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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
36/148

霧中の少年(ひつじ)は狭間を駆ける⑦

 「へ?これからって、如何言うー」


そう尋ね返そうとした光流の目の前に


「これからって言ったらこれからなんですよー!ねっ?マスター!」


いつの間に男性と分離を果たしたのか、相も変わらず重力を無視した逆さまの阿頼耶が現れる。


「っ?!」


(相変わらず、心臓に悪ぃ・・・。つーか、こいつモモンガの生まれ変わりかなんかじゃないのか・・・・)


その行きなりの上下真逆の顔のアップに光流は一瞬びくっと驚くが、直ぐに如何にか平静を装うと阿頼耶と男性の二人に問い返す。


「なぁ?さっきの、これからって如何言う事なんだ?一体何が起きるって言うんだよ」


光流のその問い掛けに、男性は愉快そうに、しかし何処か誤魔化す様に曖昧な笑顔を浮かべると


「さぁ?何が起きるんだろうねぇ?」


とだけ答える。


(自分でふっておいてそりゃないだろ・・・)


男性のその不分明な返答に、内心、若干の苛立ちを覚える光流。


すると、そんな光流の目の前に、すっと白くて小さな、掌サイズでやや厚みのある紙切れが差し出された。


差し出しているのは男性だ。


「は・・・・?」


男性の唐突な行動に、光流はその意図が分からず、暫し男性の顔と、彼の手元の紙を見比べる。


と、男性が徐に口を開いた。


「必要がなければ、何れ破いて捨てれば良いさ。でも、もし・・・万が一、俺達の力が必要になる時が来たら、必ず、此処に連絡するんだ」


そう告げる男性の表情は、口許に変わらぬ柔らかい笑みを浮かべているものの、その瞳は・・・真剣そのもので。


そんな男性の様子につられる様に、光流は思わず男性の手元・・・差し出されている紙切れを覗き込む。


そこには


『 

 迷子のペット探しから浮気調査まで

 困り事何でも解決します


 藤門(ふじかど)私立(しりつ)探偵(たんてい)事務所(じむしょ)


 所長(しょちょう)  藤門(ふじかど) (れい) 』


と書かれていた。


「探偵・・・?藤門、玲・・・?」


「そ。あ、それ俺の名前ね。良い名前だろう?」


で、これが俺のプライベートな連絡先だから、と名刺に手早く、恐らくは携帯の番号であろう数字を、既に印刷されている仕事用であろう電話番号の隣に書き込んでいく玲。


そして、それを光流の手にしっかりと握らせると、コートの胸の内ポケットから更に二枚新しく名刺を取り出し、光流のものにしたのと同じ様に己の携帯番号を書き込むと、へたりこんだままの楓と華恵にも握らせる。


そうして、改めて三人を見詰めると


「・・・・君達が俺に連絡して来ないことを、心の底から祈ってるよ」


と、呟いた。


けれど、やはり光流達にはその言葉に如何いう意図が含まれているのか全く分からず、首を傾げる。


必要になったら連絡しろと言ったと思ったら、今度は連絡して来ないことを心の底から祈るなんて、なんて矛盾したことを言うのだろう、と光流が首をひねったその時。


パンッと大きな音を鳴らして、玲が己の胸の前で両手を打ち合わせた。


「さぁ、お喋りはこの位にして。そろそろ現実に帰る時間だよ?不思議の国に迷い込んでしまったアリス諸君」


玲は、芝居がかった様な調子で高らかにそう言い放つとーー丁度この空間の地面の四隅に深く突き刺さった、小型のナイフの内の一つに手を伸ばす。


柄に、この空間を染め上げているのと全く同じ色の長い布が巻かれているそれに・・・不思議なことに、光流達はその存在に今の今まで気が付かなかったのだが、恐らくはあのナイフこそがこの空間の時間を止めていたのだろう。


空間と同じ色に淡く光るナイフを引き抜こうとする玲。


しかし、光流はその後ろ姿に慌てて声をかける。


「なぁ!ちょっと待てよ!まだ何も答えを聞いてないぞ!」


そう。光流はまだ何も答えをーー『真実』を手にしていない。


行きなり襲い掛かってきたあの老人・・・偽神とはどの様な者達なのか。


それらを退治しているとおぼしき『忌屍使者(デッドストーカー)』とは具体的に何なのか。


そして、何より・・・玲と阿頼耶は何者なのか。


光流達はまだ一つも解答を得ていないのだ。


しかし、玲は振り返らず、三人に背を向けたまま告げる。


「言ったろう?アリス諸君。此処は不思議の国だぜ?深入りすれば、何れ、ハートの女王様に首を刎ねられてしまうのさ。だから・・・まだ、戻れるなら、優しい現実に戻った方が良い」


その名刺は、万が一君達がまた不思議の国に迷い込んだ時の為のお守り代わりさ。


そう言うと同時、玲がナイフを引き抜いた。


瞬間、溢れる真っ白な閃光。


視界が、世界が、全てが白く染まっていく。


光流達は余りの眩しさに目を開けていることが出来ず、思わず互いに護り合う様に身を寄せ合うと、きつく瞳を閉じた。

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