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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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星天大戦21

「仕方ないわねぇ・・・此処まで来たら付き合ってやるわよ、ニンゲン共。その代わり、一番手は貰うからね!」


ミリアがそう叫ぶと同時、まるで湧き出す様に何処からともなく出現し、此方に向かって手を突き出した体勢のまま、粘性のある液体の中で赤子の様にその身を丸くする悪神の四肢をがっちりと拘束していく無数のロープ。


これで、このロープを如何にかしない限り、今目の前に居る悪神は、発動に手の動きを必要とする妖術や、踏みつける・蹴る等といった足を使った攻撃はおろか、手足を使った物理的な防御や回避行動すらも封じられたことになる。


「ふふ・・・ありがとうございます、ミリアさん。お陰で大分やりやすくなりましたよっ・・・!」


ミリアにそう礼を言いながら、水の球を放つ天海。


彼が放った水の球は、ちゃぽんっという音と共にそのまま悪神を包み込む液体の中に入り込むや、するすると悪神の目の高さまで移動をし、そのまますっぽりと悪神の顔を包み込む。


執拗に水球が悪神の口元や鼻を塞いでいるところを見るに、恐らく、悪神の口を塞ぐことで呪文の詠唱等を必要とする妖術による反撃を防ぐと共に、鼻孔まで塞ぐことであわよくば悪神がそのまま窒息死してくれたら、という狙いもあるのだろう。


しかし、このミリアと天海の素晴らしい働きのお陰で、一瞬にして反撃の術を全て断たれ、羊水の様な液体の中でただひたすらもがき身を捩るだけの無力な存在と成り果てる悪神。


他の仲間達はその瞬間を狙い、一気に攻撃を浴びせかけていく。


「行くぞ、コー!!」


「ええっ!!準備は出来ていましてよ」


コーデリアに呼び掛けるが早いか、炎の翼で舞い上がり、必死にあがく悪神の丁度真上で停止する光流。


「さぁ・・・これは、お前が今まで苦しめた人達の怒りと悲しみだ!必ず受け取らせてやるよ、悪神・・・!」


停止したと同時、光流は流れる様な動作で左手の拳に炎を集めると、そのまま悪神を睨み付け、攻撃のタイミングを計る。


「私だって・・・!私とシャーロットちゃんを操り、苦しめた罪、その身を以て贖って頂きます・・・!」


そう高らかに宣言するや否や、巨大なハンマーを構え、悪神の正面から肉薄し、悪神の弱点を探るかの様に間近からヒットアンドアウェイを繰り返す華恵。


彼女は走る際、自身の足に強力な斥力を纏わせることで、足が地面に触れる時間が極端に短くなり、結果、有り得ない程異様な速さで動くことが可能になったのだ。


一方、玲はというと


「いやぁ、若い人は元気だねぇ。じゃぁ、俺は此処から邪魔にならない程度に援護させて貰おうかな」


と嘯きながら、悪神をぴたりと指差し、告げた。


「君、この世界に生まれ変わりたいのかもしれないけどさ、俺の前で水の中になんか籠ってると危険だぜ?」


瞬間、上空から迫る光流の目の前で、悪神を保護する様に包み込んでいた粘性のある水がたちまちに凍り付いていくではないか。


しかも、如何やら中で凍り付いた水が針の様に尖り、悪神の全身を四方八方から刺し貫いているらしく、悪神のもがく様な仕草が先程よりもかなり激しくなっている。


四肢を拘束された上、呼吸も充分にさせて貰えず・・・更に、全身をまるで針の筵の上に寝転んでいるかの様に絶えず何度も刺し貫かれ、何とかその苦痛から逃げ出そうと黒い皹から身を乗り出す悪神。


其処を日之枝の放った炎の龍と、雲外鏡の弾丸の嵐が強襲する。


氷で全身を貫かれたと思ったら、次は地獄の業火もかくやと思う程の高温の炎にその身を焦がされ、更にまるで追い討ちをかける様に、純銀の弾丸に全身を余すところなく撃ち抜かれ、蜂の巣にされる悪神。


悪神はなんとか日之枝達の攻撃から逃れようと身を捩るが、四肢を拘束されている為、その場から逃れるどころか、上手く動くことさえ出来ず、傍目にも分かる程徐々に弱り、動きも非常に鈍く、緩慢なものになっていく。


(今だ・・・!今しかない・・・!)


そんな悪神の様子に、光流は本能的にそう察すると、やはり自身と同じくトドメを刺さんと悪神に向かって疾走している華恵と夜叉丸、それに蜘蛛丸に、大きく呼び掛けた。


ちなみに、夜叉丸と蜘蛛丸は少しの間なら悪神と戦っても支障が出ない様、先程、戦力不足による全滅を危惧した葉麗によって、何やら護りの様な術を施されたらしい。


「徳永!夜叉丸さん!蜘蛛丸!四人で同時に仕掛けよう!」


光流のその上空からの呼び掛けに、強く頷いて返す華恵と夜叉丸。


他方ーーー恐らく是という意味なのではあろうが、頷いてみせた後、何故か光流に向けてあっかんべーをしてくる蜘蛛丸。


その余りに小憎らしい仕草に、悪神を討つ前に危うく光流の血管や堪忍袋の緒が限界を迎えそうになるが、「ここは我慢だ、皆で乗り切らないと」と自分に言い聞かせ、なんとか蜘蛛丸の挑発を回避する。


そうして、四人はやおら互いに目を合わせ、再度強く頷き合うと、仲間達の猛攻によりその命も最早風前の灯火と化した悪神に向かい、自身が出せる最速の速度スピードで近付くと、一斉に畳み掛けた。


「はぁぁっーーー!!!」


夜叉丸と蜘蛛丸の刃が、縦横に、弱りきった悪神の躯を切り刻んでいく。


けれど、流石は腐っても高位の妖怪変化というべきか。


頭から足にかけて、全員を縦と横真っ二つに切り裂かれているというのに、未だ悪神の躯は倒れることはなく、その躯も今にもバラバラになり崩れ落ちそうではあるが、しかし、ぎりぎりの所で肉体が崩壊するのを防いでいるらしく、拘束されている足や手を震わせながら、なんとか耐えている様子が光流達にも見てとれた。


だが、夜叉丸と蜘蛛丸の攻撃により、確実に・・・かなり弱体化が進む悪神。


「この炎、防ぎきれると思うなよ!」


その頭上から迫る、光流の紅蓮の炎を纏った拳。


更に正面からは華恵のハンマーが迫り来る。


「反省の時間です!!」


そして、光流の最高火力の炎を宿した拳と、やはり、最大の出力にした圧力で以て襲い掛かる華恵のハンマーが、悪神を挟んで互いに激しくぶつかり合う。


その瞬間ーーー最大の力で放出された業火と重力のせめぎ合いにより、悪神を中心に、地響きの様な恐ろしい音を響かせながら、ぶつかり合った二人の力が大爆発を引き起こした。


ドォォンッという激しい音が辺りに響き渡ったかと思うと、まともに目を開けていられない程の真っ白で眩しい閃光が辺りに満ち、更に遅れてきた地震の様な衝撃が一同の全身を襲う。


その激しい衝撃に膝をつき、眩い閃光に視界を奪われながらも、楓は爆発を引き起こした張本人であり、爆心地の中心に今もいるであろう大切な人達の名を叫んだ。


「光流くぅぅぅぅん!!!華恵ちゃぁぁぁん!!!」

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