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4話 大掃除とラッキースケベ

2人分のお湯を沸かして、各々の食べるものにお湯を注ぐ。俺は金様ヌードル。結菜はインスタントのおしるこだ。


3分待つ。3分か・・・さっき結菜と手を繋いでいた時間だ。なんかカップラーメンの3分って言うのは退屈で、かなり長く感じるよなぁ。さっきの結菜と手を繋いでいた3分なんてあっという間だったのに。


そんなことを考えていたら、俺の左手はなぜか結菜の右手の上まで伸びていた。


「・・・なに?」


いきなり手を握られた結菜は驚きつつも、平静を装って、俺にどうして手を握ってきたか訊いてきた。だけど俺はこれと言って特に理由もなく、ただ結菜の手を触りたい!という欲望で触っている。でもこんなことを口にしてはいけないような気がする・・・。けど何か答えなければいけない。


「っ・・・さっき手繋いでる時、なんか時の流れが早く感じたから・・・!カップラーメンの待ち時間も早くならないかなぁって思って・・・」


「変な答え・・・」


呆れつつも、少しばかし顔が赤くなっているのが分かる。多分俺の方が赤い顔してるんだろうけど・・・。


「3分だけね」


そして許しをいただいた。はぁ、けどなんで咄嗟に手が出ちゃったんだろう。欲望が理性を上回った。なぜ頭のブレーキが利かなくなったんだ?


ダメだ・・・何も情報が頭に入ってこない。一緒にテーブル前に、床に座って、テレビを見て、カップラーメンが出来上がるのを待っているけど・・・なんにも頭に入ってこない。今タイマーが何分経過しているのか・・・スマフォの画面を見ても頭に入ってこない。今テレビはなにを放送しているのか・・・頭に入ってこない。


ただ、結菜の手の感触だけが俺の脳内へと到達する。結菜は俺の手のことを大きいと言ったけど、結菜の手は小さい。そして細くて、白くて。それに冷たい。守ってあげたくなる。けど・・・さっきはこの手に俺が守られたんだよなぁ。


スマフォのタイマーがピピーッ!と3分経ったことを告げた。ハッと、そういえばカップラーメンが出来上がるのを待っていたんだと、現実の世界に戻ることができた。


「3分経ったから食べよ?」


「うん・・・」


結菜は握った俺の手を振りほどくようにして手を離しておしるこに手を掛ける。俺も、もうちょっとだけ触っていたいという気持ちを抑えてカップラーメンに手を伸ばす。飯になんて集中できねえ。ただ、結菜の挙動だけが気になる。


結菜は小さい口で大きな餅をほおばる。うん、なんつーか・・・餅になりたい。餅に嫉妬してる。


「どうしたの?なんか精気を吸い取られたような面持ちをしてるけど」


「せ・・・ぃぇきを吸い取られたぃ、じゃなくて・・・・・・俺は至って普通だ」


「そう・・・ならいいけど」


危ない危ない・・・下ネタを言うところだった。


「ところで、吊り橋効果って本当にあると思う?」


「なんだよいきなり」


結菜は唐突に吊り橋効果のことを訊いてきた。


「私さっき、あなたの手を取ったとき、あなたが車に轢かれそうになったからドキドキしてたのか、あるいはほかの、なんらかの感情のせいでドキドキしてたのか分からなくて」


吊り橋効果とは簡単にいってしまえば吊り橋の上はドキドキする。そこで異性と手を繋ぐとする。果たしてこのドキドキは吊り橋の上にいるという恐怖によるドキドキなのか、異性と手を繋いでいるからドキドキしているのか、分からなくなってくるという話だ。要するに恐怖を感じているときに異性となにかをすると惚れやすくなるという話だ。


