エピローグ
二人を残して、翔太は走る。
いつもの道を変えて、一つ先の駅まで行くつもりだ。
逃げても、いずれ二人には学校で会うのだけれど……。
今は、逃げることしか頭になかった。
──あ〜あ、何でかなぁ……。
千尋のことが好きだけど、茜を振ることが出来ない。
自己嫌悪に陥りながらも、翔太は必死に走った。
「翔太!」
いきなり、脇道から、翔太を呼ぶ声がした。
驚いて立ち止まると、そこには大輔が立っていた。
「おはよ」
彼には珍しく、顔に笑みを浮かべている。
「そんなに焦んなくても、まだまだ遅刻しやしないよ」
「や、そんなんじゃないんだ」
風が吹いて、サワサワと木の葉の揺れる音がする。
全速力で走り、汗ばんだ体には心地よかった。
ちょうど、さくら幼稚園の横まで来ていた。
思い出の『桜の木』は、青々とした葉が茂り、初夏の風を受けて揺れている。
「どうかした? 何か息上がってるね」
「や、ちょっと一騒動あって」
「ふ〜ん、あ、これ、返す」
大輔は唐突に、青い傘を翔太に差し出した。
随分前に、翔太が大輔に貸していた傘だ。もう貸していたことさえ忘れかけていた。
「遅くなってごめんな」
「あぁ、別に良いよ」
翔太は青い雨傘を手にする。
だか、今日は梅雨の合間の晴天。雨が降りそうな気配もなかった。
家に持って来てくれた方が良かったような……今から持って行くのは荷物になるような……。
「今朝、傘立て見て思い出した、借りてたこと」
困ったような複雑な表情をしている翔太に、いつものマイペースを崩すことなく、大輔はサラッと言ってのける。
「あ、そう。もしかしたら、天気予報外れて雨になるかもね」
先に歩き出した大輔の後を追い、翔太は傘を持って歩く。
「なんか、僕、大輔の気持ち分かるな」
真っ青な空を見上げながら、翔太は言った。
「は?」
「いつも女の子に追いかけられて、付きまとわれて、ちょっと羨ましいなぁと思ってたけど、結構大変だね」
大輔に目を向け、翔太はフッと笑った。
「イケメンにはイケメンの苦労があるんだ」
「そうか。じゃ、やっぱ、今度一緒に女装してみる?」
「……や、それはちょっと。って、何でそういう流れになるかなぁ?」
「たまには女になってみるのも悪くないぜ。女の気持ちが分かったりするし」
「ホントに?」
「彼女の服を買うようなフリして女の子の服買ってみようか?」
「はぁ……それはどうかなぁ」
「女になって女の視点で男を見ると、男の良し悪しも分かってくる」
「ふ〜ん、そういうもんなんだ」
「翔太は合格だな」
大輔は急に足を止めて、言葉を切る。
「は……?」
「俺が女なら付き合っても良いって思う」
「……」
翔太はマジマジと大輔の顔を見る。
「『女』だったら、だよね?」
冗談で言ってるのかと思ったら、大輔は真顔だった。
出来れば、軽い冗談であって欲しかったのだが。
「俺、恋愛は自由だって思う。好きになれば、同性も異性も関係ないさ」
「……マジ?」
翔太を見つめる大輔の視線が、どことなく熱いような気がして、翔太からサッと血の気が引く。
──や、僕にはそういう趣味は……。
「やっぱ、今日は走ってく」
大輔の声が後ろで聞こえたが、翔太は振り向かずダッシュで走る。
いつの間にか春は過ぎ、春の嵐はおさまったが、
『恋の嵐』は、まだまだおさまりそうもない。
おさまるどころか、益々荒れそうな予感。
夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、再び春が訪れても、きっと、嵐は続くのだろう。
泣いたり、怒ったり、笑ったり、落ち込んだり、その繰り返し。
躓きながら、転びながら、立ち止まりながら、それでも嵐の中を走って行こう。
悩んだ分だけ、大人になれる気がした。
これから吹き荒れるであろう嵐に、どう立ち向かっていこうか……?
今度の嵐は、かなり猛威をふるいそうだ。
『恋の嵐』の中を駆け抜けるように、翔太は走る。
──取り敢えず、今は学校までダッシュ!
ランニングするには、朝から強すぎる直射日光。
翔太の額から飛び散る汗が、初夏の日差しにキラリと光った。 了
ようやく完結しました〜!
最後まで読んで下さった方々、ありがとうございました。
「春企画」だったんですが、投稿期限の春までには完結出来ず…^^;、悔やまれます。
完結まで四ヶ月ほどかかりました。その間楽しく書くことが出来ました! 企画を開催してくださった茶山ぴよさん、本当にありがとうございました。今まで投稿した作品の中で、多分一番アクセス数が多いと思います。一日千を超えることなど、私には到底無理だと思ってましたけど、企画参加の皆さんのお力もあり、初めて千を超えた日もありました。(一日だけでしたが…)
ストーリーの方は、まだまだ続きそうな感じですが、これで終わりです。(^^)最初からこういう終わり方にしようと思ってました。これから二転三転しそうな、結構現実的なような…(^^;)ハッピーエンドかどうかも分かりません。
この後のストーリーは、読者の皆さんの頭の中で、色々いじってもらっても構いません。(^^)
四ヶ月も書いてると、完結出来て嬉しい反面、なんとなく寂しい感じですね。でも、また次の作品に進むためには、終わらせなければ! で、次回は今回よりもっと良い作品が書けるよう、頑張らなければと思ってます。
最後になりましたが、原案を提供してくださった、藤田文人さん、楽しい設定を書かせてもらってありがとうございました! かなり設定を変えてますが…気に入ってもらえたら嬉しいです。
では、また次回作でお会いしましょう〜