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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
105/148

星天大戦⑩

 (いやいや、まさか・・・。協力なんて無理だろ。危険過ぎる。だって、彼女は・・・)


『如何見ても、口裂け女じゃないか』ーーーその台詞を飲み込み、葉麗に誰か他の者は居ないか心当たりを問い掛ける光流。


「な、なぁ?結城。あの人も、確かに良いと思うんだけどさ?夜叉丸さんとかも如何なんだ?あの人の武器って刀だろ?丁度良いと思うんだ」


如何にか彼女の考えを変える為、その顔に胡散臭くすらある作り笑いを張り付け、光流はそう提案を試みる。


しかし、葉麗はそんな光流の様子をちらりと一瞥すると、きっぱりと言った。


「それは無理な相談ですね」


そこに取り付く島等一切存在しない。


清々しいまでの葉麗の否定の言葉、またその速答っぷりに、思わず突っ込む光流。


「早っ!!一秒も経ってないんですけど?!ねぇ考えてくれた?!僕の提案ちょっとでも考えてくれたの?!」


そう、怒濤の突っ込み兼反論を繰り出す光流に、葉麗は見るからに「ああ、煩い」とでも言いたげな表情かおを浮かべると


「五月蝿いですねぇ。ちゃんと考えましたよ。夜叉丸は、消滅してしまうかもしれないから駄目なんです。仕方ないから、小姑みたいに小うるさい近藤君の為に私がちゃちゃっと説明してあげましょう」


そう言って、彼女は懐から何やらおふだの様なものを取り出した。


細い長方形をしたそれには、よく見ると丁度真ん中辺りに紅い絵具か何かで象形文字や漢字の様なもの、それに、五芒星が描いてあるのが分かる。


葉麗はそれを指先で摘まんだままひらひらさせながら


「これはね、夜叉丸と・・・それに、蜘蛛丸の心臓みたいな物なんですよ。朝廷に恨みを抱いて死んだ者達の遺体から少々血肉を失敬しまして、それを粘土と一緒に捏ねます」


と、説明する葉麗。


彼女はご丁寧に、ハンバーグを捏ねる様な仕草もつけて解説してくる。


(・・・血肉・・・血肉を、捏ねるって・・・ぅぇ)


その場面を想像して少し気分が悪くなる光流。


けれど、葉麗はそんな光流の様子等全くお構いなしで話を進めていく。


「そして、そこに最後の仕上げとして、この召喚よびだしたい者の名を私の血で描いた呪符を入れます。そうすると、あーら不思議!なんと、夜叉丸と蜘蛛丸が召喚よびだせたのです。つまり彼らは、私が喚べば呪符がある限り何処にでも現れますが、逆に、この呪符が肉体うつわから離れてしまうと、ただの腐った血肉と粘土が混ざったハンバーグになってしまうという訳ですよ」


「・・・腐った血肉と粘土のハンバーグて・・・」


先程同様、一瞬、頭に腐った血肉と粘土のハンバーグを思い浮かべてしまい、気分の悪さに更に拍車がかかる光流。


そんな彼を「想像しちゃったんですか?馬鹿ですねぇ」とあからさまに小馬鹿にしつつ、「兎に角」と葉麗は話を締めくくる。


「そう言う訳で夜叉丸は駄目なんです」


だが、光流も簡単には引き下がらない。


「話は分かった。じゃぁ、そうだ・・・お前召喚が出来るんだろ?他に誰かいないのか?それこそ、超強力な『断ち切る力』を持ってる奴を喚び出せないのかよ?」


なんせ、此所で引き下がれば彼に待っているのは都市伝説や怪談の中でもレジェンド級の怖さと知名度を誇る怪人との共闘だ。


少しの間でも朧に滞在したことで、若干妖怪への恐怖心は和らぎ免疫の様なものもついた光流だが、証拠は無いにしろ、明らかに人を襲った伝説や逸話が沢山残っている相手となれば話は別である。


敵を倒す前に自分が殺害されかねない。


そう言う訳で、光流は件の女性との共闘を全力で回避しようと試みる。


しかし、葉麗はそんな彼の意見を一顧だにせず


「彼女以上に『断ち切る力』に優れた人なんていませんね。有り得ません。NOです」


そう、マシンガンの如く否定の言葉を一気に光流に浴びせかけた。


その言葉の弾丸に心を蜂の巣にされ、精神的なHPが一旦は0になるも


(・・・それで、この変な黒い箱みたいな物の中から仕方ない、か。・・・そうだ!それに、いざとなったら先生達が居るんだ。あの二人なら、僕達に何かあったら直ぐに助けてくれるだろう)


と、光流は思い直す。


そうして、彼は葉麗に問い掛けた。


「・・・あの人の力が必要っていうのは分かった。なら、僕達は如何したら良い?援護か?」


彼のその問いに、葉麗は、何を言ってるんだと言わんばかりに小さく首を傾げると、告げた。


「援護??何言ってるんです?彼女を憑依させて貴方が戦うんですよ?」


彼女のその発言に驚きを隠せず、思わず叫び声を上げる光流。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ??!!」


そんな彼を、まるで何に驚いているのかさっぱり分からないといった様子で見つめながら


「当たり前でしょう?彼らは霊体なんですよ?先程、吸収されかけていた女の子と人体模型・・・あ、あの女の子はトイレの花子さんで、人体模型は山田くんって言うんですけどね?迂闊に、妖怪である彼らが近接攻撃を仕掛けたら、ああなってしまう訳ですよ。ほら、悪神は魂その物を糧にしていますから」


そうご丁寧に説明してくれる葉麗。


彼女のとても分かりやすい解説を聞きながら、光流は心で滂沱の涙を流す。


(・・・うん、だよね。そんな気は・・・嫌な予感はしてたんだ・・・あはははははは・・・はぁ・・・何で僕ばっかりこんな目にぃぃぃぃ!!!あれか!僕は前世で魔王だったのか?!で、今その天罰を現在進行形で食らってるのか?!)


だが、同時に、彼は頭の片隅で納得もしてしまう。


(・・・けど、魂を吸収、ねぇ・・・。確かに、夜叉丸さんや蜘蛛丸だと危なかったかもな)


呪符から離れられない体だと言うのに光流に憑依し、あまつさえ・・・悪神に吸収までされてしまったらーーー。


(目も当てられないな。・・・もしかして・・・いや、だから、結城はあんなに反対したのか?あいつも、以外と仲間思いな所があるんだな。それに、あの結城のことだ・・・きっと、あの二人にも、そう簡単に魂を吸収されない様色々仕掛けをしてるんだろう)


と、光流が一人納得していると、不意にぽんと彼の肩に静かに誰かの手が置かれる。


「え、誰・・・・・・・・・・・・」


光流は、手が置かれた肩の方を振り返り、思わずその体勢のまま固まった。


何故ならば、彼の肩に手を置いていたのは


「よっ!そう言う訳で、宜しくな!人間さん!!」


そうーーー満面の笑顔で、光流に向かって親指をぐっと突き出した、あの顔の下半分をマスクで隠した女性だったのである。

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