日常の果てに生まれる非日常④
「・・・・・は?」
(僕は夢でも見てんのか・・・?)
思わず眉間に皺を寄せ、訝しげな表情を浮かべたまま華恵の手元に顔を近付ける光流。
「ひ、光流くん・・・?」
疲れた様に項垂れたと思ったら、行きなり何かに驚てみたり、目の前でくるくると百面相を繰り返していた光流。
その彼が今度は急に胡乱げな表情を浮かべて、ずいっと手元に顔を寄せてきたではないか。
そんな光流の様子に、華恵は少々たじろぎながらも尋ねる。
「ど、如何かしたんですか・・・?」
その声に、光流はひょいと顔を上げると、訝しげな表情を崩さぬまま
「いや、別に・・・・・」
とだけ答える。
まさか、カードの中の少女が喋った上に手まで振った等言える訳がない。
何せ、朝の始業前ーー雑談に興じる生徒達で賑わう教室だ。
しかも、他のクラスの生徒達まで入り交じっている。
そんな中で・・・もし、『カードの中の少女が喋って動いている』等話しているのを聞かれたら、光流は頭のおかしな奴確定だ。
加えて、今朝の事もある。
ただでさえ、朝の出来事で疲労し、未だ怯えの残る楓と華恵に、余計な不安や混乱を与えたくはない。
光流はそこまで考えると、しかし、目線は吉乃から離さぬまま、答えた。
「よく見ると、この『星』ってカード、良いカードだと思ってさ」
すると、
「ほぅ?朝から教室内でナンパか?良い度胸だな、近藤光流」
やや低めの女性の声が響くと同時、光流の頭に後ろから、軽くではあるがばしっと名簿が降り下ろされる。
「いってぇ・・・!」
光流が頭を擦りながら振り返ると、其処には
「全く・・・。ほら、お前達も出席を取るぞ、席につけ」
いつの間に教室に入って来たのか、艶やかな黒髪を夜会巻きにし、細いフレームの銀縁の眼鏡をかけた妙齢の女性が立っていた。
彼女は華恵の手からすっといとも容易くタロットカードを抜き取ると告げる。
「学園には、勉学に関係のない物は持ち込むなと何時も言っているだろう?これは、放課後まで私が預かっておく」
そうして、女性はヒールがやや高めの黒いパンプスの踵を高く鳴らしながら机の間を抜け、教壇に立ち、生徒達を見回すと言い放った。
「朝礼を始めるぞ。関係のない者は出ていく様に!」