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第二十六話 初めてのデート

「あっ、おはよー、千尋」

「なんだ、元気そうじゃん!」

「停学処分で落ち込んでるかと思ったよ」

 次々に声をかけてくる生徒達に笑顔をふりまきながら、千尋はスキップするように駆け抜けて行く。

「一週間の休みで充電完了よ!」

 席に着いている大輔の姿を発見すると、そのまま彼の元に走って行った。

「大輔君、おはよー」

「あ、おはよ」

 満面の笑みで大輔に挨拶するが、大輔はいつもながら、眠そうな顔をして千尋を見上げただけだった。

「家まで鞄を届けてくれてありがと。大輔君の家って、割と近所なんだね」

「え、あ、まぁ」

「ねぇ、ねぇ、聞いた?」

「え、何?」

「あたしと翔子ちゃんが公園で会ったこと」

「翔子……?」

 千尋の話を聞き流し、欠伸をしそうになっていた大輔は、慌ててその欠伸を飲み込んだ。

「やだ、聞いてないの? あたし、犬の散歩に行った時、偶然、公園で翔子ちゃんに会ったの」

「へ、へぇ〜」

 大輔は、ややオーバーリアクション気味に、目を丸くして驚く。

「大輔君と翔子ちゃんって、そっくりなんだから、ビックリしちゃった。兄妹で話ししないの?」

「まぁ……男と女だからね」

「二人ともクールだもんねぇ」

 千尋は大輔に顔を近づけ、マジマジとその整った顔を見つめる。

 見れば見るほど、この前会った妹と似ている。

「ね、今度、家に遊びに行っても良い? 翔子ちゃんにも会いたいな。あたし、翔子ちゃんに元気づけられたの。彼女とは気が合いそうだし」

「ふ〜ん」

「いつ会えるか、翔子ちゃんに聞いといてね」

「あぁ、うん」

 大輔は目を泳がせながら、曖昧に答えた。





「それ、新しいメガネ?」

 日曜日。翔太は、茜をデートに誘った。

 待ち合わせ場所に、チュニックのワンピースを着て来た茜は、それによく似合う淡いピンク色のメガネをかけていた。

「あ、はい。昨日、千尋さんと買い物に行って、メガネを選んでもらった後、一緒に服も買いに行って。この服も千尋さんに選んでもらったんです」

 茜は上目遣いに翔太を見つめる。

 茜にとっては、生まれて初めてのデート。

 昨日の晩からかなり緊張していた。

「そっか。よく似合ってるね」

「千尋さん、おしゃれだから、センスありますね。私は全然ダメです。洋服はいつも母が買って来るの着るだけだし」

 翔太は、茜を眺める。

 茜が着ているワンピースは、千尋好みの服だった。

 おしゃれは千尋の趣味のようなものだ。

 デートのたびに、千尋はショップで買い物していた。

 鞄、靴、アクセサリー……。千尋のお小遣いは、おしゃれの品を買いこんで、直ぐになくなってしまう。

「千尋さん、優しいですね。私、最初は千尋さんと買い物行くの、なんだか怖かったんです。でも、一緒に買い物して、楽しかったです」

 茜はニコリと笑い、幾分緊張が解ける。

 我が儘で自分勝手なとこもあるけれど、千尋とのデートはいつも楽しかった。

 翔太は、今までの数え切れないくらいの、千尋とのデートのことを思い出す。

 その全部が、全て過去形になってしまったことを、少し寂しく思う。

「で、どこ行こうか?」

 翔太は頭の中の千尋を追い払い、気持ちを切りかえて、茜に微笑みかける。

「どっか行きたいとこある?」

「えーと……私、デートなんて初めてだから、どこに行ったらいいのか……」

「茜ちゃんの行きたいとこでいいんだよ」

「……じゃあ、図書館で良いですか? 借りたい本があるんで」

 しばらく考えた後、茜は思い出したように言った。

「図書館? 良いよ」

 デートでは初めてのコースだった。

 翔太も千尋も公共の図書館には行ったことがない。

「小笠原先輩、覚えてます? 私と初めて会ったの学校の図書館でしたよね」

 茜はほんのりと頬を染めて笑う。

「あ? そうだったっけ」

「なんか運命的な出会いでしたよね……」

 遠慮がちに、茜は片手を翔太に差し出す。

「先輩、手を繋いでも良いですか?」

「あ、うん」

 翔太は、少し汗ばんだ茜の小さな手を繋ぐ。

 翔太にとっても、千尋以外の女の子とのデートは初めてだった。

「暑くなりそうだね」

「帽子、被って来た方が良かったかも……」

 春の柔らかな日差しはすっかり遠のいて、頭上からは初夏の強い日差しが降りそそいでいる。

 本格的な夏がやってくるのも、そう遠くはないだろう。

 翔太と茜は眩しい光りを浴びながら、手を繋いで歩き始めた。 









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