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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
16/148

現実(リアル)を侵食する虚構(フィグメント)⑧

 そう告げるや否や、少女は両手を高く頭上に掲げ、その両手の間に炎の球を一つ作り出す。


「何をする、つもり、だ・・・?」


夜叉丸に肩を借り、なんとか立ち上がった光流は声に滲む嫌な予感を隠しきれないまま、激しい痛みにともすれば奪われそうな意識をなんとか繋ぎ止め、己の汗と・・・それに、先程激しく転倒した時に砂利でも入り傷付けたのか、若干の血が滲む眼差しで、少女を見詰めた。


少女の手元の火球は、見る間に巨大な炎の塊となると、誰もーー少女すら未だ触れてはいないのに、まるで紙粘土の様にぐにゃぐにゃと独りでに動き始め、何かの形を象り始める。


何度もぐにゃりぐにゃりと蠢き、幾度となく形を変え、出来上がったそれはーーー


「薔薇の、花・・・・・?」


花弁の全てが燃え立つ蒼白い業炎で作られた、大輪の白い薔薇であった。


「おや・・・。これは、まぁ・・大変お似合いですねぇ」


相も変わらず笑えない台詞を柔らかな甘い声音で飄々と言って退ける夜叉丸。


その表情は、初めて逢った時から一切変わらない仮面の様な笑顔が張り付いたままで、残念ながら、言葉の真意までは表情から読み取ることは出来ない。


一方、満身創痍の光流は、


「・・・・・似合う、ねぇ。なら、あんたが貰ったらどうだよ」


良くも悪くも夜叉丸の笑えないジョークに、軽口で返す。


血塗れで、まさに傷だらけという言葉が相応しい位の光流だが、余りに自分の常識の範疇から外れたことばかりの展開の連続に、逆に頭は少しだけ冷静になってきた。


それに、先程からの戦いぶりを見る限りーどう贔屓目に見ても彼らが人外であるという事はこの際置いておいてー夜叉丸と蜘蛛丸は強い。


これは、紛れもない事実だ。


2対1という数の利も勿論在るだろう。


しかし、それ以上にーーやはり、彼らは強いのだ。


光流とて、無駄に剣道部に身を置いている訳じゃない。

と、言うより・・・実は、光流は小学1年生の頃から剣道を習っており、運動神経には密かに自信を持っていた。

暴漢やちょっとしたチンピラならば簡単に蹴散らせる自信がある。


実際、ベタベタな展開ではあるが、夜の繁華街で友人達とゲームセンターでクレーンゲームに興じていた時、典型的なチンピラの見た目をした男達に絡まれていた女性を助けたこともある。


まぁ、残念ながらその後お約束のギャルゲーの様な展開にはならなかった訳だが。


他にも、幼少の頃から剣道に励んでいた為、大会にも数多く出場し、それなりに結果も残してきた。


が。


いざ実戦となると、この有り様である。


勿論、この現実世界で命懸けの実戦をする等想像もしていなかったということもあろう。


此処まで鋭い、全身を刺す様なーー『本物の殺意』を向けられたの自体が初めてだということもある。


況してや、相手が人ならざる者である等、日頃稽古の際に想定出来る範囲を軽く越えている。


だが、それでも、曲がりなりにも剣の道を進んできたーーそれなりにプライドもある光流にとって、今回の出来事は、彼のそのプライドを滅茶苦茶に打ち壊す様な出来事だったということが出来よう。


しかし、そんなーー武の道を歩んできた光流だからこそ、夜叉丸と蜘蛛丸の強さは確かなものであると、見極めた己のその審美眼に自信を持つことが出来るのだ。


昔から試合等を通し、命のやり取りはないにせよ、様々な相手と本気と本気で渡り合って来た光流だからこそ、その沢山の経験から、掛け値なしに、心から、彼等はーーあの二人は強いと分かるのである。


故に、光流は今は素直に夜叉丸に肩を預け、彼等と共に生き残ることに専念し、考えを巡らせる。


しかしーーー


「さぁ、喰らいなさい。あなた達の死への序曲(プレリュード)を・・・・・!」


少女が高らかに告げる声が光流の思考を現実に引き戻す。


少女の、まるで神からの宣告の様な高らかな宣言の直後ーーー


「っ?!うわぁぁぁ??!!!」


少女が巻き起こした炎を纏う強風に乗り舞い散った、無数の蒼白く燃え盛る白薔薇の花弁が四人に襲い掛かった。


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