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第一話 十年目の春

「タッチ!」

「タッチ!」

 二つの手が、勢いよく同時に木に触れた。

 満開を過ぎた桜の木の下に立つ、制服姿の高校生二人。

 幼稚園の時より随分大きくなって、幹に触れた位置は高くなったけれど、二人の心はあの日と変わらない。

 もう片方の右手と左手はしっかりと握り合っている。

翔太しょうた、あれから十年経ったんだね」

 少女がニッコリと微笑んだ。カールしたお下げ髪が、春風に揺れる。

「うん、千尋ちひろも僕も大きくなったよなぁ」

 少年も微笑み返し、桜の木を見上げた。十年前は、桜の木が今よりもっと大きく見えた。

 それは、木が小さくなったんじゃなくて自分たちが成長した証拠。

 あの日のように、ハラハラと舞い散る桜の花びらが、風が吹くたびに紙吹雪みたいに落ちてくる。 暖冬で桜の開花が早かったせいか、既に桜の葉が生え、葉桜になろうとしていた。

「あの日のこと、もちろん覚えてるよね。こうやって桜の木に誓ったこと」

 千尋は幹に触れた二つの手を見つめる。

「もっちろん! 毎年、こうやって桜の木の下で、お互いの気持ちを確かめ合ってるじゃないか。今日は僕らの婚約記念日だもんな」

 二人は顔を見合わせて笑いながら、繋いだ手をしっかりと握り合う。

 四月にしては熱すぎる日差しが、二人の熱気で更に熱くなりそうだった。

──翔太は、幼稚園の時と顔も髪型もあんまり変わってない。もうちょっと背が伸びるかなって期待してたけど、結局幼稚園の時と同じで、あたしとあまり変わらない。高二にしては幼く見えるかなぁ……でも、笑顔がかわいいし、何よりすっごく優しいから好き!

 千尋は幸せ満面の顔で翔太を見つめる。

──千尋は、幼稚園の時のまま大きくなったって感じだなぁ。まだまだ女の子って雰囲気だし、体型も女というより少女だし……胸、もうちょっと大きくなるかなって期待してたけど……や、や、本当は巨乳だったりして……。

「翔太どうかした?」

「えっ……? ううん、今日の千尋は特にかわいいなって見とれてたんだ」

 翔太は千尋の胸あたりを見つめていた視線をササッとずらし、頬を染めて照れ笑いする。──ホントに千尋はかわいいよ。大好きだ!

「翔太、今年も桜の木に誓おうよ。あたし達の変わらない愛」

「うん」

 頷いた翔太は、軽く咳払いして千尋と向き合う。

「えーと、小笠原翔太おがさわらしょうたは桜の木に誓って、一生千尋を愛し続けます!」

飯島千尋いいじまちひろは、一生翔太を愛し続けます!」


 あの日と同じ、桜の木の下でキスを交わす翔太と千尋。

 朝の忙しい通勤、通学時間も、二人のまわりだけ時がゆっくりと流れていくようだった。

 二人の世界に浸りきっている翔太と千尋には、まわりの視線など全く目には入らない。

 幼稚園のバスが側を通り、園児達が窓に貼り付いてキスする二人を眺めていることも。

 それに気付いた幼稚園の先生が、慌てて園児を窓から引き離していることも。

 幼なじみ達が白い目でドンビキしながら、遠巻きに歩いて行くことも……。


「やだ、翔太と千尋、今年もまたあんな事やってるよ」

「高校でもずーとイチャついてるらしいよ。同じ高校じゃなくて良かった」

「でも、知ってるのかな? あの二人。幼稚園が来年で廃園になるってこと」

「知らないんじゃない。一年中、頭の中春爛漫って感じだし」

 通学途中の少女達はクスクスと笑い合う。

「けど、ちょっとかわいそうかもね。永遠の愛を誓い合った桜の木もバッサリ切り倒されるみたいだから……」

「へぇ、じゃぁ、二人の愛はどうなるの?」

「さぁ、そもそも永遠の愛なんてあると思う……?」


 野次馬達が不吉なうわさ話をしていようとも、今の翔太と千尋には全く関係なかった。

 二人の世界の中には、翔太と千尋しか登場しない。

 第三者や第四者など、入る余地はなかった。

 そう、高校二年に進級するこの日の朝までは……。














 なんだか今日は暑いですね。^^;「らぶらぶ」な二人を書くのが、こんなにも苦しいことだったとは……! いつまでもこんな状態が続くと思っていたら大間違いよ。(フッフッフッ)

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