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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
18/148

現実(リアル)を侵食する虚構(フィグメント)⑩

 ーーー理由等分からない。


しかし、実際にーー到底信じられないことだが、光流自身の体が、焼けつく様な傷の痛みが、先程から止めどなく流れ落ちる紅い命の滴が、残念ながらその仮説は恐らく事実であり真実であると物語っている。


その事実とはーー


(・・・まさか、僕と、彼女は・・・共鳴(リンク)しているのか・・・?)


今日出逢ったばかりのーーしかも、本人、いや、本霊曰く『怨みはない』のに行きなり人を殺そうとして来る厄介で物騒極まりない悪霊と、繋がっている、とーーー?


光流自身到底信じたくもなければ、出来ることなら『有り得ない!』と一蹴してしまいたい仮説だが、こうも立て続けに少女と同じ体の部位に、やはり同程度の深さの傷を負い続ければ、それはもう信じざるを得ないというものだ。


そして、この瞬間にもーーー


「ぅっ・・・ぐ!まだ、わたくしは倒れたりはしませんわよ!!」


蜘蛛丸が風の速さで繰り出した短槍が少女の腹部の右側を掠めていく。


真紅のドレスに少女の血が滲み、先程までは傷一つなかった美しい瀟洒なドレスは、所々蜘蛛丸の刃により切り刻まれ、見るも無惨な有り様になっていた。


ドレスを染めるその深紅はーーもし、今その姿を見える人がこの場に居たならば、元からその色であったのか、或いは少女の血液が染め上げているのか見分けのつかぬ程紅く染まり、幽霊で在る身だというのに手傷を負い、且つ、その傷が決して浅くはないことをまざまざと物語っている。


また、少女が傷を負う度に光流の身にも細かいものから大きなものまで無数の傷が刻まれ、それにより光流は否が応でも身を以て少女の痛みを知らされることとなった。



だが、一方蜘蛛丸はと言えば、一旦少女から距離をとると、そんな少女の様子等全く意に介する様子はなくーー寧ろ、少女がどんどんと傷を増やし、追いこまれていく様が余程楽しいのか、その口許に愉悦に満ちた・・・世の物語に登場する悪役もかくやと言わんばかりの酷薄な微笑みを浮かべ、あくまで自分に立ち向かおうという強い意志を見せる少女を見詰めつつ、至極楽しそうに言葉をかけた。



「へぇ~♪もっとヤワかと思ったら意外と頑丈なんだね、オバサン!ははっ、わかったよ!なら、僕がばらっばらの挽き肉にしてあげる!」


その幼く、未だあどけなさの残る容貌には到底見合わぬ冷酷さでそう言い放つと再び短槍を構え直す蜘蛛丸。


(挽き肉・・・?!おいおい、勘弁してくれよ・・・!)


少女が挽き肉になれば自分も挽き肉になってしまう。


そんな嫌な未来を想像し、小さく身震いを一つすると、如何にかこの窮地を切り抜けられないかと隣にいる筈の夜叉丸に声を掛けようとする。


「なぁ、大事な話がーーーってあれ?」


いつの間にか、夜叉丸がいなくなっているではないか。


「夜叉丸さーー」


しかもその時ーー姿の見えなくなった夜叉丸を探そうと発した光流の声をまるで打ち消す様な、大きく、それでいてはっきりとした少女の声が響き渡った。


「挽き肉になるのは貴殿方の方ですわ!・・・いいえ、この場合はステーキと言った方が正しいかしら?」


言葉と同時に少女の体から徐々に光が溢れ出す。


最初は蛍の光の様な光。

しかしそれは段々と大きくなり、何時しか四人の目を眩ませんばかりの目映い光となり、少女を包み込んだ。


そして、蒼白い燐光に全身を包まれながら、少女は哀切に満ちた叫び声をあげる。


「わたくしは、こんな所で倒れる訳にはいかないの・・・。そう・・・わたくしは、戻らなくてはいけないのよ!あの場所に!今度こそ、再び出逢う為に・・・!あそこに帰らなくてはいけないの!」


少女の叫びと同時に光の奔流が炎と混ざり合い、まるで龍の様な様相となると、光流達に向かい真っ直ぐにーー一直線に向かってきた。


しかし、そんな炎の奔流すら怖れることなく、笑顔を浮かべたままーー蜘蛛丸もまた一直線に少女に向かって突っ込んでいく。


灼熱の焔に髪や服を焼かれながらそれでも真っ直ぐ少女を目指す蜘蛛丸。


少女もまた蜘蛛丸に向け、右腕を真っ直ぐに突き出すと集中的に焔を放つ。



蜘蛛丸の対応に追われ、がら空きになってしまったその腹にーーーいつの間に回り込んでいたのか、少女の背後に回り込んでいた夜叉丸の銀色に輝く刃が深々と突き刺さった。


「っ・・・かはっ・・・!!」


大量の血を吐き出す少女。


しかし、その瞳からは未だ闘志みなぎる光は消えておらずーー夜叉丸は、少しだけ悲しげに瞳を伏せると、まるで幼い子供に語りかける様な、酷く優しい声音で呟いた。


「残念ですよ、可愛らしいお嬢さん。貴女とは、この様な場所ではなく、何処か・・・そう、花の美しい庭園等で語り合いながらお茶でもしたかったものです」


そう少女に向かって語りかけると、夜叉丸はその手に握った刃に力を込め、横薙ぎに振るう。


瞬間ーーーー


まるで、玩具が壊れる様にーーー


或いは、まるで・・・標本箱に止められた憐れな揚羽蝶が、その羽をもがれ、二つに引き裂かれる様にーーー



少女の華奢な躰は腹から二つに分かれ、音もなく地面に崩れ落ちた。


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