第十八話 初めてのジェラシー
「あのぅ、あの、今日、二年二組のクラスに行ったら、小笠原先輩が風邪で休んでるって聞いて、すごく心配で、でも、先輩の電話番号もメールアドレスも知らなくて、だから」
茜はそこまで一気に喋ると、一息ついて大きく息を吸った。
「だから、クラスの人に聞いて、先輩の住所教えて貰いました。本当はすぐに駆けつけたかったんだけど、学校抜け出せなくて、でも、先輩のことが心配で、授業どころじゃなかったです」
目の前に立つ翔太をじっと見つめ、茜は続ける。
「先輩! まだ、寝ていてください。起きたりして、大丈夫なんですか!?」
──君がインターホン鳴らすから起きたんだよ──
と、ツッコミたくなるのを我慢しつつ、翔太は笑顔を浮かべる。
「熱下がったし、もう大丈夫」
「そうですか! 良かった」
翔太の笑顔を目にして、茜の顔はバラ色に染まる。
「あの……」
茜は、差していた赤い傘の柄を、恥ずかしそうに片手でクルクルと回す。
「これ、受け取ってください!」
もう片方の手に持っていた花束を、茜はサッと差し出す。
「これ、家の庭に咲いてたチューリップです! お見舞いに持って来ました」
翔太の鼻先に、茜手作りの花束が突きつけられる。
赤と黄色と白のチューリップ。
鮮やかな色だったが、ちょっと開きすぎのような気がした。
「あのぅ……先輩、チューリップは嫌いですか?」
チューリップを見ながら、戸惑っている翔太に茜はたずねる。
「ううん、好きだよ。ありがと」
「そ、そうですか! 好きですか……良かったです!」
花束を受け取った翔太を見つめ、茜は舞い上がる。
──小笠原先輩の笑顔って素敵! とても爽やかで、雨の日なのに晴天みたいな気分になれる! それに、今、先輩、『好きだよ』って、まるで私に言われてるみたいな気がした!
「それじゃ、私、失礼します。先輩、ゆっくり休んで、明日は学校に来て下さいね!」
茜は翔太に向かってペコリと頭を下げると、真っ赤な傘を揺らしながら、雨の中を帰って行った。
翔太はチューリップの花束を持ち、茜の後ろ姿を見送る。
──なんか、一生懸命でかわいいよな。
赤い傘と同じくらいに、顔を真っ赤にしながら、家までお見舞いに来た茜。
最近千尋に冷たくあしらわれ、傷ついていた翔太の心が、ほんのりと温かくなる。
「告白の返事かぁ……」
チューリップを見つめながら、翔太の口元は自然とほころんでくる。
今なら、一つ返事で茜にOKしそうな気分だった。
「年下の子って良いよなぁ」
浮かれた気分で、花束を揺らした時、
開きすぎていたチューリップの花が、三本とも一斉に首から取れた。
「わわ……」
大きなチューリップの花びらは、ハラハラと床に落ち、
翔太の手元には、茎と葉っぱだけになった三本のチューリップだけが残った。
──何よ、あれ……。
千尋は教室の席でケータイをいじりながらも、視線は教室の入り口にくぎ付けになっていた。
翔太と茜が、入り口付近で楽しそうに喋っている。
──まさか、翔太、あの子と付き合うのOKしたわけ……?
自分から仕向けながらも、千尋はふと不安になる。
──私に対する当てつけ?
大輔のことが好き。
だけど、翔太は自分の分身のような昔ながらの幼なじみ。
他の女の子と親しくされると、千尋の心は大きく揺れた。
──そんなことないよね? 翔太が他の子と付き合うなんて。
「あっ、あの子、昨日、翔太の家にいったんだぁ」
不安になった千尋の耳に、更に追い打ちをかけるような会話が届く。
「えーっ! いきなり自宅訪問!?」
「翔太が風邪で休んでるって言ったら、お見舞いに行きたいから住所教えて下さいって言われたの」
「わぁ〜良い展開だねぇ。あの二人!」
「結構良い雰囲気じゃない?」
「あっ、ちょっと……」
千尋に睨まれ、女生徒達は口をつぐむ。
「でも、千尋だって大輔君とさぁ」
小声で続ける女生徒達から、千尋は視線を外す。
確かに、千尋が翔太のことを責めることは出来ない。
同じ事を自分もしているのだから……。
けれど、千尋の心の中で沸き上がってくる、嵐のようなジェラシー。
──翔太のバカ!
ピンク色のケータイの待ち受け画面。
満面笑顔の翔太の画像。
千尋は指に力を入れ、一瞬にして消し去った。




