星天大戦22
爆風に煽られ、飛ばされてくる細かなコンクリの破片等により全身に無数の掠り傷を負いながらも、その場から逃げたり目を逸らすことはせず、ただひたすら、仲間達をーーー大切な親友達を信じ、床に膝をついたまま、二人の無事を祈る楓。
すると
「楓!!」
不意に、上空から彼女の名を呼ぶ声が降ってくる。
聞き覚えのあるその声に彼女がはっと顔を上げると、其処には
「よっ!待たせたな!」
「楓ちゃーん!!無事で良かったですよー!」
此方に向かって元気にぶんぶんと手を振る華恵と、彼女の襟首を両手で掴みながら、炎の翼をばっさばっさと羽ばたかせる光流の姿があった。
二人共、よく見ると体に沢山の傷を負ってはいるが、幸いなことにどれも今すぐに命に関わる様なものではないらしく、思ったより元気そうな様子が見てとれる。
そんな華恵と光流の様子に、余程安堵したのか、目元にうっすらと滲んだ涙を拭いながら、ほっと息をつく楓。
すると、つい、先程まで悪神が居た、爆発の中心であった場所から、ガランッと何かが落ちる様な音がする。
「えっ・・・?」
その音に、何か不審なものを感じ、音がした方向を振り返る一同。
しかし、彼らの視線の先に在る筈の場所は、先程の激しい爆発により巻き起こった濃い爆煙や、爆風によって舞い上がった砂埃で霞がかかった様に曇り、其処で一体何が起きているのかを目視することは非常に困難を極めた。
更に、あの音を聞いた直後から
(・・・おかしい・・・悪神を倒した今、この場所には僕達しかいない筈だ・・・。そして、皆は今目の前にいる)
なのに、何故、誰も居ない筈の場所から音がするのかーーー?
そんな不吉な疑問が、光流の頭の中でぐるぐると渦巻いていた。
(・・・何だろう。嫌な予感がする)
徐々に砂埃や煙が晴れていく風景を見つめながら、光流は念の為、誰にも気付かれぬ様そっと左手に炎を宿すと、その手を背中の後ろに回し、隠す。
(よし・・・これで、万が一何か起きたとしても直ぐに対応出来る筈だ)
自身を鼓舞する様にそう小さく頷くと、改めて、先程まで悪神が居た場所に視線を向ける光流。
其処は、やはり未だ濃い砂埃に覆われていたが、それでも先刻より落ち着いて来てはいるらしく、砂埃の中に佇む何者かの人影がはっきりと見てとれた。
(誰か、いる・・・!!)
悪神に拳を打ち込んだ時、其処には確かに光流と華恵と悪神以外、誰も居なかった筈なのに。
(一体、誰が・・・?いつの間に・・・?)
あの爆発の直後、光流は華恵を掴んでかなり上空に避難し、暫くの間、其処に滞空していた。
何故なら、こういう場合、もしその時直ぐに仲間達がいる場所に向け移動を開始したとしても、途中、何処かであの激しい爆風の影響を受け、華恵もろとも吹き飛ばされてしまう危険性がある。
だからこそ、光流は、無理に移動を強行することを避け、その時点では安全であった其処に、爆風が収まるまで滞空し続けることを選んだ訳だがーーーその時には、確かに、光流達と悪神以外、人影等無かった筈なのだ。
それこそずっと上空に滞空していた光流は、悪神を助けようと駆け寄った様な人物も見たことがなければ、逆に、悪神の内から抜け出せた魂の姿も見ていない。
つまり、行きなり地中から湧いて来た等の事がない限り、絶対に其処には悪神以外は存在していなかったのだ。
だが、現に今、砂埃でやや輪郭がぼんやりとしてはいるが、大きさや形等からして、ほぼ人だと思われる存在が、悪神がつい先程までいた場所に立っているのである。
(まさか、隠れていた敵の存在を見逃したか、気付かなかった・・・?)
ならば、悪神以外にも厄介な敵が未だあの晴れぬ砂埃のカーテンの向こう側に潜んでいることになる。
(・・・敵は悪神一人だと思ってたが、油断したな。最初に敵の総力を索敵すべきだった・・・)
光流はそう激しく後悔し、口唇をぎりっと噛み締めるが、もう遅い。
人影は、光流達の直ぐ近くーーー最早、砂埃のヴェールがかかっていても、しっかりと体つきや身長等が目視可能な距離まで迫っていた。
けれど、もし、あの人影の主が敵だと仮定した場合、其処には大きな問題が一つ発生する。
それは、人影が敵だった場合、先程悪神に全力の攻撃を放ったばかりの光流達が、今すぐにまた新たな敵に対応する事等到底不可能であるということだ。
(如何する・・・如何したら良い・・・。いや、これも全ては、悪神の一番近くに居たのに、新しい敵が来た事に全く気付かなかった僕の責任だ・・・)
光流は一人そう深く思い詰めると、華恵を地上にいる仲間達の元に下ろし、自身は炎の翼をはばたかせて、再び空高くへ舞い上がった。
ーーーあの人影の正体を見極める為に。




