狼さんと山羊さん
「食われるナウ……っと」
「ねぇ、お前何してんの?」
山羊は目の前の狼さんをスルーし、器用に鼻でスマホを操作してツイートを投稿する。
「いやー、ちょっとね、定期的にツイートしないとフォロワーが離れて行っちゃうじゃないですか」
「おお、そうなのか。って違うだろ? なあ」
「違うとは?」
「食われるんだぞ? お前は今から俺の食料になるんだぞ?」
「でもでも、そんな体験って滅多に出来ないじゃないですか」
「まあな、一生に一回しか体験出来ないしな」
「じゃあもう呟くしかないじゃないですか」
「うん、そこがおかしい」
狼さんは、足で地面をトントンと叩く。
苛立ちが隠せないようだ。
「状況、分かってる?」
「はい。食われそうです」
「分かってんじゃねぇか。ならさ、お前に与えられた選択肢は三つだろ?」
「トゥイッター、RAIN、顔ブック」
「ははーん、さてはお前現代っ子だな? そんな現代っ子のお前に正解を教えてやろう。逃げる、立ち向かう、命乞いだ」
「はっ、逃げる、命乞いとかダッサ」
「そう言うなら、お前立ち向かうんだな?」
「な~に言ってんですか! 狼さんに勝てるわけないでしょ? バカですか?」
「お前相当な死にたがりだな」
狼さんの青筋がどんどん濃くなっていく。
「それにー、立ち向かったりすれば私の手が傷つくでしょ?」
「それで済めばいいな」
「ほら、私ギタリストなんで、手を怪我すると困るんですよ」
「は? 何? お前ギター弾くの?」
「はい、もう箱とかでバリバリ演奏してますよ」
「箱って言うところからもうバンドマン感出てるわ」
箱というのは、要するにライブハウスのことである。
「結構人気もありますよ? 一回ライブすれば、ファンの子たちが乳ちょうだーい! って駆け寄ってきますから」
「それライブ見に来てるんだよな?」
「だからね、私は言うんですよ。私はオスだから乳は出ないよーって」
「そんな立派な角が生えてるしな、逆にどうすれば乳なんか求められるんだ?」
「まあ、付け角なので、本当はメスですから」
「嘘つきかよ! てか取れたぁ!?」
「ほら、男装って最近流行ってるじゃないですか。やっぱりね、流行りには乗って行かないと」
「乗らなくていいわ! もういいかげんにしろ!」
「「どうも、ありがとうございましたー」」
二人は人気のない森の中、誰もいないところへ向かって頭を下げる。
「うん、いい感じなんじゃないか?」
「綺麗に最後まで行きましたね!」
「これなら今度の「動物だらけの漫才大会」で勝てるかもしれねぇな」
「ですね! でも、優勝候補の蛇とカエルさんとか、ウサギと亀さんに敵うかどうか……」
「そんなことわざや昔話になった連中に負けるもんかよ! 俺たちは俺たちの漫才で勝負だ!」
「は、はい!」
彼らは、数日後の漫才大会に向けて、力強い雄叫びをあげる。
ちなみにその大会の優勝は、森のくまさんとお嬢さんでした。