「・・・あるんじゃねえの」


なんだかその質問に答えるのは気恥ずかしくて思春期の少年がお母さんに返答するような、ぶっきらぼうな口調になってしまった。


俺の言葉を聞いた結菜はその後黙ってしまった。静寂の時が訪れる。静寂の時間というのが嫌いで、なにか話しかけたいけど話しかける適当な話題が見当たらない。




結局、あの後一度も言葉を交わさずに昼食を終えた。


「それじゃ、昼食も摂ったことだし大掃除をしましょう」


「おう、やるか。一先ず手分けしてやろうか」


「そう。じゃあ私は最初にシンク辺りを掃除するわ」


「ん。じゃあ俺は部屋中に散らばったゴミを片付けるわ」


お互いに掃除場所を決めて、掃除に取り掛かろうとしたときだった。ふと思いついたように結菜が口を開いた。


「なにか汚れてもいい服ない?」


「汚れてもいい服かー。もう古くなったTシャツとかならあるけど」


「じゃあそれ貸して」


「・・・何に使うんだよ。あぁ、雑巾として使うんだろ。まさか着たりしないよな?」


結菜はいともたやすく、驚愕の一言を言い放つのだった。


「そのまさか。あと下の方も」


「えっ!?う~んでも学生服は汚せないしなぁ。ていうか、学生服以外に服は持ってないのか?」


「うん、持ってない。幽霊になってから自分の家とか友達の家に行くのは怖かったし、お店や他人から盗ると言うのも気に障るから」


そうか、結菜は死後自分の家に帰ってないのか。確かに幽霊になってから家族や友人と会うのはちょっと気が引けるな。自分の姿に気づいてくれなかったら悲しくなるし。でも今の結菜はおそらく全員に見えているはずだ。家族や友人にも話すことができるのでは・・・。しかし冷静に考えると死んだはずの人間が帰ってくるというのは気持ち悪いな。


「まあ用件は分かった。はい」


タンスの奥底から取り出した古くなったTシャツとハーフパンツを結菜に渡す。


「着替えるから、どこか行って」


「俺は構わないけど」


「あなたが構わなくても、私が構うの」


「ですよねー・・・」


ということで部屋の外へ出る。別に浴室やトイレでもよかったんだろうけど・・・トイレは臭いし、浴室は狭いから、それならば外に出て、いい空気を吸った方が一番いい。


3階から周りを見渡す。結構遠くまで見える。一面に青空が広がっている。子供の頃、今よりもっと空が近くにあった気がする。身長が伸びるにつれて、物理的には空に近づいているはずなのに、精神的に空は遠ざかっていった。


西の方には高層ビルがちょっとだけ建っている。あれがこの街の中心街で一番人が集まるところだ。一応俺の住む街は政令指定都市になっている。俺のアパートは中心街から5キロほど離れているからあまり中心街の方にはこれといった用がないと行かないけど。けど色々なお店があるから今度結菜を連れて中心街まで行こう。


「もういいよ」


部屋の奥から結菜の言葉が聞こえた。なんだか、かくれんぼをやっているみたいだ。


部屋の中に入ると結菜が俺の服を着て、待っていた。貸したんだから当たり前なんだけど。白色が基調のプリントが入ったTシャツに、紺色のハーフパンツ。俺が普段着ている衣服を女の子が着ていると思うとドキドキする。結菜の身長は160cmくらいだろう。女の子の中では大きい方になるんだとは思うんだけど・・・それでも俺の服はぶかぶかで、キャップを被ったらヒップホップスタイルに見えるんじゃないだろうか。


「それじゃあやろうよ」


その掛け声とともに大掃除が始まった。




「つーか・・・予想以上にエロ漫画多いな・・・」


自分の部屋を掃除していて思わず独り言が漏れてしまう。エロ漫画をタワーのように積んでいたらかなり大きなタワーになった。なんで俺こんなにエロ漫画買ってるんだろ・・・。コンビニで売ってるのが問題だろ!夕飯のついでに買ってしまうじゃないか!コンビニなんてね、小学生も来るんだから置いちゃダメでしょあれ。


「本当にたくさん・・・。もっとまじめな本買ったらどうなの?」


独り言のはずだったのに結菜が俺の言葉に、そして俺が積み上げたエロ漫画のタワーに気づいて口を開いた。


「コンビに行くと置いてあるからついつい買っちゃうんだよなぁ。逆にまじめな本ってあんまりコンビニに売ってないよなぁ」


「私は純文学とか哲学書とか自己啓発本みたいな固い本のことを言ってるんじゃなくて、週刊ベース○ールとかベス○カー辺りのことを言ってるんだけど。雑誌だけど低俗ではないし、まじめでしょ?」


