3回目
僕は目を覚ました
いや、目が覚めてしまった
じっとりと汗ばむ暑さに、目を閉じ続ける事が出来なくなったのだ
ゆっくりと目を開くと、木目の天井とありふれた照明が見えた
「ここは・・・・」
頭がだんだんと冴えてくると、徐々に自分がどこにいるのか、どんな人生を送ってきたのかを思い出してきた
そう。ここは僕の家だ
田舎から出て来た僕がやっと見つけた家
多少会社からは遠いが、良い感じの本屋さんや雑貨店があったかココに決めたんだ
もちろん家賃が安い事も決め手のひとつだった(主にこれが要因だった)
この家を借りた時は、春からの新しい仕事、新しい生活への期待で胸を膨らませていた事を思い出す
だけど、それが間違いだった。その全てが間違っていた
少し早めに引っ越しを終え、ゆっくりと家の周りを散策したりお店を見て回ったりしていたのは入社式の前までの話だ
いざ働き出してみると、なんというか・・・一言で言えばイメージと違った
なんとか僕が就職出来た会社は、世に言う(ブラック企業)というやつだったのだ
日が出る前に出勤し、なんとか終電で帰宅する。休日なんてものはまるで最初からなかったかのように、毎日毎日働いた
当然本屋を巡る時間などなく、そもそも本を読む事すら無くなっていた
「今何時だ・・・」
暑くてダルい体を無理やり起こし、スマホに手を伸ばすが充電器がコンセントから外れており、電池が切れていた
焦ってテレビをつけた僕が見たものは、11時を告げるテロップと、僕の人生には全く縁が無いであろう高級な料理の食レポをしている芸能人だった
「・・・ははは」
充電器を繋ぎスマホの電源をつけると、大量の不在着信が入っていた
その瞬間僕は何かを悟った
僕にはもう無理だ
誰でも出来るような仕事を毎日こなし、買いたい物も買えずに我慢の日々
残業代を付けることも許されず、お金だって財布に数千円しか入っていない
こんな修行のような毎日に耐える事が出来ないと気づいてしまったのだ
「もう・・・いっその事死んでしまおう」
これから生きていても楽しい事なんてない。僕よりも遥かに楽をして、一日で僕の年収以上のお金を浪費しながら過ごす人もいるのに、この差は何なんだ
そんな事を考え出すと、自分が生きている意味が、この苦痛に毎日耐え続ける意味が全く無いように思えたのだ
「痛いのは嫌だな」
ゆっくりと眠るようにこの世から居なくなりたい
今の僕の願いはそれだけだった