳き込みながら、量にして約500ミリリットルー輸血パック一つ分はあろうかという程大量の血を吐き散らしながら、体を小さく震わせ始める楓。


恐らく、彼女にかかる過重な圧力が空気入れのポンプの様な役割を果たし、彼女を強く押し付けることで一気に体内に溜まっていた大量の血液が吐き出されたのだろう。


「楓っ?!楓っ!!駄目だっ!!きっと助かる!必ず助かるから!!」


自分が吐き出した血で顔の大半を真っ赤に濡らしながら、徐々に顔色を失っていく楓に、光流は必死に声をかけ続ける。


しかし、彼のかけ続ける希望に満ち溢れた言葉とは正反対に、楓の顔色は紙の様に白くなり、体も少しずつ動きを止めていく。


「楓!?おい、ふざけんなよ!今日の放課後買い物に行くんだろ!!で、僕に奢らせるって約束したろ?!約束を破んのかよ!!!」


刻一刻と時が経つごとに死に近付いていく家族の姿に、最早叫びに近い悲痛な声をあげる光流。


すると、突然、そんな彼の目の前に


ーーーかんっ、ころころころ・・・・・・。


透明で、丸く美しいビーズの様な物が一粒落ちてきた。


「え、何・・・」


いきなり何だ、何が起きた。


混乱した光流が思わず呆けた様な声を出した瞬間


こんっ、ぱらぱらぱらぱら、ころころころころーーー。


今落ちてきたのと全く同じ、ビーズの様な物が幾つも雨の様に光流の目の前に降り注ぐ。


よく見ると、中には幾つか薄い赤に染まっているものもある様で。


「何なんだ、一体・・・」


そう呟いたのと同時、光流の直ぐ近くにビーズの内の一粒が転がってくる。


目を凝らして、それを見つめる光流。


他のは赤く染まっているものこそあれ、基本的には無地の様だが、光流の目の前に転がってきたものは違う様で、薄いピンク色に染められ、真ん中には可愛らしい赤い目の雪の兎が描かれていた。


その柄を認めた瞬間、小さく息を呑む光流。


光流はその柄には見覚えがあった。


光流の頭の中で、今までに落ちてきていたビーズの様な物と、この一粒だけ絵柄が描かれてた物が、元は何で在ったのか繋がる。


「ま、さか・・・・・・」


アレは、確か徳永が祖母の形見として肌身離さず身に付けていたーーー。


光流が頭の中に生まれた嫌な予感を振り払おうとした、その時


『フフフッ ザァンネン ジカンギレェ』


頭上から、少女の歌う様に楽しげな声が響き渡る。


それと同時に、あれほど光流を苛んでいた、その全身を襲う強大な圧力が綺麗さっぱり消え去り、光流の体は解放される。


「楓っ!!徳永!!」


自由になると同時、光流は弾かれた様に駆け出し、楓の元に駆け付けると、己の服が血に濡れるのも厭わず彼女の体を抱き起こす。


そして、楓の頬を軽く叩きつつ声をかけながらも、光流の視線は華恵を探して上方へと向けられる。


光流の視線が、探していた華恵の姿を捉えた、その瞬間


「ひっ・・・?!」


光流の喉から、まるでひきつった様な悲鳴が漏れた。

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