「ん。じゃあ今度からパチンコの雑誌でも買うかなぁ」


「それは低俗じゃない・・・?」


地に落ちたような人間の俺にとっては低俗と高尚、そしてその間の差が分からない。


「けど純文学とかだって読んでもいいと思う。あなたももう20歳でしょ?」


「まぁ一応・・・村上○樹ぐらいは読んでるけど」


「それって・・・エッチなこと目的じゃないよね・・・?」


「な・・・ナンノコトヤラ・・・」


「・・・なぜ片言になる?」


結菜は呆れたような物言いをして、ジト目で俺の顔を見る。すべてを見透かされているようだな。


「ていうかやっぱ男がこういう漫画を持ってると引く?」


エロ漫画を結菜に見せるようにして訊く。半裸の女の子がめちゃくちゃ濡れている表紙のエロ漫画だ。その表紙を見て結菜は顔を少しだけ紅潮させる。さっきはエロ漫画を音読していたのに。


「ちょっとズレてるとは思うけど・・・でもコンビニにも置いてあるほど支持されているものだし、普通なんじゃない?私は引かないかな」


「まっ、実際のところコンビニのエロ本の売れ行きはあんまりよくないらしいけど」


シンクをスポンジでこすりながらも結菜は俺の低俗な話に付き合ってくれた。


空の弁当の容器やお菓子の袋もすべてゴミ袋にまとめたし、缶も処理したし、エロ漫画もきれいに並べたし、掃除機で細かな埃も吸い取ったし、雑巾でテレビやテーブルの上も拭いたし、溜まっていた洗濯物も洗って干したし、換気もした。完璧だろう。


シンクを丁寧に掃除していた結菜も終わったようだ。


「とりあえず一度休憩をしよう」


キリがよかったので休憩を提案した。


「さんせーい。あっ髪に埃がついてる」


「え?俺の?どこだよ」


結菜が俺の目の前に立った。ちょっ・・・下をのぞくと・・・ぶかぶかのTシャツの隙間からクリーム色のブラがチラリと・・・。


「はい」


結菜が俺の髪についていた埃を取ってくれた。その時にブラが見えていたとか本人は気づいてないんだろうなぁ。


「あっ・・・ありがとう・・・」


俺は上を向きながら答える。さすがにこれはこみ上げるものがある。女の子と2人っきりの共同生活ってこんなんなんだな・・・。俺の理性、持つのか?


「ゴミを片付けただけでだいぶ部屋が広くなったね」


「たしかになぁ。自分の部屋じゃないみたいだ」


「これからはこの状態を維持するように」


「はいはい」


男だったらきれいなものは汚したくなるだろう?


「つーか今日の夜からお前寝床どうすんの」


昨日は途中で寒くなって俺のベッドに入ってきたけど、毎日そんなことをしていたら俺がいつ獣になってしまうかわからない。でも・・・敷布団はない。床で寝ることになってしまう。


「一緒に寝ればいいでしょ」


さも当然とばかりにすらりとそんな言葉を言う。この子には男と寝るという恐怖心などはないのだろうか。あるいはもう死んでるからどうでもいいのか?


「あのなぁ・・・それじゃ俺の理性が・・・」


と言おうとしたところで思い出した。結菜を幸せにするには極力結菜の願いなんかは叶えてあげなければダメなんじゃないのか?例えば100万円が欲しいだとかイケメン俳優と結婚したいだとかそういう願い事は簡単に叶えられないにしても、一緒に寝てあげるっていうのはお金もかからない。俺の意識の問題だ。


