おやすみなさい
彼女は話をこう続けた。
「そこであなたは蘇ったってどういう事だと私に噛み付いて来ましたが(文字通り噛みつかんばかりの剣幕でしたが)、その質問は次の人生が終わってからにしてくれと言うと、その質問はしなくなりましたね」
話は全く見えないが、話を聞くうちにだんだんと頭が落ち着いてきた僕は、やっと彼女以外にも目を向ける事が出来た
どうやらここは学校のパソコン室のようなところみたいだ。窓も時計も無いため時間は分からないが、照明のせいかやけに明るい
「そしたら次に僕はなんて質問したんだ?」
少しでも新しい情報が欲しかった僕は彼女に尋ねた。
そう、尋ねてしまった
「大和さん、あなたは本当に学習しませんね。せっかく毎回注意してあげてるのに、あなたは今までに3回も同じミスで質問する機会を潰してしまってるんですよ?さすがの私も激おこを通り越して呆れ果てますよ?」
確かに彼女の話を全て真に受けるならその通りだ。次はなんの質問をしたのか?と聞くことも質問と捉えられて然りだ。
「ちょっと待って!やっぱり今のは無し!君のペースで話を進めてよ。えっと・・・」
僕はなぜか謝りながら話を促したが、彼女の名前すら知らないことに気がついたが、思わずうっかり名前を聞きそうになったのを踏みとどまった。
「おぉ!すごいじゃないですか!進歩しましたね!今までにも何回か私の名前や呼び方を聞いてきたので、その度に得意の正拳突きを喰らわして差し上げた甲斐があります!」
正拳突きを喰らった記憶は無いが、少し腹部が痛んだ気がした
「まぁ私の事は好きに呼んでくれても構いませんよ。おい女子高生でも、おい天使っぽい娘でもなんでも構いません」
「君は正しく僕が聞きたい所を正確に狙ってくるな。本当は僕に質問させたいだけなんじゃないか?」
そう尋ねると彼女はニヤリとした。きっとこれが世に言う小悪魔風なリアクションなのだろう
「でも、やっぱり呼び名が無いのはしっくりこないから勝手に呼びかたを決めさせてもらうよ」
彼女はまるでどうぞとでも言うように、アメリカのホームドラマでしか見た事がないぐらいに肩をすくめた
「じゃあ・・・千尋・・ちゃんって呼んでもいいかな?なぜだか君をみた瞬間にこの名前が頭に浮かんだんだけど」
名前を聞いた瞬間、彼女から今までのイタズラっぽい表情は消えて、どこか悲しげな顔をしていた
「あなたって人は本当に・・・」
泣いている?
「もういいです。今回の質問は次回に持ち越すので、早く次の人生に向かって下さい。ほら、座って!」
彼女はぶっきらぼうに、近くにあったパソコンの前の椅子に僕を誘導した。
「ほら、早くこれを着けて下さい。いいから、早く!」
何だこれ。アイマスク?ただでさえ質問出来ないのに、泣いている彼女はその質問すら受け付けてくれそうには無かった。
僕はしぶしぶ彼女の言うとおり、椅子に座りアイマスクをつけた。
「ほら。そこでいつものセリフですよ。早く!」
なかなか無茶を言う。百人が同じ状況に置かれたら、百人が無茶を言うなと腹を立てただろう
でもなぜか僕の頭には言葉が浮かんでいた
「おやすみなさい」