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第二十二話 初めての停学処分

 フレームが歪み、ガラスにひびが入った茜のメガネが、廊下に転がっている。

 茜は、倒れた拍子に窓枠に頭をぶつけ、額から血を流していた。

 教室や廊下から、生徒達の悲鳴が次々に沸き上がる。

 一瞬のうちに、騒ぎが広がっていく。

「……」

 千尋は茫然として、その様子を見ていた。

「茜ちゃん、大丈夫?」

 千尋同様、突然の出来事に唖然として突っ立っていた翔太は、茜の額の血を見て我にかえる。

 千尋を一瞥すると、翔太は茜の元に駈け寄った。

「……だ、大丈夫です」

 殴られた茜自身、まだ事態を飲み込めていない。

 千尋に殴られた頬が、痺れるようにジンジンと痛む。

「多分」

 頭にも鈍い痛みを感じ、茜は片手で頭をおさえた。

 その手にベットリと真っ赤な血がつく。

「血……!」

 赤く染まった自分の手を見ると、茜は悲鳴を上げる。

 ドクドクと額から流れ出る血の量に驚き、茜は気を失った。

「茜ちゃん!」

 驚いて茜の肩に手をかける翔太。

 青ざめた顔で、体を震わせている千尋の耳に、知らせを受けた教師達の声が聞こえてきた。




 気がついた時、茜は保健室のベットに横になっていた。

 頭の痛みは、もうない。触ってみると、頭には包帯が巻かれていた。

「小笠原先輩」

 ベットの傍らには、翔太が立っていた。

 目覚めた茜を見て、翔太はニコリと微笑む。

「私、気を失って……あの後どうなったのか覚えてなくて」

 翔太を見上げ、茜は口を開く。

「かなり血が出てたけど、傷は深くないって保健室の先生が言ってたよ。念のため今日は早退して、病院に行った方がいいってさ」

「今、何時ですか?」

 ぼやけた目で、茜は辺りを見回した。

「一時間目が終わった休み時間。気になったから来てみたんだ」

「ありがとうございます」

 茜は緩く微笑み、ベットの横の台にメガネが置かれていることに気付く。

 フレームが歪み、ひびの入った黒縁のメガネ。

 メガネをかけてないと、全てのものがぼんやりと見えた。

 翔太の笑顔もぼやけて見える。

「あの……千尋さんは……?」

 茜が言いにくそうに口ごもると、ぼやけた翔太の笑顔も一瞬くもった。

 頭の痛みより、千尋に殴られた頬の痛みの方が強烈だった。

 未だに頬がヒリヒリと痛む。

 怒りと憎しみでいっぱいの千尋の顔が、鮮明に目に浮かんでくる。

「千尋のママと一緒に校長室に呼ばれてる」

 低い声で翔太は言った。

 茜目がけて走って来た千尋は、迫力あったが、茜が倒れた後の千尋は、見てても痛々しいほど怯えきっていた。

 何か言いたげに翔太を見ていたが、結局千尋とは言葉を交わしていない。

「何も殴らなくていいよな……」

 千尋が茜を殴った原因が、自分にもあることは分かる。

 とっさに手が出て、今は後悔していることも、よく分かる。

 千尋の気持ちは手に取るように理解出来るのだが、翔太は千尋に対してどう接したらいいか分からなかった。

「……千尋さん、先輩のことがすごく好きなんですね」

 ほっぺたをさすりながら、茜がポツリと言った。

 そんな茜を見下ろし、翔太は何も言えなかった。




「知ってる? 千尋、一週間の停学処分になったんだって」

「やっぱ、暴力はまずいでしょ」

「怪我がもっと酷かったら、警察沙汰になってたかもね」

「にしても、千尋ってまだ翔太に未練あったんだ?」

「複雑なんじゃない? 元彼に彼女が出来るって」

「人のことは言えなさそうだけど」

 面白おかしく、千尋のことを噂するクラスの女子達。

 聞きたくなくとも耳に入ってくる話にうんざりし、大輔は鞄を手にすると教室を出ていった。

 千尋はその日、一度も教室に戻って来なかった。

 校長と話し合った後、そのまま母親と家に帰ったらしい。

 千尋が『一週間の停学処分』になったことは、直ぐに学校中に知れ渡っていた。


 大輔が校門を出たところで、ゆっくりと先を歩いている翔太の後ろ姿が見えた。

 彼は、両方の手で、自分の鞄と千尋の鞄を提げている。

 翔太がとぼとぼと、あまりに遅い足取りで歩くもので、大輔はすぐに翔太に追いついた。

「千尋ちゃんの家に行くの?」

 翔太の横に並んだ大輔は、チラリと千尋の鞄を見て、ボソッと言った。

「え? あ、まぁ……クラス委員だし、千尋の家と近いし、先生に鞄届けてくれって頼まれて」

 翔太は軽く息を吐く。

 千尋の家に行くのは気が重い。今は、千尋にも千尋の家族にも会いたくはなかった。

「そうだ、望月君が届けに行けば良いよ。その方が千尋も喜ぶだろうし」

 翔太は立ち止まると、大輔に鞄を差し出す。

「今は僕が行かない方がいいや」

「けど、俺、千尋ちゃんの家知らない」

「マジ?」

 翔太には意外だった。てっきり、もう千尋と大輔は家を行き来するくらい親しくなっていると思っていた。

「彼女とは、学校での付き合いしかないし」

「なんだ、じゃ、教えてやるよ」

「やっぱ、小笠原君が行った方がよくない?」

 大輔は言った。

 今千尋が側にいて欲しいのは、翔太のような気がする。

「何でだよ? な、頼む。今日は千尋のとこ行ってやってくれよ」

 翔太は大輔に千尋の鞄を押しつけると、両手を合わせて合掌する。

「千尋んちの前まで案内するから」

「はぁ……」

 大輔は渋々翔太から鞄を受け取った。

 翔太はホッとして、さっきの何倍ものスピードで歩き始める。

 翔太もずっと千尋のことが気になっていた。

 初めての『停学処分』が決まった千尋は、かなり落ち込んでいるだろう。

 本当は、直ぐにでも飛んでいって、彼女を慰めたかった。

 けれど、今は出来ない。

 今は大輔に任せておこう、翔太はそう思った。  











「春企画」は今日で終わりです……^^; 期間内には完結出来ませんでした。途中、別企画に寄り道したりして…というのは言い訳でして、期間内に終了出来なかったのは、ちょっと残念です。

でも、連載は完結するまで続きます〜最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。(^^)

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