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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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日常の果てに生まれる非日常⑥

 「転校生?」


突然の担任教師の発表に、再度教室内がざわつき始める。


特に、人懐こく楽しいことが大好きな楓は、先程まで怒りに膨れっ面をしていたのも何処へやら。


今は転校生への期待に瞳を輝かせながら光流と華恵に話し掛けてくる有り様だ。


「ねぇねぇ、転校生だって!どんな子かなっ?華恵ちゃんみたいに美人さんとか?」


「女子とは限んねーだろ」


そんな楓に光流はすかさず突っ込むが、楓は全く気にしていない様で、依然未だ見ぬ転校生への想像ーいや、この場合妄想かもしれないがーに胸をときめかせながら、絶えず二人に話を振ってくる。


「じゃぁじゃぁ、男子かな?!男子だったらイケメンがいいなー!身長が高くてぇ、足も長くて、で、運動は何でも出来て頭もすっごくいいの!」


ね!そんな人が来たら素敵じゃない?!と頬を紅潮させ、夢見る瞳でうっとりと語り始める楓。


その余りの陶酔ぶりに、華恵は苦笑いしながらも「来たら良いですねぇ」と一応は乗っかってやっている様だ。


しかし、生来突っ込み体質であり、ややひねくれた部分も併せ持つ光流は、つい意地悪をしてみたい気持ちになり、己の空想にどっぷりと浸かり瞳をきらきら輝かせている楓に向き直ると


「じゃぁ、もし、その転校生が・・・全女子生徒が憧れる位超のつく程のイケメンで、頭も良くて、運動神経も抜群だけどーー春秋ひととせみたいな変わり者だったら如何する?」


と、聞いてみる。


すると、楓はまるで長考中の棋士の様に眉間に深く皺を寄せると、「うーん、それはちょっとなぁ」と呟いた。


春秋ひととせというのは、光流達のクラスメイトの一人で、名前を『春秋ひととせ 美稲みいね』、別名『変人春秋へんじんひととせ』という。


春秋自体は、上品に煎れたミルクティの様な淡い茶色の髪に、健康的に焼けた小麦色の肌が眩しい、小柄でまるでハムスターの様な愛くるしさを持った少女なのだがーー彼女の唯一の趣味、即ち、『フィギュア造り』が彼女を非常に変人たらしめていた。


と言ってもフィギュア造り自体が悪い訳でも無ければ普段の彼女にややおかしな部分があるのかと言われると別段そうでもない。


寧ろ、普段は朗らかで、誰にでも愛想よく接するーー愛嬌に満ち溢れた少女なのだ。


だが、こと『フィギュア造り』となると彼女はまるで頭のスイッチが入ったかの様に人が変わってしまうのである。


一旦フィギュアを造り始めると、最初のデザインから全て彼女一人で行い、造っている間は何人も(親ですら)部屋に入れないのだ。


そして、不眠不休、寝食を忘れてフィギュア造りにかけること主に一週間から最大で一ヶ月。


彼女のそのフィギュアは完成し、日の目を見るのであるが・・・それが、実に立派なのである。


美稲は日用品のミニチュアから美少女フィギュアまで、フィギュアのカテゴリーに入るものならば全て造ることが可能らしいが、その出来映えも実に素晴らしく、以前製作した仏像のフィギュア等レプリカと呼んで差し支えない位の出来だった様で、一体三十万円で売れた程だ。


また、その腕を見込まれ新聞やテレビ番組、それに雑誌のインタビュー等も受けたことがあるらしい。


そんな、フィギュア造りに取り掛かると何日も登校しない美稲が留年しないのは、やはり、ひとえにこの学園が才能がある者を率先して伸ばす、SSAFHのモデル研究開発校であるからに他ならないだろう。


SSAFHの制度の一環として、例え理系科目でなくとも世間や大衆に認められる程の才能があれば、率先して伸ばすというものがある。


美稲は、溢れんばかりの造形の才能を活用し、その制度の恩恵を受けているという訳だ。


と、先程の光流の言葉が聞こえたらしく、通路を挟んで光流の斜め左前にいる美稲が三人の方を振り返ると、不機嫌そうに口唇を尖らせながら文句を言ってきた。


「酷いよー。私変人じゃないもーん。ただのオタクなだけだよー」


いや、自分で言うんかい!と思わず突っ込みそうになる光流。


しかし、光流が突っ込みを入れるより早く


「お前達。何度言ったら分かる?静かにしないか。今から天海あまみ先生が転校生を此処に連れて来る。皆、しっかり話を聞く様に。もし、話中に口を出したり、私語をする者があれば、放課後は反省文が待っているからな」


余りの生徒達の煩さを見かねた日之枝が口を開いた。


その言葉に一斉にしーんと、静まり返る教室。


楓等目線すら合わせない様じっと下を向いている。


まるで目が合ったら石にされると言わんばかりの怯え様だ。


すると、不意にガラッと大きな音を立てて教室前方の扉が開き、淡い色彩の長い金髪を襟足で一つに束ね、丸いフォルムの眼鏡をかけた若い男性が入ってきた。


彼が先程、日之枝が言っていた『天海あまみ先生』こと、光流達の副担任である『天海あまみ 総司そうし』である。


担当科目は公民だ。


彼は、金髪に、晴れ渡る空の様な鮮やかなブルーの瞳という何とも日本人離れした容姿だが、それでも両親は列記とした日本人であり、本人曰く何代か前にいた北欧人の祖先の特徴が隔世遺伝で出てしまった、とのことらしい。


そんな彼が後方ーー廊下の方を振り返りながら、優しく気遣う様に誰かに声をかけている。


「緊張していますか?大丈夫ですよ。皆優しくて良い子達ですから。さぁ、お入りなさい」


成る程、そこに件の転校生が居るのだろう。


教室と廊下の間にある磨りガラスの窓にも、確かにぼんやりと人影が映っていた。


顔形ははっきりとは見えないが、小柄な背格好からすると恐らくは女子だろう。


その人影は、天海の言葉に小さく頷くと教室の扉に向かって歩き出す。


そうして、天海に続いて入り口から姿を現したその人物はーーーー

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