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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
132/148

星天大戦37

 すると、まるでそんな天海の心の中を見抜いたかの様に、光流が声をかけてきた。


「これは雲外鏡医師せんせいの力ですよ、天海先生」


天海にそう告げながら、光流は、口の端を片方だけ吊り上げ、皮肉げな笑みを浮かべてみせる。


光流のその表情に、はっとする天海。


何故なら、今光流が浮かべている表情はーーー天海がよく知る雲外鏡の表情そのものだったのだ。


(・・・これは・・・憑依というより、まるで同化ですね・・・)


本来、憑依というものは人間に霊魂が宿り、その宿った側の霊魂が、元の人間の魂に代わって人間の身体を操ることが多い。


その間、憑依された側の人間の魂は、身体の主導権を奪われた挙げ句、意識の深層辺りまで押しやられ、まるで映画館で映像を見ているかの様に、霊魂達により自分の体が成していることを、ただ見ているしかないと聞いたことがある。


また、複数の霊魂が宿っている場合は、また特別で、基本的には一つの霊魂の人格が表に出ている場合は、他の霊魂や宿主の魂は表に出ることは出来ない為、眠るか、表に出ている霊魂の行動を見守る等しているらしい。


それらが、今までの経験や学習により天海の中に蓄積した憑依についての知識全てだった。


だが、今目の前にいる光流は如何だろう。


彼は複数ーしかもどれも強力な妖怪ばかりだーに、憑依をされているというのに、自我を保ち、更には自身に宿った妖怪の力を適格に使いこなしているではないか。


戦闘経験等一切なく、数時間前までは普通の人間であり、一介の高校生に過ぎなかった光流が、憑依をされても自我を押し込められるどころか、しっかり自身を保ったまま、悪神と互角に戦っているーーーその事実は天海だけではなく、少なくとも光流以外に今までそんな人間を見たことはない日之枝や夜叉丸達にも強い衝撃を与えた。


そんな彼等の目の前で、尚も自身に触手を伸ばしてきた悪神に向けて発砲する光流。


すると、銃口から放たれた弾丸を見た瞬間、日之枝達が驚きに瞳を見開いた。


なんと、光流が放った銃弾は、その身に鮮やかな深紅の炎を纏っていたのだ。


「炎・・・まさか、今度はコーデリアさんの力を・・・?」


固唾を呑んで天海達が見守る中、深紅の銃弾はそのまま真っ直ぐに進むと、悪神の、指を触手に変えている方の手ーーーその手首のど真ん中を見事に撃ち抜く。


しかも


「撃たれた傷が、治っていない・・・?」


そう・・・光流の深紅の銃弾に撃ち抜かれた傷も、先程までの銃創と同様、決して塞がることはなくーーーしかも、傷の周りを高温の炎で焼かれている為、その余りの激痛に野生の獣の様な激しい吠声をあげる悪神。


その様子を見つめながら、天海は一人じっと考えていた。


(・・・先程の炎を纏った銃弾。あの炎は、間違いなくコーデリアさんの力でしょう。ですが、悪神の傷が治らないのは、先刻彼自身が言っていた様に、雲外鏡の持つ力ならば、彼は今同時に二人分の能力を行使していることになる・・・。ですが、宿主が憑依した妖の力を複数同時に使いこなす等聞いたことがありません・・・)


しかも先程まで、何の能力も持たないただの人間であった青年がーーー。


その事実に、天海は内心激しく驚きつつも、戦いながら思考を巡らせる内、ふと、ある仮説を思い付く。


(・・・もしや・・・妖怪の長たる滝夜叉姫様がなかから何かされているのでは・・・?)


するとーーーまるで、彼の抱いたそんな疑念に答えるかの様に光流が口を開いた。


「天海先生。貴方が考えていることーーーそれは、正解ですよ」


光流の告げたその言葉に、天海は決して動揺したり、驚いたりすることなく、ただ少しだけその瞳を細めると「やはりそうでしたか」とだけ呟く。


その彼に、光流は小さく一度頷くと言葉を続けた。


「多分、僕の中から結城が如何にかしてくれてるのかも、って考えてますよね?そうなんです。結城が、妖怪の姫として全ての妖怪を統率する能力で、僕の意識が押さえ込まれたり、体の自由が奪われたりするのを防いでくれてるんですよ」


だから、僕と彼女がなかと外で協力することで、こうして複数の妖怪の力を同時に使うことが出来るんです、と。


そこまで語ると、改めて二振りの銃剣を手にする光流。


彼は、なんと天海の目の前でその二振りの銃剣を魔力で接合し始めたのだ。


そうして、魔力により接合された二振りの銃剣。


その完成した姿はーーーまるで、叶の愛用している大きな鋏に瓜二つだった。

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