「分かった。一緒に寝よう」


「それじゃ、大掃除の後半戦始めましょ」


「おう」


「今度は私が浴室を掃除するから、あなたはトイレをお願い」


「りょーかい」


各々自分の掃除する場所に散っていく。トイレも結構ヤバいな。かなり長い間掃除してなかったから黒いものが現れてきている。


洗剤を投下してトイレブラシで根気よく擦っていく。この惨状を女の子に見せるわけにはいかなかったな。何度擦っても取れない頑固な汚れを無心で擦って落としていく。


手も疲れる・・・意外とパワーが必要だ。なるほど、たしかに結菜の選択は正しかったのかも。トイレ掃除は男向きだな。


「ひゃん!?」


・・・トイレの隣にある浴室からやけにかわいい声が聞こえた。なにごとかと思い俺は浴室まで見に行くことにした。


バッと、浴室の扉を勢いよく開ける。


「結菜!どうした!?」


「思いっきり水を頭から被った・・・」


そこにいたのは、ずぶ濡れの結菜だった。Tシャツが肌にべったりとくっついていて、さっき生でみたブラジャーがくっきりと透けている。


「・・・ってどこ見てるの!?」


自分の透け具合に気づいたのか、顔を真っ赤にしながら手で胸を隠す。


「とっ・・・とりあえず拭けよ!」


バスタオルを渡してすぐさま掃除場所のトイレに戻る。なんだか女の子って意外と隙だらけだよなぁ。


女の子と暮らすとこうもラッキースケベに遭遇できるのか。


こうなると掃除になんか集中できない。さっき見た結菜の透けたクリーム色のブラと、真っ赤に染まった顔、そればっかりが頭の中でグルグルしている。


それでもシャコシャコとトイレブラシを動かしていたらそれなりにキレイになった。よし、もう大丈夫だろう。


「ふう・・・こんなもんか」


独り言を言って、額の汗を拭う。それだけで満足感が訪れて、これ以上掃除はしたくないという感情に覆われる。


俺がトイレから出ると既に結菜は掃除を終えていた。


「お疲れさま。あっTシャツ濡れちゃったから、新しいのを借りた」


「おう。結菜もありがと、手伝ってくれて」


結菜を見るとたしかにTシャツが青色のTシャツにかわっていた。だけど・・・俺は胸の中心に目がいってしまう。あれ・・・なんか小さな突起が2つ出ていないか?あれってもしかしてちく・・・そうかブラも濡れたから今ノーブラなのか?つーかパンツは?


「ところで夕食なんだけど」


「ああ、夕食はコンビニ弁当かなにかにしよっかなーって思ってるんだけどどうか?」


「それなら私が作ろうか?」


「えっ、いいのか?ってか料理できんの?」


「これでも一応女の子だからね。それに住まわせてもらってる身だし、なにか恩も返していかないとね」


作ってくれるならそれほどありがたいことはない。コンビニ弁当よりおそらく安く済むだろうし、栄養価も全然違う。さすがに男の一人暮らしじゃ自炊のメリットを知っていても自炊なんて出来ないからな。面倒くさいし。


「じゃあお願いしようかな」


「うん。あとで食材を買いに行きましょう」


ブラとパンツ乾くのかな?それまでに・・・。乾かなかったらノーブラノーパンでスーパーまで行くつもりなのかな?もう16時だぞ・・・。そろそろ行かないと夕飯時に間に合わない気がするけど。


でも、ノーブラで行くの?とかパンツ乾いた?とか訊けねえよなぁ。デリカシーのない男だと思われてしまう。


とにかく今の結菜は見ることさえ目の毒だ。なんだあの鈍感女は・・・。自分の突起物が見られてるなんて絶対気づいてないでしょ。


「ところでさ、明日も休日だけど・・・どこか行きたいところとかあるか?」


俺は結菜を見ないようにして、明後日の方向に語りかけるように訊く。結菜を見たら突起物に目がどうしてもいってしまうはずだから。


「うーん、いきなり言われると思い浮かばないね。そうだなぁ」


俺の問いに結菜は悩み込む。たしかにいきなりすぎたな。というか俺は結菜のことをこれっぽっちも知らないんだな。インドア派なのかアウトドア派なのか。誕生日も血液型も趣味も特技も知らない、けど好物なら今日覚えた。おしるこっと。


「でも今日疲れたでしょ」


「たしかになぁ」


たしかに疲れた。肉体的な疲労ももちろんあるけど。精神的にかなりすり減らされている気もする。ラッキースケベに・・・。


「だったらわざわざどこかに行かなくてもいいんじゃない?ここでゆっくりしていればいいと思う」


「たしかに、俺もそこまでアウトドア派ってわけじゃない。明日は家にいようか。つっても今日も今のところコンビニぐらいにしか出かけてないけどね・・・」


「そうしましょ」


そんなやり取りをしつつ俺たちは床に横になって少しだけ寝た。きれいになった部屋で、ほどよい疲労感を感じながらだったからとても気持ちのよい昼寝になった。


なんか、結菜といると・・・落ち着く。

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