星天大戦34
その瞬間、楓の身体から溢れ出す白く目映いーーー清らかな光。
その光は、太く大きな一本の光の御柱となると、楓の一途で裏表のない性格を表すかの様に、空を目指して真っ直ぐに立ち上る。
そして、天高く立ち上った光の柱は、やがて空を覆っていた漆黒の闇や紅蓮の業火をも勢いよく突き破ると、まるで天岩戸開きの伝説の様に、隠されていた頭上の北極星を引っ張り出した。
空に再び居場所を取り戻した北極星は、ここぞとばかりに、光流を献身的に見守る楓だけではなく、屋上で死力の限りを尽くして戦う全ての仲間達を平等に、慈愛に満ちた光で照らし出す。
そんなーーーまさに、希望の光とも呼べる星の光に包まれて、より士気を高揚させると、必ず光流の帰還を強く信じ、何度も悪神にぶつかっていく楓の仲間達。
一方、体の内と外の両方から『光』を・・・楓や皆の『希望』と『願い』、それに強い『思い』を注ぎ込まれた光流の身体にも、変化が生じ始める。
「え・・・?光、流くん・・・?」
未だ手を強く握ったまま、しかし困惑に声を揺らす楓のその視線の先で、光流の髪が、まるで勇壮な雄の獅子の鬣を思わせる様な、鮮やかな金色に染まり始めたのだ。
いや、彼の身に起きている変化はそれだけではない。
「ど、如何しちゃったの・・・?」
戸惑う楓の目の前で、光流の左手の甲に、鮮やかな紅い五芒星が浮かび上がってきたのである。
「え、何これ、変身?光流くん、変身してるの?まさか、魔法少女とかになっちゃうんじゃないよね?」
光流の身に起きている変化についていけず、半ばパニックに陥りながら、一人落ち着きなくあわあわと狼狽え始める楓。
と、そんな楓に向かって、悪神が激しく攻勢をかける華恵達の隙をつき、唯一自由になる指先を漆黒の鋭い刃に変え、静かに、そして慎重に・・・音もなく床を這い寄らせて来る。
悪神は、あの激しい猛攻の中に在っても尚、恐るべき洞察力で楓が仲間達にとって大切な、一同を繋ぐ『要』的存在であると見抜いたのだ。
確かに楓が消えれば、人間達の和は容易く乱れ、絆は瓦解するだろう。
それに、悪神にとって目障りなあの『光』が人間達を照らすことはもう二度とないかもしれない。
加えて、光流に声をかけつつ守護していた彼女が消えれば、眠る彼を近くで護る者はもういないのだ。
万が一華恵達が光流の危機に気付いたとしても、彼女達が彼の元に駆け付ける頃には、既に悪神の闇色の魔手が光流を串刺しにしていることだろう。
また、光流を消してしまえば、必然的に、彼の内に憑依したままの葉麗達の魂は光流の身体から弾き出される筈だ。
ならば、あの目障りな魂達は、実体化をしようとしているその隙に捕獲し、贄としてしまえば良い。
幾星霜も刻を重ねた妖怪の姫君の魂は、どれ程の味なのか。
憎き人間達や、逢魔宵の邪魔者達を蹂躙し、捕らえ、散々なぶり、『もう殺してください』と泣き叫ぶまで追い詰めてから、じわじわと・・・肉体的にも精神的にも、最大限の苦痛を与えられる方法で殺し、その肉体と魂を喰らう。
それを想像するだけで、悪神の身体は、抑えきれない歓喜に震え始めた。
だが、それには先ず、楓ーーーあの小娘を手始めに始末する必要がある。
全ては楓を殺し、魂を喰らってからだ。
そうして、魂を喰った後は人間共の目の前でその身体を引き裂き、奴等に最大で最高の絶望を与えてやろう。
そうだーーーそれが良い。
業火に焼かれ、数多の侍達にその身を切り裂かれながらも、悪神はその瞬間ーーー楓の命を刈り取る瞬間を想像しながら、その顔に昏い笑みを浮かべると、楓に忍び寄らせていたナイフの様に尖った指先を、彼女の喉笛目掛けて一気に加速させる。
「しまった・・・!」
「楓ちゃん!!」
それに気付いた仲間達が慌てて駆け寄ろうとするが、もう襲い。
悪神の指先は、楓の細い首筋の直ぐ傍まで迫っていた。
「っ・・・!」
(・・・私は如何なっても構わない。でも、せめて光流くんは・・・!光流くんだけでも護らないと・・・!)




