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第三話 イケメンの宿命

 ジリリリリリリリリーン!

 静寂を突き破る、凄まじい目覚まし時計の音。

 ふかふかの羽毛布団の中から、細長い右腕が伸びてサイドテーブルの時計を探る。

 その間も、丸い時計はけたたましくベルを鳴らしながら振動し続けている。

 腕は、ようやく時計を探し当て、ベルを止めるボタンを押す。

 けれど、ベルは鳴りやまない。

 三回以上ボタンを押すと、ベルは鳴りやまなくなる……目覚まし時計の説明書には、確かそう書かれていた。無駄だと知りつつも、人差し指で何度もボタンを押してみる。

 リリリリリーン! ジリリリリリーン! ジジジジジーン!

 勝ち誇ったように、一層大きく鳴り響くベルの音。ついに、ボタンを押すのを諦め、ベットの住人は、布団に潜り込みベルの騒音に耐えた。

 ふわふわの布団の中からは、くぐもったうなり声が聞こえる。

 と、荒々しく階段を駆け上がって来る足音が近づき、部屋のドアがドンドン! と乱暴に叩かれた。

大輔だいすけ! いい加減に起きなさい!」

 目覚まし時計も負けそうなくらいの大声だ。

「学校寄った後、ママは仕事に行かなきゃならないんだからね!」

 勢いよくドアが開けられ、鳴り響く目覚まし時計めざし、母親が大股で突進してくる。

「今日くらい時間通りに起きなさいよ! 転校初日なんだから!」

 スーツ姿の母親は、丸い時計を掴むと、後ろの蓋を開け、電池を抜き取って、叩きつけるようにテーブルに置いた。

「ママも忙しいの分かってるでしょ!」

 母親は、羽毛布団を力任せにはぎ取ると、部屋を横切り、バタンッ! と乱暴にドアを閉めて出ていった。

 再び訪れる、穏やかな静寂……。

「……ううう〜ん」

 うめき声と共に、布団をはがされたベットの中の住人は、ようやく起きあがった。

 開ききらない眠そうな瞳、薄茶色のボサボサの髪の毛、だらしなく開いた半開きの口。

 どう見ても、イケてない寝ぼけ面、のはず……だが、彼、望月大輔もちづきだいすけには、そんな寝起き姿さえ絵になる、『美少年』オーラが漂っているのだった。

 上半身裸の胸にシルバーのクロスネックレス。

 左手の腕にはシルバーのブレスレットが三つ。

 両耳にはシルバーのピアス。

 彼は、カールしたみたいな長いまつげを瞬かせ、大きく伸びをして欠伸をすると、大人しくなった目覚まし時計の横のケータイに手を伸ばした。

 ケータイの電源は、寝る前には必ず切っている。

 もし、電源をONにしていると、一晩中眠ることが出来なくなるからだ。

 予想通り、電源をONにしたとたん、次から次へと、メール着信音が鳴り始める。

「ゲッ……昨日、メアド変えたばっかなのに……」

 片手で寝癖頭をクシャッとかきあげ、まだ完全に開ききらない目で画面を見つめる。

 送信者は、ほとんど前の学校の女生徒達だった。

 学校には、大輔のファンクラブまで作られていたくらいだ。

 中には先生や近所のおばちゃん達からのメールもあった。

『大ちゃんがいなくなて、先生寂しいなー』

『なんでメールくれないのぉ』

『転校先で浮気いちゃやだよ』

『いつまでもわたしだけの大ちゃんでいて〜』

 絵文字、顔文字、ハートマークの嵐。年齢関係なく、どのメールも女の子していた。

 大輔はすぐに電源をOFFにして、欠伸とため息が混じったような声を漏らした。


「大輔ー! 何やってんの! 置いてくよー!」

 階段の下から、地響きのような母親の怒鳴り声が聞こえ、大輔は我にかえる。

「郵便受けの手紙なんとかしなさい! 新聞も入らなかったんだから!」

 メール攻撃だけでなく、どこかから大輔の引っ越し先住所を知った女の子達は、アイドル並に大輔にファンレターを書いたらしい……。

 大輔は弾みをつけると、ベットから飛び起きた。

 淡いブルーのカーテンを引き、窓を開ける。

 明るい日差しと、少し強い春の風。

「さぶっ」

 暖かくなったとは言え、裸の身にはこたえた。

 両手を交差して、震えながら腕をさする。

 見上げた空は、抜けるような青空だった。

「風、強いな……あれ?」

 青い空から風にのって、ひとひらの桜の花びらが舞い込んできた。

 花びらは、ヒラヒラと落ちてくると、大輔の胸にピタッと貼り付いた。

 その桜の花びらが、翔太と千尋の出身幼稚園の桜の木から飛んできたことなど、その時の大輔は知る由もなかった。








 

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