星天大戦38
「・・・いや、結城だけじゃない。楓や徳永、ザトや先生達、あと・・・出逢ったばっかりですけど、玲さんや、ミリア、それに夜叉丸や蜘蛛丸に文車も。きっと・・・此所に居る皆が、僕を支えてくれてるんです。あの悪神を倒して、学園をーーーそれぞれの大切なモノを、護る為に」
そう天海に語りかけながら、光流は、銃剣が融合して生まれた大きな鋏の左右の指穴をそれぞれ両手で強く握ると、ぐっと力を込め、動刃と静刃を限界まで押し広げる。
大きく『く』の字型に開かれる刃。
光流は、それを片手で肩の高さまで担ぎ上げると、更に言葉を続けた。
「だからこそ、僕は負けられないし、負けちゃいけないんです。此所に居る全員の祈りと思いを、背負ってますから」
そこまで話し終えると、光流は高く担ぎ上げていた鋏をブーメランの要領で、離れた場所に立つ悪神に向けて思い切りーーー勢いよく投げ付けた。
それに気付いた悪神は、鋏を吸い込もうと巨大な口を更に大きく開け待ち構える。
だがーーー
「そうだぜ!!俺達の未来が懸かってんだからな!!負けるなんて許さねぇぞ!!」
「全くじゃ・・・妾が此処までしてやったというのに、よもや、この戦に敗北し、おめおめと生き残る恥辱が許される等とは思うておるまいなぁ?笑止。必ずや、勝つのじゃ。あの異形の化け物に勝利し、凱歌を奏してみせよ。人間よ」
上空から威勢の良い達郎の声と、こんな状況だというのに相も変わらず艶やかな茶々の声が降り注ぐ。
「俺達はお前を信じてる・・・命は預けたからな、光流!!!ってことで、これでも喰らいな、悪神さんよぉ!!!」
「ふふ、仕方のない宿主じゃ。・・・妾が直々に露払いをしてやる、光栄に思えよ、小僧!」
「「『燃え落ちるの栄華の都』!!!」」
見事に重なりあった達郎と茶々の声がそう告げると同時、上空から、先程落ちてきた城とは比べ物にならない位巨大なーーー都市の様なものが丸ごと、悪神に向けて真っ逆さまに落下してくる。
都市の屋根全てに葺かれた金色の瓦が、煌々と月の光を反射し、輝きながら落下してくる様は、まるで流星の様に美しい。
しかし、金箔の瓦の葺かれた美しい都市は、その優美な見た目とは相反する凶悪さで、何時の間にやら一本の巨大な黄金の杭に姿を変えると、先ずは鋏より先にそちらを吸い込もうと上を向いた悪神の体ーーーその口から爪先までを一気にぶすりと貫き通す。
と、同時に、金の杭に貫かれ、身動きすらままならぬ悪神の身体を滑る様に迫って行った光流の鋏が、まるで紙でも切る様にすっぱりと両断した。
身体を縫い止めていた杭ごと切り裂かれ、ごろりと床に転がる二つに分かたれた悪神の身体。
その身体は何とか元の一つの身体に戻ろうと、上半身は必死に両手で這い、下半身は足の裏に伝わる感覚を頼りに歩きながら、互いを目指す。
けれど
「そうはさせませんよ!!!これ以上貴方に自由になられては困ります!!」
達郎達と同じく、遥か上空から凛とした華恵の声が降ってきた。
「残念ですが、この現世に貴方の居場所はありません!元居た闇へお引き取り願います!!」
そう言い切るが早いか、悪神に向かって急降下し始める華恵。
彼女が狙っているのはーーー悪神の下半身だ。
先程彼女が言っていた通り、先ずは容易に逃げられない様、足を封じてしまう作戦なのだろう。
それに気付いたのか、上半身が必死に這い寄って来る。
だが、上半身が到着するより早く下半身の真上をとった華恵が、最早愛用の武器と化したハンマーを、まるでゴルフのクラブの様に大きく振りかぶった。
そうして
「私達の怒り、その身を以て受け止めて頂きます・・・『戦乙女の鉄槌』!!!」
そう叫ぶと同時、ありったけの重力を乗せて、ハンマーを悪神に向けて一気に叩き込む華恵。
ぐしゃり、と嫌な音がして悪神の下半身が紙の様にぺちゃんこになるのが見える。
しかしーーー悪神の下半身が完全に潰れたのを見届けると、華恵もまた膝をついた。
いや、彼女だけではない。
上空を見てみると、茶々や達郎も肩で息をし、額には脂汗を滲ませている。
皆、慣れない戦いに、身体がもう限界に達しているのだ。
だからこそーーー。
(必ず、僕が決めてみせるーーー!!)
まさしくブーメランの要領で手元に戻ってきた鋏を、今度は再度二振りの銃剣とすると、それを両手に握り締め、光流は悪神に向かって駆け出した。
(皆が繋いでくれた好機、絶対無駄にはしないーーー!!!)




