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第十二話 彼をストーキング!

 自分がこんなにも行動的だったとは、思っていなかった。

 今までは、いつも受け身で、流されるまま生きてきたと思う。

 争いごとが嫌いな、真面目な良い子。

 勉強と読書ばかりしている大人しい子。

 だけど、今日からは違う。

 茜は、洗面所の鏡に映る自分の姿を眺めて、満足そうに微笑んだ。

 昨日は、学校をサボって、美容院に行き、コンタクトレンズを買った。

 入学早々、学校を無断欠席するなど、今までの茜なら考えられない。

 親に内緒で、お小遣いをはたいて買ったコンタクトレンズ。

 まだ、目に馴染まず、少しゴロゴロする。

 もう一度人気美容院に行き、髪を切り、カラーで軽く髪を染めた。

 流れるようなシャギーと明るめの髪は、茜の髪を軽やかにした。

 制服のスカートも裾上げして、短くしてみた。

 唇には、派手すぎないピンクの口紅をつける。

「よし! 完璧!」

 鏡に向かって軽くブイサインしてみる。

 今日も日が昇る前に起きた茜。

 彼に会うには、準備が必要。

 今日は、図書館で出会った彼を探し出さなくては!

 始発の電車に乗るために、茜は食事も摂らず家を飛び出して行った。



 校門が開く前に学校に到着した茜。

 当番の教師が、ガラガラと門を開けるのももどかしく、開かれると同時に、門の横にスタンバイした。

 教師には白い目で見られたが、全く気にならない。

「ある人を待っているんです」

 そう言って、教師をかわした。

 茜以外の生徒は、まだ誰も学校に来ていない。

 時計の針は、ちょうど六時半。

 部活の朝練の生徒さえ来ていない。

 朝日が昇ったばかりの朝は、肌寒い。

 けれど、茜の心は燃えていた。

──絶対に、彼を見つける!

 校門をくぐる生徒を、一人たり見逃すまいと、茜は目をサラのようにして待ちかまえた。



 八時を過ぎると、校門に次々と生徒達が押し寄せてきた。

 茜は疲れも見せず、ただひたすら男子生徒の顔をチェックしていった。

 門の脇に突っ立ち、獲物を狙う獣のような鋭い目つきで睨んでいる。

 本人は気付いていないが、それはかなり異様な光景だった……。

 茜に睨まれた男子の中には、ゾッとして、逃げるように通り過ぎていく生徒もあった。

──いない、いない! 彼がいない!

 目当ての彼がなかなか現れず、焦ってきた茜は、更に食い入るように男子達を見つめ続けた。



 そして、始業のベルがなる少し前、ついに『彼』が現れた。

 遅刻しそうな時間なのに、慌てる様子もなく、彼は俯いてとぼとぼと歩いてきた。

 彼を見つけた瞬間、茜の胸はときめき、彼にくぎ付けになる。

──見つけた! あの人だ!

 喜びに燃える瞳をして、茜は彼を見つめる。

 『おはよう』と明るく声をかければいいだけなのに、茜にはそれが出来なかった。

 今まで、同年代の男の子とまともに話しをしたことさえない。

 まして、彼は初恋の人。

 短い挨拶の言葉さえ、茜の口からは出てこない。

 けれど、再会した『彼』を逃すわけにはいかない!

──追跡しなきゃ! 彼の教室まで追っかけよう。

 次第に遠ざかっていく彼の後を茜は追う。

 少し距離を置き、気付かれないように、

 足音を忍ばせ、茜は彼に着いていく。

 端から見れば、茜はまるでストーカーのようだった。



 教室に続く階段を上る途中で、翔太はふと後ろを振り返った。

 さっきから後ろの方で何かの気配を感じる。

 誰かに見られているような、鋭い視線を背中に感じていた。

「……気のせいか」

 階段には誰もいない。

 翔太はフーッとため息をつき、重い足取りで階段を上っていく。

 結局、昨日も千尋とは口をきいていない。

 翔太がいくら話し掛けても、千尋は生返事を返すだけ。

 千尋はずっと大輔と行動していた。

 千尋に会うのが辛い。

 だが、二人は同じクラスの隣の席。

 会わない訳にはいかない。

 今日も辛く長い一日が始まる。

 そう考えると、翔太の気持ちは沈んでいく一方だった。


──もう少しで気付かれる所だった。

 そんな翔太の心など知らず、

 素早く階段下の影に隠れた茜は、ホッと胸をなで下ろしていた。

 考えてみれば、翔太から隠れる必要など全くないのだけれど……。

 翔太が二階に上がったのを確認すると、

 茜は弾む心を抑えきれないように、軽やかに階段を駆け上がって行った。








 

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